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VOLLEY TOUR 2019/20【90】~旅を終えて

旅もちょうど中盤に差し掛かった1月、ベルリンでの欧州五輪予選でセルビアの敗退が決まったときから、この旅の目的として、11年に及ぶ海外バレー観戦の集大成としてやりたいことをやり切ることに加え、大好きなセルビア選手たちにお別れを告げることが課せられました。待ち望んでいた東京五輪で彼らのパフォーマンスを見届ける機会が失われ、この旅での観戦が最後になってしまったからです。
2012年に日本に訪れたセルビアチームに魅了されて以来8年間、代表にクラブチームにと現地観戦へ向かい、200以上もの試合を観てきました。その歴史にピリオドが打たれる…自分自身で決めたこととはいえ、それはとても受け入れ難いものでした。

予選敗退が決まった試合中はもちろんのこと、閉幕以降も旅をしながらしばらくの期間は涙に明け暮れる日々でした。なぜこんな決断をしたのかと後悔し、正直、本気で決断を考え直そうともしました。しかし、いろんな会場を巡り各選手の素晴らしいパフォーマンスや笑顔を目の当りにすると、何かが違う…と思うようになり、この状況に「別れ」という言葉が似つかわしくない、と思い始めたのです。

「最後」といっても、これは悲しむべきものじゃない…
ネット観戦ができるから、SNSがあるから、隔たりを感じなくなったことももちろん理由のひとつではありますが、それ以上に彼らの存在は時空を越えたものだと考えるようになりました。距離や時差では測れない、「出会い」「別れ」では語れない、もっと違う次元のことだと感じるようになったのです。

例えていうならば…うーん…‟太陽”…なんていうと使い古された時代遅れな表現でしょうか(笑)…?
もっとしゃれた表現があるはず…と考えてみましたが、でもそれが私にとっては一番しっくりくる表現のように思います。例え姿が見えなくても、目の前の世界を明るく照らしてくれていて、常にその恩恵を受けている。当たり前のように温かく包み込んでくれている…そんな朗らかなおひさまのように、これからも遠くからずっと見守ってパワーを与え続けてくれる気がするのでした。

太陽にバイバイ…なんてそんな話はないよ(笑)。セルビア選手たちとのお別れを考えていた自分が、間違っていると気付いたのは旅も終盤に差し掛かったころでした。それぞれの会場で、会えなくなるセルビア選手たちにこれまでの感謝とお別れを言うはずが、気が付いたら悲しい別れとは真逆の「幸せ」や「喜び」を与えてもらい、彼らの温かい「こころ」を感じる旅になっていました。悲しみの涙なんて流すタイミングは皆無…。
そう、これはセルビアファンの私にとって決して「終わり」ではなく、これからのエネルギーをもらう「始まり」の旅になっていたのです。

2012年来日したセルビア選手に惚れ込んで以来、現地に応援に行くことはもちろん、見に行けなくても深夜のネット観戦を欠かさず、たとえ届かなくても遠くからも応援の思いを掛け続けました。
応援に行ける時は、サポーターとしてできるだけ近くで声援を送りたくて、ネットでのチケット争奪戦も、他言語に苦しみながら必死に戦いました。そして現地入り前には、友人と協力して応援ボードを用意したり、応援用コスチュームを制作したり、オリジナルグッズの贈り物を考えたり準備も完璧に。今回の五輪予選でも出場権を得た暁には…と、開催地日本を代表し日本人のおもてなしの心で、着物にセルビア国旗柄の帯を巻いて五輪のハッピを羽織り、五輪フラッグを手に「おめでとう!」を伝えるつもりで計画も立てていたのです。彼らの来日のためにと、半年かけて編集・制作した「東京ガイドブック」も渡すつもりで、自分ができる最大限のサポートを考え旅に向かいました。

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悲しくもこれらは全て無駄に終わってしまいましたが、それでも楽しい準備期間を過ごせたと、心から満足しています。彼らをいかに喜ばせるか、いかに大きな力を与えられるか、いかに素晴らしいパフォーマンスを引き出せるか…おこがましいですが、それがサポーターとしての役割だと思い、それを楽しんで生きてきました。いい年しておかしなことをしていると言われるかもしれません…。しかし、これが私の最大の喜びであり、8年間の唯一の生き甲斐だったのでした。

そんな自己満足の応援をし続ける私に、旅も終わりに差し掛かった1月末、あるセルビア選手がメッセージを送ってくれました。心温まる長文メッセージ…その最後には、このように綴られていました。

"Thanks for your immense support, for the kindness and attention you have always given us, all the gifts you gave us. you are the best and greatest fan I have ever had. We are very proud of you happy that you love our team."
(あなたの計り知れないサポート、あなたがいつも私たちに与えてくれた優しさと気配り、すべての贈り物に感謝しています。 あなたが私たちのチームを愛してくれていることを、私たちはとても誇りに思っています。:DeepL翻訳)

旅を止めるという決断をすることは、ネガティブな行動だと思ってきました。だけど、この決断をしなければ気付けなかったことがあったのです。
私のセルビア愛は、ちゃんと伝わるべく人に伝わっていた…。
そしてこのメッセ―ジを読んで気付いたのです…これこそが私の目指していたファンとしての「ゴール」なのだと。

時に応援という意味が分からなくなることもありました。これでいいのか自分がやっていることに対し、不安に苛まれる日もありました。だけど、私がやってきたことは恐らく間違いではなかった…。五輪の夢は叶わなかったけれど、私の思いは報われた気がしました。8年間セルビアチームを応援してきて、ひいては11年間バレーファンとして生きてきて、こんなに幸せな思いを抱ける日がくるなんて思ってもみませんでした。
この旅を「最後」を決めたことは、間違いなくポジティブな決断だった!今、そう胸を張って言うことができます。

2009年から海外観戦ツアーを初めて11年、全てを無事に終えた今、これまでの奇跡に感謝しています。

好きな選手が健康でプレーし続けてこられたこと、
私が短期派遣の仕事で食い繋いでいくことができたこと、
家族が健康で、私の自由を許してくれたこと、
沢山の素敵なバレー観戦仲間と出会えたこと、
世界に重篤な感染病などなく、好きな時に好きな場所に行けたこと、
そして、
こんなにも素敵な選手、チームに出会えたこと…

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全てが滞りなく進んだこの11年間は、まさに夢の時間でした。

これからは旅から離れ、遠く離れた日本からセルビアバレーの応援を続けていくことになります。しかしCOVID-19の出現により、新しい生活様式、新しい応援方式が必要とされ、私は今、リモート応援としてどんなことができるのだろうかとワクワクしています。
新しい時代…新しいサポート方法、それを模索しながら私はこれからも、セルビア愛を貫いていくでしょう。現地観戦からは退いても、もはやセルビアバレーは私の生活の一部になってしまっているのです。

【完】

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