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スクール長コラム 「デザイン思考を考える」③

9月12日 神戸大学V.School長 國部克彦

<共感(emphasis)>
デザイン思考の第1ステップは,「共感(emphasis)」です。なぜ,共感から始まるかといえば,デザイナーがクライアント問題やニーズを把握する必要があるからです。これが「理解(understanding)」でないところが重要です。理解であれば,対象を形式的に理解して「了解!」ということになりますが,私たちが抱える問題やニーズの多くは,言語化できないところに本質があって,言葉で説明しているのはその一部に過ぎないということが往々にしてあります。その深層まで把握しないと本当に良い仕事はできません。そのための方法が「共感」です。前回のJTプロジェクトで,現象学のことを習ったと思いますが,共感するためには「判断停止」することが必要です。つまり,一旦言語化することを停止して,そこで見えてきたものを表現してみると,最初に言語化した記号とは異なる内実を感じることができます。しかし,それも言語化する以上,一種の記号であるという限界はあります。また,共感というものは深まれば深まるほど,一般化するという性質を持っています。たとえば,「りんご」だけでは共感が深まらないですが,「おいしい」であればその範囲は格段に広がります。これを価値創造に応用する場合は,創造されるべき価値について,共感することが必要になります。これは,価値観の共通性の問題でもあるのですが,価値を考えるときにとても大事なポイントです。自分一人だけの価値であれば,何もスクールまで作って教育・研究する必要がありません。しかし,二人以上に共通の価値であれば考えるに値します。しかも,それが多数に共有されればされるほどその価値の重要性は高まります。ハンナ・アーレントは,複数の個人の間の共通性が公共性の最も基本的な要件であると述べていますが,それは価値にもあてはまります。それを探り当てるために,できるだけ相手に寄り添って「共感」してみましょう。今まで気が付かなかった価値が見えてくると,心がわくわくします。


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