期待ふくらむ、空飛ぶ機体
こんにちは!VALUENEXの松南です。
突然ですがクイズです。この図は何のグラフでしょうか?
答えは、ドローンに関する特許文献の件数推移です(*注釈)。2015年頃までは年間100件程度で推移していたのに対し、2016年以降に急激に増え、2023年の件数は約3,400件にものぼります。
ドローンは経済産業省が「次世代空モビリティ」と位置づけており、社会課題を解決する技術のひとつとして注目を集めています(*出典1)。
そんなドローンについて、特許情報に基づいて技術開発動向をビックデータ解析しました。
ドローン業界の全体俯瞰
弊社が提供するビックデータ解析ツール VALUENEX Radarを用いて、ドローンに関する特許文献の全体俯瞰図を作成しました。俯瞰図を図2に示します。俯瞰図では、分析対象の全特許に対して内容の類似性を評価し、内容の類似性の高い特許は近くに、類似性が低い特許は遠くに配置されます。特許数の密度に応じてヒートマップ表示され、特許が密集する位置は赤くなります。
俯瞰図は、大きく6つの領域に大別でき、①飛行、②充電・電池、③撮像、④物流、⑤農業、⑥通信と捉えることができました。ドローン関連技術はさまざまな技術分野に用いられているのですね。
①~⑥の各領域の内容は表1にまとめたのでご覧ください。
①~⑥の領域にある特許の技術がどのように生かされているか、それぞれの領域について調べました。
③:ドローン撮像は、例えば建築物の点検の際などに高所や狭所など人が立ち入ることが困難な場所にドローンが人に代わって撮影することで、作業員の安全を確保します。
④:ドローン配送は、宅配個数増加と物流の担い手不足という課題に直面する物流業界を省人・効率化することが期待されます。
⑤:ドローンによる農薬散布は、農業従事者の高齢化・人口減少による一人当たりの労働負担増という状況を改善する可能性が見出せます。
⑥:ドローンを通信の基地局や中継局に適用することで、通信速度や品質の向上につながります。
そして、③~⑥のようなドローンの活用には、ドローンを飛ばすための技術である①飛行の発明や、ドローンの動力源を安定して供給する技術である②充電・電池の発明が基盤となっています。
このように、ドローン関連技術はそれぞれ社会課題の解決につながっているのですね。
次に、技術開発の動向を時系列別に調査しました。公開・公表年で2016年から2年ごとに区切って俯瞰解析を行った結果を図3に示します。
2016-2017年は飛行領域が中心となっていますが、2018-2019年になると飛行領域への集中が顕著になり、さらに撮像領域の周辺にも新たに集中が見られるようになりました。撮像領域での集中は2023年まで継続していました。2020-2021年はさらに分布が拡大して、通信、充電・電池、配送、農業などの領域にも集中していました。2022-2023年は、2020-2021年で現れた集中領域が継続して分布も拡大する一方、飛行領域の文献密度は低下しました。
特許出願が公開されるまでのタイムラグを踏まえると、ドローンに関する技術開発は2018年頃には基礎の飛行関連技術が成熟しており、現在はドローンの応用分野を拡大する段階にあると推察することができます。
上位プレイヤーから見るドローン戦略
では、実際にドローン業界を構成するプレイヤーにはどのような顔ぶれなのでしょうか?
母集団の出願人上位10社(含10位タイ)について集計すると、航空機メーカーの他、半導体、自動車、電機などさまざまな業種の企業がランクインしていました。
続いて、①~⑥のそれぞれの領域について出願人上位10社(含10位タイ)を集計しました。
飛行領域は、エアロネクスト(1位)、DRONEiPLAB(3位)、SZ DJI Technology Co. Ltd(5位)、プロドローン(6位)など、ドローン事業を主体とする企業が多くランクインしていました。他にも通信事業会社や電気機器メーカーなどさまざまな業種の企業が存在していました。
充電・電池領域は、東芝(2位)や京セラ(3位)のように電池を扱う事業を行う企業のほか、自動車メーカーや自動車部品メーカーなども見られました。
撮像領域には、キヤノン(2位)やニコン(6位)のような光学機器メーカーのほか、半導体メーカーや電機メーカーなど様々な業種の企業がありました。
物流領域は、トヨタ自動車(1位)や本田技研工業(5位)のような自動車メーカーがランクインする一方で、楽天グループ(2位)やKDDI(3位)のような通信事業を行う企業も上位であり、他の順位も含めて様々な業種の企業がありました。
農業領域は、農業機械メーカーが多くランクインしていました。
通信領域は、通信事業を行う企業が多くランクインしていました。
このように、比較的事業内容が近い企業で構成される領域や様々な業種の企業がともに上位にある領域など、領域ごとに出願企業の様相は様々でした。
また図5を見ると、例えば光学機器メーカーであるキヤノン、ニコン、トプコンのような同業種の企業がランクインしています。
キヤノン:①飛行、②充電・電池、③撮像にランクイン
ニコン:③撮像にランクイン
トプコン:①飛行、⑤農業にランクイン
同業企業であれば共通の基盤技術を保有している可能性がありますが、両社のドローン開発戦略は類似しているのでしょうか。あるいは同業企業であっても戦略は異なるのでしょうか。
キヤノン、ニコン、トプコンの出願分布を比較してみましょう。
俯瞰図を見比べると、3社とも共通して撮像領域への出願が見られました。キヤノンとニコンについては撮像領域内の画像処理への出願配分が最も多く、キヤノンは空撮の領域近傍にも分布していました。このことから、キヤノンとニコンはともにドローン撮像関連の技術開発をしていますが、キヤノンは空撮も自社で可能なのではないかと推測できます。一方トプコンは、撮像に加えて農業領域、飛行位置制御、測量の領域への出願配分も多くありました。トプコンは測量用ドローンを開発していて(*出典2)、優れた飛行位置制御技術をドローン測量へ応用しているものと推測できます。
俯瞰図の情報から、各社ともカメラ分野の技術をベースにドローン業界に参入し、空撮や測量など、各社が独自性を築いていることが読み取れました。
おわりに
ドローンの特許情報からドローン開発の技術動向を解析しました。
ドローン業界は、基礎的な技術はすでに成熟しつつあり現在はドローンを活用するための技術開発に移行していることがわかりました。出願件数上位企業に着目すると、同業企業で出願する技術領域が異なる部分もありましたが、自社の既存技術を生かしてドローン業界へ参入するという戦略がうかがえました。
さて、ドローン関連技術の応用分野は多岐にわたり、ドローンがさまざまな社会課題の解決策となり得ることが見出されました。ドローン業界は加速度的に拡大しており、今後もますますドローンが社会で活躍することが予想されます。当記事で見た事例の他にもいろいろな技術と融合して、将来はまったく新しい技術が生まれるかもしれませんね。ドローンの未来が楽しみです。
出典
注釈
母集団の作成には、パナソニックソリューションテクノロジー社が提供するPatent SQUAREを使用した。検索対象については、2004年以降に出願された特許のうち、全文で「ドローン」を含む、または「無人」と「航空」、「飛翔」、「飛行」とが5文字以内に共起するものから「カードローン」を除外した16,218件とした。
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