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パーフェクト・ワールド~世界の謎を解け~

パーフェクトワールド

パーフェクト・ワールド。同名のイーストウッドの映画ではないし漫画でもドラマでもない。そして、ポスターにある様な、主人公が世界を救う映画でもなければ、全次元が消滅するような話でもない。世界の謎を解く話ではあるかもしれません。そもそも正式なタイトルはラフドラフト(下描き)です。

いやぁ、とは言えですよ、こんな傑作がある事を今まで知らず。
ナイトウォッチのセルゲイ・ルキヤネンコ原作。
あの、セルゲイ・モグリツキー監督作品。
あの、ニキータ・ヴォルコフ。オルガ・ボロフスカヤ出演。

著名ゲームデザイナーのキリルはある日突然、自分が世界から存在を忘れられ、全てをはく奪され、両親、恋人ですら、誰も自分を知らない存在になった事に気づく。そういう内容の同じ日を繰り返している事に気づく。

ある時、キリルは導かれるように町はずれの塔に。それは別世界と別世界をつなぐ交差点であり、新たな世界へと通じる道を出現させる事が出来る塔だった。
世界は実は、並行世界を行き来しつつ、密約よって取引を行い、各々で支配
し合っている、それを統括しているのが自分のいる組織であり、国家間では
ある共通の目的があった。

キリルは機能者と呼ばれる集団に選ばれました。
歳も取らず、超人的な能力を手に入れ、そこで検閲官(税関)として働くことに。仕事は物資や人間を別世界へ誘う者であり、新たな並行世界への扉を開く者。


キリルは仕事のさなか、別に存在する並行世界の「かつての友人」や
他の仲間を通じて、自分を忘れたかつての恋人アンナに出会い、次第にひかれあっていく。

しかし、主人公キリルには
かつて一度だけ開かれ、国家の陰謀で閉じられた
究極の並行世界、争いを撲滅した平和国家
「アルカン」を再び出現させる使命
が隠されていた…

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どうです!?
並行世界に隠されたパーフェクトワールドへと導く話。

超能力、並行異世界に存在するスチームパンク、ユートピア、ディストピアに帝政ロシア、終末論。
その全ての扉を開く権限を与えられた塔が、実は町中に普通に存在する事を
一部しか知らない。それを国と、特別な能力者達が管理、運営している。

そのような組織に突如選ばれ、究極の力を与えられれば、盛り上がる事請け合い。

(以下ネタバレを多く含みます)


さて、無敵の力を手に入れたキリルですが、そうはいっても制約を受け塔から一定の距離を離れると体の水分が抜けていき死んでしまう様に(水飲むと治ります)なってしまう謎の制約を受ける事に。組織のルールですね。


ストーリーのベースは序盤、主人公と出会った「主人公を忘れてしまったかつての恋人」との恋愛を主軸に進むのですが、
恋人アンナは「検閲官」の存在について知りすぎてしまい、別の並行世界へ
飛ばされてしまいます、いわゆる島流し。アンナは常にそんな感じなので、非常にキャラが弱く、薄い。映画でも漫画でも、長期間出番を失うヒロインはキャラが弱くなりますよね。

キリルは奔走し、アンナを助け出しますが、その際、制約を受けるために体に張り付いていた首飾りも外すことに成功します。が。
再び、アンナはさらわれ、別の並行世界に幽閉されてしまいます。


ここまでくるともう、キリル以外アンナに感情移入できる人はいないと思います。

主人公が仲間だと思っていた(かつての友人)も実はすべてを知っていて、主人公を監視していたことを知ります。ですがこいつは敵のように見えるんですが、どこか主人公を殺すまではいかず、何となくっ微妙な距離を取る、そこまでの悪党には見えません…という結構重要なキャラクターなんですが、途中でフェードアウトし、最後になって突如「俺、すげー大事な役回りなんだ」位の空気感で登場します。

怒りによって能力を開放したキリルはとうとう、アルカンへの扉を
開くことに成功
恋人の話とは無関係ですがとにかく、アルカンへ向かいます。

どうやら、このパーフェクトワールド「アルカン」は色々な面倒事から解放され、病気も争いもない、まさに究極の平和世界、時代としては主人公のいる現在よりは過去だが、技術は格段に進んでいるらしいのです。

