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#8 INITY (栃木県宇都宮市)

宇都宮に来て早々にyujicafeと出会い、やはり音楽を聴きながら寛げる店があるのは最高だなと改めて感じ、
これぐらいの規模の街であれば他にも何件かあるだろうとスマホで検索したところ一軒のレゲエバーを見つけた。

自分はジャマイカに行ったことは無いし髪型をドレッドロックスにしたこともないが、レゲエのリズムにリリックを乗せて歌うシンガーとしてかれこれ十数年活動してきた。狂信的にこの音楽を愛しているわけではないが肌に馴染むビートであることに間違いは無く出張先にそんな店があるならば足を運ばない理由は無い。

yujicafeの裏手に釜川という小さな川が流れていて、そこから少し下った辺りはかつていわゆる赤線とか青線と呼ばれていたエリアだそうで、路地から路地へと密集する古い建物を眺めていると何となくその名残を感じたりもする。

釜川沿いの遊歩道に自転車を止めて扉を開くと、自分にとって慣れ親しんだ空間がそこにあった。薄暗い小じんまりとした店内だが居心地は良い。レッドストライプの瓶とラムのボトルを眺めながらゆったりとしたレゲエのリズムに包まれると全身がリラックスしていくのがわかる。

店主のソエ君とはすぐに打ち解けた。レゲエバーの店主とレゲエシンガーが出会ったのだからそれは当然のことで、話していくうちにお互いの共通の知人の名前も次々と挙がっていく。

『これ、らいおんの穴で使ってたカウンターですよ』

と聞いた時はさすがにゾクッとした。

かつて東京都多摩市に存在した伝説のレゲエバー『らいおんの穴』。自分がレゲエを歌い始めた頃、バンドメンバーと集まったり地元仲間と酒を呑んだりしていた思い出の場所だ。あの店のあのカウンターが巡りめぐって、いま宇都宮でレッドストライプを呑んでいる自分の肘の下に確かな感触を持って横たわっている。それはもう喜びでしかなかった。

それからしばらく宇都宮の夜はyujicafeとINITYを行ったり来たりするのが定番となり、そこで知り合った愉快な人々と深い時間まで遊んでいた。
行きはワクワク、帰りは満足、釜川沿いを自転車で走り抜けるときの高揚感は今でも鮮明に覚えている。