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スクール長コラム 「デザイン思考を考える」④

9月13日 神戸大学V.School長 國部克彦

<定義(define)>
「共感」のプロセスの次は「定義」です。日本語のデザイン思考のテキストでは「問題定義」と訳される場合もあります。私たちの場合は「価値定義」と言ってもよいでしょう。これがデザイン思考の5つのステップで一番重要なステップだと思います。定義次第で,今後の方向性が大きく変わるわけですから。「共感」ステップでは,クライアントの問題の深い部分まで感じることが大切でしたが,今度はそれを解決するために,つまり行動を起こすために,言語化する必要があります。主観の段階で議論していた内容を客観の世界に移す必要があります。形式化と言ってもよいでしょう。このとき初めて私たちの周りに「世界」が成立します。しかも,この定義は次の行動を起こすためのものですから,抽象的なものではなく,できるだけ具体的なものであることが望まれます。これを価値に関していえば,目指すべき価値の領域を確定する作業と言えるでしょう。「日常生活における心の豊かさ」であれば,「心の豊かさ」という抽象的な言葉では行動に移せませんが,「風景で癒されたい」,「人間関係を充実させたい」,「五感を研ぎ澄ましたい」であれば,やや具体的になります。これに場所や対象まで加えれば,次の行動に移しやすくなります。ただし,行動しやすい定義を追求するあまり,第一ステップの「共感」を損なうようなことがあると問題です。「共感」には徹底的にこだわらないと,平凡な定義しかでてきません。なお,デザイン思考のイノベーションは,問題からいかに斬新な定義に至れるかで勝負が決まると言ってもよいでしょう。そのためには,「共感」のステップをできるだけ深めておく必要があります。定義とは,主観と客観の往復運動ですから,主観が深いほど,客観も深くなります。また,一度定義を決めたら,最後までやりきる覚悟も必要です。第3ステップ以降で困難を感じて,定義を変えたりすると,なかなか前には進めません。一度決めたことはよほどのことがない限り変えない。これはデザイン思考だけでなく,人生の原則です。それでは変化できないではないかと思われるかもしれませんが,本当の変化は変わらないものの上にしか生じないのです。


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