アルカンは色々な世界の複合デザイン都市、とりわけ中国のデザインを多く取り入れた奇妙な世界です。繰り広げられる太極拳、謎の警備ロボットマトリョーシカ等、どこがパーフェクトなのか良く分かりませんが、平和らしいです。一応ユートピアなのでガンカタリベリオンの様なディストピア感はありません。

そしてこのアルカンという並行世界は、過去に別の場所で
一度だけ存在を確認したのですが、
キリルのいる世界、現代世界の核兵器で破壊され、閉ざされてしまっていた。

主人公、キリルからすれば、現代世界からアルカンが切り離されてしまったと言う話ですが、技術が進んでいるアルカンからすれば、切り離されたのは
主人公の世界で、アルカンは
今までずっと、世界を「作り続け」支配していた、と言います。

アルカン、という世界は、他の並行世界を実験台にする事で、
それを先に観測し不安因子を先に取り除いておく、という方法で
多世界の知識を利用し、歴史の実験を多世界で行い、
本来の自分たちの世界での事件を未然に防ぐ(犯罪者が犯罪を犯す前に取り除くというあの方式)ことで、
パーフェクトワールドを作り上げたようです。主人公のいる世界はアルカンの「下描き」でしかなかった。映画の原題ラフドラフトはここから来ています。決して、パーフェクトワールド、等ではない。

主人公達の世界で戦争、病気、災害が起きるのは、アルカンの世界が
それを避けるため。

そして襲い掛かる変形型ロボットマトリョーシカ軍。
キリルの運命やいかに。

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(以下ラストのネタバレ)

,空飛ぶロボットマトリョーシカの攻撃から逃れ、何とか脱出したキリルはとうに戻る事が出来ますが、その際のマトリョーシカの攻撃で塔は破壊され、結局アルカンへの道は閉ざされてしまいます。

組織の野望は潰え、恋人は何処に行ったか分からない、踏んだり蹴ったりのキリルの前に「例の、過去友人だったが裏切ったあいつ」が登場します。一気に友情コメディの様な展開となり、恋人アンナを探す方法、組織をどうにかする方法等をこれから考えて、解決させるぜ!と言わんばかりに。

謎の友情の笑みをかわし、男二人は車に乗り込む…………。

終わりです。世界の事は解決できず、恋人は行方不明。とても興味深い多世界解釈の謎、行方不明の恋人は一切の投げっぱなしによって、視聴者の空気感だけ煽りまくって、この映画は終わるのです。

何か、世界が複雑なせいで、製作者が世界ごとの人間関係を覚えきれなかったのでは、と思うほど、所々ミスっているように見えるのは、編集のせいなのか監督のせいなのか、観ている僕のせいなのか。不満が爆発する瞬間です…しかし…


これをすべて解決するとてもいい方法があります。

続編を作るのです。

こう考えたのは、当然この映画に続編が無い事を知っているからで、続編があると思っていれば、確実にパーフェクトワールドは名作と言っていいでしょう。しかし、そうではないので、困惑のるつぼと化すのです。

エピソード7・フォースの覚醒がなぜ名作なのか、それはフリをばらまきまくって続編に投げているからです。大興奮のさなかで幕を閉じ、しかもラスト直前にルークが登場、近年で最も興奮した映画の一つです。

エピソード5・帝国の逆襲もこの投げっぱなしシステムをふんだんに取り入れた為、当時劇場で観た方は大興奮だったのでは。

良く分からない所を全部続編で解決し、かつ恋人の下りも回収すれば、このパーフェクトワールドは確実に大変に面白い作品として語り継がれるはず。と僕は信じて疑わない位には面白くなる要素をふんだんに取り入れて、それを全く解決させずに投げっぱなした名作なのです。それがパーフェクトワールド、じゃない、ラフドラフト。

もし気に入って頂けましたらサポート頂けると大変嬉しいです(^^)業界が偏ってしまう内容が多いですが、色々参考になるような記事が書けるようにしていこうと思います。