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就職支援会社はどうあるべきか


就職活動という情報戦

就職活動に関連するワードをとGoogleで検索すれば、SEO対策によって検索順位が操作された「どうでもいい情報」が溢れていることがわかる。Googleは本当に必要な情報を与えてくれるサイトではなく、お金が積まれたどうでもいい情報を表示する検索サイトになってしまった。

トップ5%ぐらいの学生たちは情報に意味がないことを最初の5分ぐらいで悟るが、95%の学生たちはインターネットサイトに記載されている情報が「正しい」と認識して行動し始める。

9割以上の学生は「就職活動スキルが高い学生 = 優秀層」と思っているが、私たち社会は「社会で活躍しそうな学生 = 優秀層」と捉えているため、スタート時点で温度差が生まれている。



就職活動とは自尊心が満たされない社会人にとって最高の職場だ
学生は就職活動を通じて沢山の社会人と出会うことになると思うが、出会う大人の9割以上は機械的な仕事をする人間か、自尊心が満たされない大人たちだ。中途半端に社会と向き合った人間の語る「理想論や情熱」に共感してしまう学生は多いが、私からすれば「社会で居場所を失って、自分のことを理解してくれる人を増やしたい残念な人たちが学生の共感を得ることでなんとか自尊心を保っている」という状態にしか見えない。



就職活動で入手する情報フロー
就職活動を通じて学生が入手する情報は下記のようなフローになることがほとんどだ。(もちろん例外はある)

就活情報格差


就活のための就活
まず大手就活会社が皆さんの学校にやってきて「就職活動の方法論」について教えてくれる。ここで皆さんは「自己分析」「企業分析」「適性検査」「エントリシート」のような単語をはじめて出会い、企業を選ぶだけでなくそういった手法を取り入れることが必要なことを学ぶ。

その後は自己分析の本を購入したり、セミナーに参加したりしながら、皆さんの自己分析ノートが埋まっていく。いろいろとやったうえでわかったことは、「自己分析をやってみたが、全く自分のことがわからなかった」という結論である。特に目的がないまま分析をはじめれば当然の結果と言える。


人生の目的
先輩や同僚から「あのセミナーに参加したほうがいいよ」と言われてベンチャー企業などが主催する就活セミナーに参加するようになる。ここで学生は衝撃を受けて感動する。

セミナー講師の方が「内定はゴールじゃない。なぜ働くのかについて真剣に考えよう」みたいなことを言う。その後は講師が大手企業出身で、今まで漠然と働く事を考えていて、自分が流されていることに気づいてベンチャー企業に転職した。人生で本当に大切なことは何かを考えたからこの決断をしたんだ!みたいなスピーチがはじまる。

このセミナーに参加した学生のほとんどは「人生の目的信者」となる。大事なことは人生の目的であり、本当の安定は自分が能力を持つことだと認識するようになる。この段階になればスタンス論だけで採用してくれるようなベンチャー企業から評価されるようになってきて、「この考えが正しいんだ」と確信をもつ学生が増える。

しかし本当に採用基準が高い会社はこの程度のレベルの学生を採用したりしない。その程度の「考え方・理屈」は前提条件でしかないからだ。1次面接は通っても、2次面接で「熱量はあるかもしれないが、言ってることが漠然としていて何がしたいのかよくわからない。」というフィードバックをもらうことが増える。ここで自分が「勘違い野郎だったんだと気づく学生」と、「認めてくれない企業を否定する学生」の2パターンにわかれる。

このパターンの社会人はセミナーじゃなくても、MATCHERなどのOB訪問ツールを活用すればすぐに会える。みんな自尊心が満たされなくて活動意欲が高いので、いくらでも時間をとってくれる。


ビジネス
上記で自分が勘違い野郎だと気付いた学生たちはやがて「ビジネス」とは何かを考えるようになる。PEST(政治・経済・社会・技術)、生産性、ビジネスモデルに興味を持ち始める。今までふわふわしていた自分に気づく。徐々に企業を見下すようなケースが生まれてきて、「あの会社のビジネスモデルはイケてない」「あの業界は伸びないからやめたほうがいい」などと理屈っぽくなってくる。新卒っぽい素直さが極端に欠如して面倒くさい学生になってしまい、最悪の場合上記のフェーズよりも通過率が下がってしまうことがある。知性レベルの高い学生は、ビジネス視点も「鳥の目」「魚の目」「虫の目」のように情報を切り分けることができ、「虫の目」という目の前のやるべきことを明確にするようにうなる。(知性レベルが低いと鳥の目・魚の目にばかり夢中になってしまう)


