りんご
ある寒い冬の日、おなかがすいてリンゴを食べた。ひとつをまるまる一人で食べた。リンゴを食べると、皮と芯と種が残った。この種もまいたら芽が出るんやろか、と思って植えることにした。
芽がでるか、自信がないまま、しばらく水につけて放っておいた。花屋さんで売ってる花の種を植えたことはあるけれど、自分が食べた果物の種を植えるのは、はじめてだった。
2週間ほど経って、種と水を入れたコップをのぞいてみると、白いのがにょきっと出ていた。たぶん、根っこだ。うれしかった。
リンゴにはたくさん種が入っていた。その中から10個を種まきポットに植えた。外はまだまだ寒く、咲いている花も少ない。リンゴは種の殻をかぶったまま、芽をひらくために、少しずつ伸びていった。
3月になっても風は冷たくて、乾燥している。芽をだしたばかりのリンゴにとっては外の環境は厳しかったようで、芽をだした10個のうち9個が枯れてしまった。残ったのは、ひとつだけ。このひとつをだいじに育てることにした。
窓際のいちばん日当たりがいい場所をリンゴの特等席にした。次々と新しい葉がひらいて、毎日眺めるのが楽しい。
秋には、すっかり大きくなって、もう外に出しても大丈夫だった。少しぐらい風が吹いてもリンゴの木はまっすぐ立っている。12月になると、やっと紅葉して、そして、年が明けると…。
葉っぱは全部散ってしまった。残ったのは、棒がいっぽん。
このまま枯れてしまったらどうしよう、ちゃんと新しい葉が出てくるんやろか、と思いながら春になるのを待った。そしたら、ちゃんと出てきた。4月1日、エイプリルフールに嘘みたいに小さな葉が出てきた。おお、よくやった、よくやったと思いながら、ひとまわり大きい鉢に植え替えた。
2年目は1年目よりも伸びるのが早い。どんどん、葉が開いて、どんどん伸びた。
夏の暑さにも負けず、大きな葉で光合成をしている。葉がうなだれてきたら水を足し、あんまり暑い日は日陰に移動した。ところどころ葉の先が茶色く枯れてしまったのが、少し残念。
やっぱり紅葉は12月に入ってからのようだ。葉の緑が消えて黄色くなって、大晦日には真っ赤に染まっていた。
1月の終わりには全部散ってしまったけれど、今度は大丈夫。春になったら必ず新芽を出すだろうと確信して、前よりも大きい鉢に植え替えた。
4月にひらいた芽は、アブラムシに葉がしわしわになるまで吸われてしまったけれど、短く切って、肥料をあげたら、今度は丈夫な枝が3本伸びてきた。4、5、6月の成長の早さはすごい。
そうして、8月。毎日暑いけれど、今日もリンゴは元気です。スーパーで売られている果物は、大抵食べられるために売られていて、だから食べ終わったら、残りは捨てていたのだけれど、果物のひとつひとつにはたくさんの種が入っていて、植えたら、ちゃんと芽が出るんだな。すごいな。
これからも、元気に育ってくれたら嬉しい。