Vague Foyer

Vague Foyerの中の人によるエッセイ 自分の好きな時間は尊いもの その時に感…

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Vague Foyerの中の人によるエッセイ 自分の好きな時間は尊いもの その時に感じたことを忘れないためのnote ---- 名前の意味は「曖昧な待ち合わせ場所」 知らない人同士で、お互いの気持ちや思いを安心して話し合える場所です。 zoom・レンタルスペースなどでの開催。

最近の記事

爪と前髪

心が乱れているなと思う時、 頭にモヤがかかってすっきりしない時、 私は爪と前髪を整える。 爪も髪も、放っておけば勝手に伸びていく。 なんだか疲れて調子が出ないなという時は、だいたい爪と前髪が伸びきっている。 つまり、自分のメンテナンスができていない状態なのだ。 爪はただ切るだけではなく、しっかりやすりで形を整え、甘皮(爪の生え際)の手入れまでする。 時々マニキュアを塗ったりもする。 仕上げにオイルを塗り込んで、ささくれのケアも入念に。 本当はいつでも指先がきれいな人であ

    • 向こう側の景色

      雲ひとつない青空が目に痛い。 秋の空はどこまでも高く澄んで、遠くの方は淡く光っている。 最近、飛行機雲を見ることが減ったような気がする。 以前の様相を取り戻しつつあるとは言え、フライトの数は未だ制限せざるを得ない状況なのだろう。 それとも、私の出不精に拍車がかかっただけだろうか。 私は飛行機を目にするたび、「向こう側」の視点に憑依される。 地上から空を見上げながら、向こう側ーー飛び立った飛行機の窓から見下ろした景色を見ているような感覚になるのだ。 飛行機で海外へ渡ったこ

      • 掃除機の音がエモくなるとき

        Haruka Nakamuraという激推しの激エモピアニストがいる。 彼の音楽では、表現のテーマとして日常の美しさに重きが置かれる。 やさしいピアノの旋律の背後に、子供たちがはしゃぐ声や踏切の音、市営バスが扉を閉じるアナウンス… ありとあらゆる「日常」の音が、彼の世界の構成要素として登場する。 そんな彼の作品を聴き倒して以降、やさしいピアノミュージックだったり、Lo-Fi調の優しくどこか気怠げな音楽は、僕の日常のなかの大切なものとして溶け込んでいった。 無音がどうも

        • 冬の匂いの正体

          秋だ秋だと言いつつ最高気温が30℃を超える日々が続き、 それが紛れもなく「残暑」であったことを思い知ったのはほんの数日前のこと。 気づいたら、長袖シャツを通り越してニットが必要な寒さになっていた。 ほとんど出番のなかった秋服への未練が残り、薄着で外出しては、己の判断の甘さに舌打ちしたくなる。 毎年同じように季節は巡るのに、一向に学習しないのはなぜだろう。 来年の自分に告ぐ。 秋と春は、あなたが思っている3倍は寒い。 特に朝晩はぐっと冷え込んできて、起きて布団から出るのが

        爪と前髪

          NO BRANDはNO PRIDEか?

          古着をよく着る。 一口に古着と言えど、「ビンテージ」としてセレクトされそれなりの値段がついているものもあれば、 500円や1000円で叩き売りされているものもある。 正直なところ、ブランドの名前や、歴史的な価値にはあまり詳しくないし興味がない。 どちらかというと、山のように積まれた服の中から掘り出し物を探すのを楽しんでいる。 新品の服は、デザインにほんの少しでも気に入らない部分があると、あとの大部分がどんなに良くても納得いかずに買えないことがある。 それに、大事にしすぎて

          NO BRANDはNO PRIDEか?

          1年に1回しか聴いてはいけない音楽

          気に入ってる曲をスマホのアラームにかけて、それで朝を迎える日々を続けた結果、「その音楽のことが嫌いになった人」はどれくらいいるだろうか。 私はこれですでに3曲ほどダメにしている。 心理学的には「起床に対するウザさ」と「その時に聴いている音楽」がリンクしてしまうオペラント条件付けと呼ばれるものだ。 しかしまぁ、それでも好きな音楽だからこそ特別な使い方をしたくなったりもする。 ネット上でいくらでも複製が効き、聴きたいと思ったら数秒で聴ける現代の音楽産業の中で、我々は以前よ

          1年に1回しか聴いてはいけない音楽

          感性と言葉の相互作用

          『ことば選び辞典』(学研出版)というものがある。 文庫本より少し細長い形の、コンパクトな辞書だ。 シリーズでいくつも刊行されているうち、『情景ことば選び辞典』と『感情ことば選び辞典』の2冊を持っている。 この辞書を購入したのは1年ほど前のこと。 友人が自身で撮影した写真をもとにZINE(個人制作・形式自由の小冊子)を作ったと聞き、彼のいちファンである私は即刻注文をした。 届いたZINEを1ページ1ページうっとりと眺め、「とても良かったよ」と連絡しようとしたときに、「胸に湧

          感性と言葉の相互作用

          ただ作りたいから、作る

          「NFT」と呼ばれる、簡単に言えばデジタルのアイテムに対する”所有権”を売買できる仕組みがある。 自分が作ったアート作品を出品できるので、世界に対して自分の作品や世界観を簡単に届けることが可能になった。 NFTの界隈はオタクばかりなので、世界観や作品の持つストーリー性に共感しやすい人間が集まる。 どれだけ無名の作り手であっても、理解のある人間が多く集まる場所に作品を投下できることがNFTの魅力だろう。 僕はこの数週間、そんなNFTの売買サイトのひとつ「OpenSea」