ビジネスと目的の融合
ここまで辿り着く学生は全体の2%もいないが、必ず毎年ここまで辿り着く子がいる。半分ぐらいは就活をはじめるまえから、この領域に辿り着いている。学生時代の何かしらの活動で優秀な社会人と出会い、良い影響を受けてきたのだろう。(親であるケースが最も多い)残りの半分はインターンシップ、OB訪問、セミナーなど、何かしらの活動を通じて自分から出会いを勝ち取りに行くパターンである。

就活では死ぬほど内定をとるよりは、自分にあった企業を数社だけ受けて承諾するパターンがほとんどだ。


就活にも問題はあるが、学生の資質にも問題はある
就職活動は価値のない情報が溢れているのは事実。しかし毎年最高の情報へと辿り着き、最高の就職活動をする学生がいるのも事実。

まずは就職活動を疑う前に、学生が自分自身を疑うべきだと考える。厳しい言い方をするようだが、毎年くだらない情報に踊らされる学生はなるべくしてそうなっている。

学生の知性を知る際には7つの角度から分析する。
①高校・大学の偏差値(基本スペック)
②知性の段階(OS)
③知識の範囲・経験(HDの中身)
④3を踏まえて知識をどう分解しているか(操作性)
⑤出力の正確性とスピード(メモリ)
⑥未知に対して限られた情報で結論を導き出す力


その中でも②の知性の段階は就職活動のような「素材レベル」の人材を見極める時は役に立つ。ロバート・キーガンの成長発達理論をもとに、大人の知性の3つの段階を免疫マップを活用して人を見極める。最終的に成長発達段階がどこにあるのかを理解する。

知性

図2



知性の段階は「今どのように就職活動をしているのか?」と質問をした後に、なぜ?どうして?を繰り返していけばすぐにわかる。

①環境順応型

就活をする理由はまわりが就活をしているから。就活の方法論も大手の就活サイトに記載されていたことをそのままやっているだけという状態の学生。基本的に自分で何かを考えているのではなく、常に世の中に流されて生きている状態。就活エージェント・親・先輩に就職活動の方法論を依存して、言われたことを言われたとおりにやるだけの状態。就活のための就活から抜け出せない学生。

②自己主導型
自分が大事にしている価値観が言語化されている状態で、価値観に基づいて行動しようとする。この世界に正しい答えなどないとわかってはいるが、自分が納得できる答えのようなものを常に模索している。一度これだと思った時に、それに向かって突っ走るタイプで人生の目的とビジネスを行き来している。

③自己変容型
この世界に正しい答え・理論がないことを理解している。矛盾を受け入れることができる。デザイン思考に近い考え方で、イラストレーターのように1つの絵(答え)を完成させるには何枚もレイヤーをかぶせていく事が必要なことを知っている。


成人の発達段階は主体客体インタビュー・免疫マップを活用していき、相手の人生の深堀をおこなえばどの段階に学生が所属しているのかが見えてくる。

図1

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リクルートマネジメントソリューションズ
“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト” より



成功のプロセスについて

ロバート・キーガン教授による発達理論では、成長を「水平的な成長」と「垂直的な成長」の2つのタイプに切り分けている。

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ロナルド・ハイフェッツは人が直面する課題を「技術的な課題」と「適応する課題」の2パターンに切り分けた。就職活動を「技術的な課題」と捉える学生ほど就活スキル向上を目指し水平的な成長をするのに対して、「適応する課題」と捉える学生ほど「垂直的な成長」をしていく。


