見出し画像

スクール長ダイアログ <SDGsの価値①>

10月6日 神戸大学V.School長 國部克彦

 SDGsという言葉をよく聞くようになりましたね。Sustainable Development Goalsの略で,17の目標と269のターゲットから構成されています。2015年に国連で採択されて,2030年の達成を目指す世界的な枠組みです。SDGsは国の目標として設定されたものですが,民間組織の協力も奨励されることから,多くの企業がSDGsの重要性を強調するようになり,ビジネス界ではSDGsのバッチをつける人が特に経営の上層部で目立つようになりました。阪急電車など,SDGs車両を走らせているほどです。神戸大学もSDGs推進室を設置していますし,V.Schoolでも価値設計の授業はSDGsの枠組みをもとに構成されています。
 しかし,SDGsの認知は意外に普及していません。多くの企業では報告書上ではSDGsに取り組んでいるようですが,実際のアンケート結果から分かることは,経営の上層部の理解は進んでいるようですが,一般社員への浸透度は今一つのようです。また,若者への浸透も芳しくありません。昨年,國部研究室で神戸大学生のSDGsの認知度を調査しましたが,授業で習ったことのある学生以外にはほとんど浸透していませんでした。これは神戸大学に限ったことではなく,学生を対象とした大規模な調査でも傾向は同じです。
 それでは,NGOはSDGsに熱心に取り組んでいるのかと言えば,SDGsを推進するために組織された団体やメインの活動がネットワークづくりのような組織を除いて,環境問題や社会問題を対象としているNGOのSDGsに対する関心もそれほど高くありません。國部研究室では,NGOもいくつかも調査しましたが,個別の課題に熱心に取り組みをしているNGOほどSDGsへの関心は高くありませんでした。オーストリア留学中の学生にも現地のNGOを調査してもらいましたが,結果は同じでした。
 では,SDGsに取り組んでいると言っている企業が何をしているのかと言えば,企業のサステナビリティ報告書などを見てもらうとわかるのですが,SDGsがなくても取り組んでいたことに,SDGsのラベルを貼っているだけのケースが圧倒的に多いです。それは大学でのSDGsの取組も同様です。そのこと自体は批判されるべきことではありませんが,SDGsがあってもなくても,その活動をしているのであれば,SDGsは実践に何の影響も与えていないということになります。
 NGOのSDGsへの関心が低いのもそれと同じで,SDGsがあるから今の活動をやっているわけではなく,SDGsとは独立に自らの活動をしているので,SDGsにそれほど関心はないわけです。ただし,企業や大学はSDGsをやっていることを強調し,NGOはことさら強調しないのはなぜでしょうか。それは,企業や大学はSDGsをやっていることがアピールになるのに対して,NGOは活動そのものなので特にSDGsを強調する必要はないからです。なぜ,企業や大学にはSDGsをやっていることがアピールになるのか,皆さんも考えてみてください。
 世の中でほとんどすべての人が支持するように見える概念は,常に眉に唾をつけてその本質を見抜かないといけません。大概は,表面的な主張の裏に,本当の姿が隠されています。SDGsはそのような概念の典型と言ってよいでしょう。それでは,SDGsの本当の価値はどこにあるのでしょうか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?