          ただ作りたいから、作る

          名前のはなし

          最近よく思うのだが、私は自分の名前があまりしっくりきていない。 生まれた時からそこにあるものに対して「しっくりこない」というのも不思議だなと思うけれど、なぜだか、しっくりこない。 特別変わった名前でもないし、難しい漢字でもない。 珍しい名前に憧れたこともあったが、誰からも一発で読んでもらえるので、 その点困ることなく今まで快適に過ごさせてもらっているのはありがたいなと思う。 でも、しっくりこない。 音の響きもそうだし、字面も。 フルネームでも、名前だけでも。 親に文句

          名前のはなし

          水風呂で学ぶ恐怖心の克服

          人はあらゆるものに恐怖するが、恐怖はある種の幻覚である。 なぜなら、あなたが恐怖してもしなくても、目の前の状況は何も変わらないからだ。 目の前の強面の男にあなたがどんな恐怖を感じたとしても、その強面の男がその瞬間どんな感情を抱いているのかは分からない。 「いまこれを読むあなたの表情」と同じように、集中している人の表情は概して怖い。 この意味において、恐怖はときに幻覚である。 ただ、あまりに頻繁に発生する、稀有で厄介な幻覚とも言える。 --- 水風呂に入ったことはある

          水風呂で学ぶ恐怖心の克服

          無個性コンプレックス

          小学生の頃、夏休みの自由研究が苦手だった。 そもそも何をしたら良いのかよく分かっていなかった。 いつだったか、好きだった古生代の生物について時代別にイラストと解説を表にする、というのを自由研究にした。 誰にも言わなかったが、イラストも解説も、とあるWebサイトに掲載されていたものの完全なるパクリだった。 数ある中から自分の好きな生物を十数種類ピックアップして、画用紙に模写したイラストを並べ、それぞれに解説を書き写しただけのもの。 それでも、イラストを描き写す作業は真剣そ

          無個性コンプレックス

          厨二心とかいう尊いモノ

          小学校だったか、中学校だったか、はたまた高校だったか。 制服を着ていた記憶があるけど、白いエナメルバッグを下げていたから、きっとあれは中学校の記憶だと思う。 バレーボール部の帰り道、僕は友達に「銃」の話をしていた。 物騒に聞こえるが大丈夫だ。 この頃僕は洋画やテレビゲームにハマり倒していて、とにかく「銃」が好きだった。 日本史で「中臣鎌足が何をした人なのか」は全く頭に入らなかったのに、「米軍の正式採用拳銃にイタリアのメーカーの製品が採用されていて、しかもやたらデザイン

          厨二心とかいう尊いモノ

          生きている/生かされている

          家にいる時間が増えた。 もともと出不精だったところに外出自粛が拍車をかけて、家にいる時間がとにかく増えた。 1Kの狭い家は私の城である。 「外に出られなくてつらい」よりも「家に居られてうれしい」が勝つ。 そうは言っても、総歩数50歩の生活はとても健康的とは言えないので、自転車を走らせて外の空気を吸ったり、人が少ない時間帯をねらって買い物に出たりしている。 街はすっかり秋を迎え入れていて、いつの間にか服屋のマネキンは半袖Tシャツから厚手のニットに着替えていた。 エアコンで強

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          銭湯、心を救うじゃないか

          心理カウンセラーというと菩薩のようなメンタルでも持っていそうな気がしてしまうが、どっこいバリバリの一般的人間である。 人間性があるから人間の話を聴くことができる。 かたやジークムント・フロイトは「この仕事ほど狂気的なものはねえ(意訳)」とも語っており、それぐらい求められる思考が非人間的で、心をすり減らす機会が多い。 僕は訓練の中で「なんともない今のうちに、自分専用の回復手順を紙にまとめろ」と言われ続けた。 さて、なんとはなしに落ち込んで1日YouTubeで時間を浪費した

          銭湯、心を救うじゃないか

          新しい私

          髪を伸ばしている。 特に理由はない。どこまで伸びたら切るという予定もない。 過去にベリーショートにしていたので、それ以外の髪型にしたいと思っても地道に伸ばすほか方法がなかった。 そのため伸ばしながらその都度整えつつ、しっくりくる髪型を探っている、という感じだ。 髪の毛が1か月で約1cm伸びるというのはご存知の方も多いだろう。 仮に今よりも10cm伸ばしたければ、1年弱かかるということになる。 私の場合、ベリーショートから現在のロングヘアになるまでに3年を要した。 単純計

          新しい私

          秋の天気、朝、歩いた

          ワクチンの2回目を打ってから、また昼夜逆転した。 どうにか直すために、きのう五反田にあるホテルの朝食ビュッフェにいった。 今朝、やたら早く目が覚める。 仕方がないから起きて、パートナーを起こさないように陽を浴びに外に出る。 まて、まてよ。まだだぞ。 犬に食事を待たせるように自分に焦らす。 外の光を浴びると同時に、マスクから鼻だけ出して香りを吸う。 「こんなことがあっていいんすか」 秋の朝の空気を、予定に急かされずに吸っている。 こんな贅沢なことがあるか? 毎年

          秋の天気、朝、歩いた