意識の高い就職会社は学生を「垂直的な成長」へと導きたがるが、結局のところ学生を「思想信者」にしてしまう。水平的成長も人間には必要不可欠であり、くだらないと思えるような「面接対策」も学生が社会人としての基礎スキルを身に着けるための重要プロセスだ。確かに志望動機を下らないという人の意見には賛同できるが、私からすれば志望動機は主体と客体のバランス感覚を養うトレーニングとも捉えられる。

それにも関わらず水平的成長を否定して自分たちのポジショニング戦略(目的信者)を最優先するケースが見受けられる。垂直的に振り切るなら、それはそれで社会としてはバランスがとれるので悪手の中の悪手にはならないが、人間の垂直的な成長レベルを向上させるのに「葛藤」が必要不可欠であることを知らない人が多い。


葛藤が知性の向上に不可欠である理由は、世界の矛盾とどう向き合うかが重要になってくるからだ。例えば尊敬する上司と働きたいという学生は多いが、東京大学の中原淳さんは「理想の上司とは幻想である」ということを明言している。詳しくは下記サイトで記事を確認してほしい。

https://wotopi.jp/archives/56515


社会はこのような矛盾だらけであり、知性があるほど矛盾が見えてくる。その中で何度も迷い・葛藤し、自分なりの落としどころを見つけて決断していく。この連続の中で本物の知性が身につくのだ。頭がお花畑の「1つの世界観だけを絶対的に信じる人たち」が頭悪く見えるのはそういう理由だ。(一方でこの世界には頭がお花畑のようにみえるけど、裏では葛藤と向き合い苦しんでいる人も多い。表に出さない努力をしているだけだ)


つまり学生を垂直的に成長させたいと思った瞬間から「否定」と「肯定」の連続の中で答えを導いていくことが必要なのだ。肯定だけでも、否定だけでも人は垂直に成長していかない。成長する学生ほど沢山の葛藤を乗り越えているが、本当に重要なのは「成長に葛藤が必要不可欠である」ということを、就職活動後の振り返りで腹落ちしているかどうかだ。

就職活動で「成長しただけの学生」と、「成長をきちんと振り返った学生」はここで違いが生まれてくる。私は就活支援を事業にする中で、自分の部下たちにも「内定おめでとう。社会人になってからも頑張れよ!」という一言をかけるような人間ではなく、就活後に振り返りを手伝うことができる人間であってほしいと心から思っている。振り返りを通じて学生が「矛盾とどう向き合うのか?」「成功とは全てを理解することではなく、わからない事だらけの中に成功がある」事への理解を深めてほしい。だからこそ毎月社内で「行動に大きな変化が見られた人材」をピックアップして、なぜ行動が変化したのかを言語化させることを義務付けている。まずは組織に理論を落とし込むよりも、自分自身が体現者となる事が重要であると考えるからだ。


就職支援会社はどうあるべきか

就活支援は単なる「マッチングサービス」から、「学生への成長促進+マッチングサービス」へと変化し、その中で成長をどのように定義してコンテンツ化するかが問われている。

就職活動中にできることは限られているため取捨選択が必要不可欠となるが、私は下記のポイントを軸としてサービスを向上させたい。

①発達段階の向上
まずは人間としてのOSが1段階でいいのでバージョンアップするために、自己分析を通じてどう自分と向き合うのか? 社会と向き合うのか?を一緒に考えていく存在でありたい。

②ロジカルシンキング
高いレベルでのロジカルシンキングではなくていいので、最低限の基礎だけを徹底させたい。

③未知との向き合い方
仕事は大きくなっていくほど未知が増える。そこで重要なのは「全てを知る事ではなく、知らない中でどう向き合うか」になるため、知らないことをどのように構造化して成功へと導くかを考える力

④社会理解
特に虫の目の理解を深く浸透させ、全ての仕事が営業活動から派生されていること、仕事の定義を学んでほしい

⑤情熱と素直さ
学生から見た時にアドバイザーが「凄い」と思われる存在である事。その上でさらに上を目指す情熱・素直さを持ち合わせている事。



就職活動で企業様には「体育会が欲しい」ではなく、「クリアソンを通して採用したい」と言ってもらえるようなサービスを、学生さんには「就職活動の方法論」ではなく、「クリアソンと就職活動したい」と言えってもらえるようなサービスを展開していきたい。



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