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社会課題から次のビジネスチャンスを探る-社会科学論文編

はじめまして!VALUENEX技術・市場調査部の菊池と申します。
以前は心理学の研究者を目指してみたり、政治家を目指して地元の市議会議員選挙に立候補してみたり(あえなく落選)、荒れた青春時代を送っていましたが、現在はVALUENEXで特許や学術論文を用いた各種技術分野の動向調査を担当しています。
今回は私の専門分野である心理学に関するデータ解析について書きたいと思います。

社会課題解析とデータソースについて

VALUENEX の俯瞰解析サービスは特許や学術論文を用いた技術解析を主な目的として、研究開発部門、知的財産部門のみなさまに幅広くご利用いただいています。
一方で、割合は高くありませんが、社会課題の解析から次のビジネスチャンスを探索するといったプロジェクトを実施することもあります。
社会課題解析に用いるデータソースとしては主に下記3種類が挙げられます。

  • ソーシャルデータ⇒Twitter等のSNSデータや口コミサイトのデータ。世間一般の人々が今何を考えているかを知ることができる。一方で、文章の形式が一定ではないため、ノイズの除去など解析データの整形に手間がかかることが多い。

  • ニュース記事⇒Googleニュースや新聞記事等のニュース記事。編集者、ライターが取捨選択し整理した情報となっているため、データの取り扱いが容易。一方で、編集者、ライターによりフィルタリングされた事実の集合となるため、解析の視点を工夫しないと「So what?」となってしまうことも多い。

  • 社会科学論文⇒心理学等の社会科学に関するテーマを扱った学術論文。過去から現在にかけての社会課題の変遷を知ることができる。ほとんどの論文は雑誌に掲載される前に専門家のレビューを受けているため、データの質が高い。一方で、研究が開始されてから雑誌に論文が掲載されるまでは数ヶ月~1年以上かかるケースが多いため、最新の情報を反映できていない可能性がある。情報の新しさという観点では査読を通過する前の論文(候補)を集めたプレプリントサーバーがあるが、査読される前の文献であるため、その質は玉石混交となっている。

社会科学論文解析の実施例

先述したように一口に社会課題を解析するといっても様々なアプローチが考えられますが、本記事では社会科学の一分野である心理学に関する論文を用いた解析例をご紹介します。
2年以上にわたり世界を悩ませ続けている新型コロナウイルスですが、社会的な影響も大きく、一時期「コロナうつ」といった言葉がメディアをにぎわす時期もありました。
ここでは「コロナうつ」に関連して、過去から現在までのうつ病の治療法について解析した例をご紹介します(2021年2月時点のデータ)。
下図はうつ病の治療法に関する学術論文約5万件VALUENEX Radarによって可視化した結果です。うつ病の治療に関する研究領域は、電気・脳刺激や薬物療法といった治療法に関する領域や、痛みや性的問題・ホルモンや高齢化といったうつ病の原因に関する領域に分かれることがわかります。このように人力では全ての内容を把握することが困難な膨大な量のデータであっても、VALUENEXの俯瞰解析を用いることで容易に全体像を把握することができます。

うつ病の治療に関する研究の全体像

年次変化を見てみましょう。
まず、一貫して電気けいれん療法に関する研究が非常に多いことがわかります。電気けいれん療法とは、前頭に電極をあてて頭部に通電して人為的に痙攣発作を起こす治療法です。昔からうつ病に効果があることが知られています。
また、2011年以降それまで論文数が少なかった認知と行動に関する研究が増加していることがわかります。この領域についてもっと詳しく見てみましょう。

うつ病の治療に関する研究の年次変化

「認知と行動」領域における2017年以降の変化を1年ごとに可視化してみました。
2019年までは大きな変化はありませんが、2020年にマインドフルネスとアクセプタンス&コミットメントセラピーに関する研究が急増していることがわかります。
マインドフルネスとは、「現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程」のことで、自らの認知や行動を先入観なしに見つめることで、心理面に様々なポジティブな影響を与えることが知られています。アクセプタンス&コミットメントセラピーはマインドフルネスの方法をベースにしながら、自分のあるがままの思考や感情を「受け入れる」ことを重視した手法です。マインドフルネスは「ありのままの自分を直視する」ことを主眼に置いており、外的な刺激や特定成分の内服で強制的に心理状態を変化させる電気けいれん療法や薬物療法とは一線を画すものであるといえます。
ビジネスチャンスという視点で考えると、電気けいれん療法や薬物療法のような医療施設でしか行えない治療法と比べると、マインドフルネスについては様々な業種に参入のチャンスがあると考えられます。例えば、電機、食品、住宅、IT、サービス業など消費者と直接接する機会のある商品やサービスを提供している企業であれば、その商品やサービスを通じて日常において「自分のあるがままの状況」に目を向ける状況を作ろうとすることが考えられます。
実際、日本国内でも積水ホームテクノ社が浴室におけるマインドフルネスの実践を補助するシステムに関する特許(特開2019-111307)を出願している例などがみられ、今後注目の分野であるといえます。

「認知と行動」領域における2017年以降の変化


おわりに

社会課題解析の事例をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか(本記事の解析はnote向けに内容を省略しています。詳細について知りたい方はこちらをご参照ください)。
社会課題解析は技術解析と比べ、テーマに応じた解析対象の設定が難しいかと思います。
今回の解析を実施するにあたっては、新型コロナウイルスによる社会的影響について調べたい⇒コロナうつを対象にしよう⇒うつ病治療の変遷をみてみよう⇒うつ病治療に関する信頼できるデータとして学術論文を解析しよう、といった考え方で解析対象を決めました。
社会課題解析の方法については正解がなく、同じテーマについて解析するとしてもソーシャルデータやSNS記事を用いて示唆を得る方法もあるかと思います。
もし社会課題の解析について迷うことがあればぜひ、VALUENEXにご相談ください。


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