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レースこそが人生…でない方にも
たとえバラクータを着たとして貴方は高倉健にはなれないし
リーバイス501に白Tシャツを合わせたとて白洲次郎にはなれない
男性としての魅力に欠ける我々が偉人の愛した名品に大枚をはたいたところで、彼らの小指の爪の先にすら届かないのは当然のことだ
とはいえそういった名品に手を出さずにはいられないのが男のサガ
僕の永遠の憧れは“キングオブクール”ことスティーブ・マックイーン
不遇の少年時代を過ごし軍隊経験を経て、幸運にも俳優としての才に気づいた彼は西部劇を始めとするスクリーンの世界で頭角を表した。
そして何よりも愛したモータースポーツを題材に映画を作り上げた。1971年公開の『栄光のル・マン』だ。
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マックイーンが役者としてのキャリアを選ばなかったのなら、きっとレーサーとして大成しただろう。
1970年のセブリング12時間レース、飛行場跡を改装したサーキットで格上のワークスポルシェ、フェラーリを相手にマックイーンのチームは首位を独走。
最後の1周でフェラーリに抜かれたものの総合2位を獲得した。
モータースポーツを愛していただけではなく、実力も富も地位も手に入れた彼が最高峰のレースの一つであるル・マンを映画にするのは人生最大の挑戦だったのだ。
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走行時間は短かったが、走りはプロと遜色なかったという
『栄光のル・マン』はそれはもうシンプルな映画だ。
マックイーンが演じるのはアメリカのガルフ・ポルシェチームのエースドライバー、 マイケル・デラニー。
彼がル・マン24時間で総合優勝を目指す。ただそれだけだ。
恋愛要素もなく、人間ドラマも必要最低限。2時間を通して怪物のようなプロトタイプカーの咆哮がひたすら鳴り響く。
あまりにドライなので日本を除いて興行収入に苦しみ、マックイーンは一度全てを失った。
しかし今では一級のレース映画、そして当時のモータースポーツの風景を切り取った資料として高い評価を得ている。
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マックイーンもドライバーとして参戦を熱望したが叶わなかった
さて本題だが、今回取り上げたいのが劇中の彼の右腕に輝くホイヤー・モナコだ。
ある意味、彼のアイコンと言っても過言ではないだろう。
今もなおモータースポーツと切り離せない関係にある時計ブランド、ホイヤー(現タグ・ホイヤー)
そのホイヤーが世界初の角型防水クロノグラフとして1969年に発表したのがモナコだった。もちろん名前の由来は伝統のモナコGPが開かれる小国、モナコからだ。
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中でもモナコの個性は際立つ
存在感あふれるマッチョな角型ケースに、レーシーなダイアルを備えたモナコにマックイーンは惚れ込み、自身の集大成である映画の相棒に抜擢した。
最も憧れるヒーローの右腕、いつかは手に入れなくてはと思っていた。
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“Calibre 11”
ケースは少々大柄で分厚く、重量もそれなりにあるが、この時計を選ぶスポーツマンたちは気にしないだろう。僕はスポーツの対極に位置する人間だけど全く気にしない。
機能はストップウォッチと30分積算計、それとデイト表示だ。
腕時計を何本も持っている人間にとってカレンダーは邪魔な場合が多いのだが、モナコはデザインのいいアクセントになっているから許してあげよう。
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気分だけはプロのレーサーだ
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僕にとって唯一の減点ポイントは裏蓋。ムーブメントの実用性は全く不満は無いけれど、見た目に関してはコレと言って色気は感じない。付け心地にしても実用性の観点からしても、わざわざ透明な裏蓋を採用する必要はないのだ。
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とはいえ裏蓋の不満なんてとてつもなく些細なものだ。僕の細腕にマックイーンが着けていたクロノグラフが乗っている。これっぽっちもクールな人間では無いけれど、脳が勝手に自分をマックイーンのようなヒーローに錯覚させてしまう。
そもそも腕時計は自己満足の世界、他人の目なんか気にしちゃ負けだ。
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残念ながらラップタイムは向上しなかった
最後に栄光のル・マンで心温まるエピソードを一つ
全ての撮影が終了したあと、マックイーンは撮影に使った数本のモナコを親しいスタッフに譲ったらしい。
ある謙虚なメカニックは「こんな大切なものは受け取れない」と断った。
しかしマックイーンは平然とこう言ったという。
「無駄だよ。もう君の名前が彫ってあるからね」
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