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スクール長コラム 「デザイン思考を考える」⑥

9月16日 神戸大学V.School長 國部克彦

<プロトタイプ(prototype)>
アイデア出しが終わったら,実際に適用可能な形を作る段階に移ります。これがプロトタイプです。日本語でプロトタイプといえば,試作品という名詞を連想しますが,英語のprototypeは「試作品を作る」という動詞の意味もあり,ここでは動詞として理解してください。さて,試作品を作ることは,これまでの共感,定義,アイデア出しとは,全く異なるステップで,今まで私たちの頭の中だけで考えてきたことを,形にして「世界」に出すことです。それが製品であれば何か模型を作成することを意味し,サービスのような無形のものであれば,ビジネスプランのような計画でも構いません。ここで重要なことは,最も重要な部分をモデル化することです。試作品ですから,細部にこだわる必要はありません。本質的な部分だけを目に見える形にすれば,第一段階としては十分です。目に見えるようにするということは,要素間の関係をはっきりさせて全体を示すことです。これまで主観の世界にとどまっていた「共感」「定義」「アイデア」を,客観の世界で構成しなおしてみることです。そこで初めて要素間の関係がモデルの構造として機能することが見えてくるでしょう。模型を作るのであれば,それは自然界という客観の検証を,部分的かもしれませんがすでに受けることになります。したがって,プロトタイプとは主観的なアイデアの最初の実践と言ってもよいでしょう。「世界」を見る4つの方法の4つめで紹介した「実践から<世界>に迫る」段階に入ってきたのです。「実践」段階の特徴は,「世界」の真理が実践の中にあるということです。したがって,すべての主観的なアイデアは実践の中で検証されなければなりません。しかしその前に検証可能な形式にしておく必要があります。それがプロトタイプです。プロトタイプは,要素間の関係をモデル化したものですから,それはひとつの全体(システム)でもあります。社会というシステムの中で,私たちが作った小さな「システム」が実際に機能できるのか,それを確認するのが次の段階の検証(test)です。

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