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【294日目】柵越え

ご隠居からのメール:【柵越え】

昨夜も大量に発汗し、体温は36度3と平熱に近づいた。血圧も安定。咳もかなりおさまったが、こんどはしゃっくりが出る。横隔膜のけいれんだ。眠ろうとしても。横隔膜がけいれんすると、入眠できない。倦怠感、疲労感、鼻水、味覚障害、聴覚障害などの症状はない。

看護師に問い合わせてみたが、コロナとしゃっくりとの因果関係ははっきりしていないないらしい。便秘も一週間以上続いているのが気になる。(その後、次女が見つけてくれたネット情報によれば、肺炎をおこした患者は、迷走神経や横隔神経に直接刺激が与えられて症状が出ることがあると、書いてあったそうだ)。

後は肺の炎症の影があるので、点滴でウイルスの攻撃とたたかっている。中等症IIの患者は、ここでウイルス軍に弱みを見せれば、人口呼吸器やエクモ(体外式模型人工肺)のお世話になり、重症化患者の仲間に入れられてしまうだろう。

今は熱が平熱近くまで下がり、楽になったが、38.9度の高熱になると、意識もうろうとなり、もはや人間ではない、離人症になったような気分になる。 No longer human, は太宰治の小説『人間失格』の英訳タイトル名。

ベッドの横には柵が設けられている。乗り越えて、トイレに向かおうとすると、看護師がとんできて、きびしく注意された。トイレも看護師の手を借りるしかない。


返信:【柵越え】

父さんからのメールが届かない。昨日から順天堂病院に入院しているのだから、当然のことだ。ということは、このメールがお父さんの目に届くのは、退院後ということになる。どうせなら退院後の「パンデミック入院記」の執筆に役立ててもらうために、家族の心情やどのような行動をしていたかということを書いておくよ。

2022年1月14日。朝、父さんから届いたメールを読んで、「少しおかしいな」とおもっていた。文面も短く、前日と同様の返信コメントが記載されていたからだ。熱で朦朧としているのではないかと思ったよ。心配になり、母さんにLINEしたところ、熱は37.7で落ち着いていると記載があった。

一安心をして、仕事をしていたが、昼過ぎだろうか、母さんから「保健所の方が病院につれて行ってくれることになった」と連絡が入った。自分は、姉や妹と連絡をとりながら、兄弟姉妹4人のグループLINEをつくることにした。

母さんも、子供4人にそれぞれ連絡をとるので、誰に何を言ったか混乱しているようだ。更には、他の人と連絡をとりあって忙しいのか、返信が来ないこともある。我々は、ただ連絡を待つだけの状況になってしまったので、情報を集約するためにも自分は会社を早退することにした。上司は事情を説明したところ親身になって了承してくれたよ。いい会社だ。ありがたい。

順天堂病院に到着すると、救急センターの受付に行くよう案内された。そこで、父さんの名前を伝えて、現在の様子などを聞いた。到着したころは、母さんのPCR検査をすると言っていたな。父さんの入院は諸々検査した後に先生が判断するといっていたよ。

そこからは、ひたすら待機するのだが、姉妹にLINEで状況を報告したり、母さんからの電話がきたり、度々、担当医の方が現況を共有してくれたりもした。隙間時間に本を読んだりしていたら、あっというまに、20時をすぎたよ。

やがて、姉と妹が合流した。妹は、母さんの陽性にともない、濃厚接触者となったので、帰宅することになった。母さんは、保健所の方が実家に送り届けてくれた。

母さんが帰宅したあと、姉さんと自分は、看護婦さんに父さんの病状や入院の詳細を聞いた。そこで、初めて「中等症Ⅱ」ということが判明する。コロナの型はまだわからないという。

ネットで調べると、「中等症Ⅱ」は、日本独自の判断基準で、海外では「重症」に相当する病状と記載があった。「人生で経験したことのない苦しさ」があるという記載もあった。父さんと電話したときの、咳の様子はすごかった。天命を全うする覚悟するような発言もあった。かなり、弱気だった。

しかし、こちらも、そうはいくかと、色々前向きに考えないといけない。「尼子の落人後日譚」や「ふゆ物語」、「パンデミック体験記」も書いてもらわないといけない。孫たちが将来活躍する姿も見てもらわないといけない。人生、まだまだ、やることがあるのだ。

帰りに、地元の八幡宮によって参拝する。きっと、回復するさ。


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