フィリッポ2世は女が惚れる役じゃない

ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』で、音楽的主役ともいえるフィリッポ2世。一つの作品の中で歌う箇所が著しく少ないバス歌手にとっては、数少ない見せ場の多い役の為、歌手にとっては憧れの役の一つでもあります。

史実、またシラーの戯曲での扱いはともかく、オペラとしての「ドン・カルロ」は
主要登場人物それぞれに魅力があり、それぞれが黒い部分も合わせ持っている・・どちらかというとドイツオペラ寄りの嗜好の方でも、この作品だけは別・・とおっしゃる方も多いのは、その多面性とバランスの良さに依るものかもしれません。
「一人にフォーカスするのではなく、全体を俯瞰する楽しみ」が味わえる・・そんな作品だと思っています。

と言っておきながら、これから長々とフィリッポのことを語るのもなんなのですが、
かつて某オペラの解説書に「この作品は【ドン・カルロ】ではなく【フィリッポの憂鬱】とかにするべき・・云々とかいう文言を見たことがあって、え〜〜そりゃ違うでしょ!と(バス歌手のファンのくせに^^;)思っている私。

だって、フィリッポって矛盾は多いし突っ込みどころ満載じゃないですか。

・息子は言うこときかないし
・嫁からも愛されてないし
・大審問官には頭が上がらないし
・国内情勢不安定、政治的にも危うい状況 ← 異端審問の場面を見るにつけ

「あんまり民衆から支持されてないよね・・」と思うわけです。

・・・・・このキャラのどこが「立派な人物」なのよー?と・・・

出てきた時から嫁をいじめるし、政治的な匂いをプンプンさせてるし
異端審問の場面では、自分のために剣を抜いてくれたのはロドリーゴただ一人だけだし、で、あの場面、火あぶりだのなんだの・・で、生々しい場面の後、
いきなり(幕が変わって休憩を挟むとはいえ)「Ella giammai..(彼女は私を愛していない・・」とか急に歌い出すし^^;

その後も大審問官に罵倒されるし、エリザベッタからも反抗されるし(そのうえ逆ギレするし^^;)
この後はまた、為政者としての立場での登場で・・

とても「女が惚れて耽溺するような役じゃない」と思うのです。

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あのアリアだけがちょっと異質・・というか、あれがある故に複雑な役・・になるのでしょうね。

あれがなければ「ルイザ・ミラー」のヴァルター伯爵(父子対立という点ではフィリッポ父子に通じるところもあるけど、大義名分に拘って徹頭徹尾冷徹だし)や
じーさん(笑)のくせに、若い人たちと張り合って権力に任せて女性に執着する(でも負けるw)「エルナーニ」のシルヴァと同じぐらいの役回り(平たく言えばただの嫌なオヤジ^^;)に成り下がる気がします。

しかーし!
あのアリア(フィリッポの本音・・というか、弱さ、心情吐露)がある故の複雑な役・・ということを、すんなり納得させてくれるフィリッポがなかなかいないのが実情で・・

つまり、あのアリアを仰々しく「俺の素晴らしいバス声を聴けw」と、ただ感情に任せて歌うだけでは、フィリッポの多面的で矛盾を孕んだ性格は反映されないと思うんです。
(また、旋律が美しいからつい歌っちゃうんだろうな〜〜とも思う。。。)

続きはまた後日。とりあえず気軽に書ける場所が欲しくなって突発的にアカウント作りました。


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