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ボトルシップの秘密

Ships in bottlesとは、ガラスの空き瓶の中に、帆船の模型を封じ込めたものです。長い航海中に暇を持て余した船乗りが、ウィスキーの空き瓶で工作した・・・とどこかで読みました。伝統的には、木や紙でできています。マストをたたんで瓶の口から押し込んで、糸を引くと瓶の中でマストが立ち上がる!というトリックが有名ですね。

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これから私がお話するのは、ガラス工芸の話です。ガラスの船がガラスの瓶に入ったものです。船体も帆も瓶も全部ガラスで、接着剤などは一切使用せずに組み立てられています。

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皆さんは、こういったガラスのボトルシップをお持ちですか?見たことがありますか?私は、どこかのお土産屋さんで見たような、ありふれたとまでは言わないけれど、ガラス細工の定番のひとつだと思っていました。

私は現在、ガラスアートの制作・研究者として、イギリス北部のサンダーランドという町に住んでいます。15年ほど前に私はガラスの道に入り、ここの美大に通いました。大学に併設して、イギリスの国立ガラスセンターがあります。

自分でガラスをいじるようになると、ガラスの船を瓶に入れる手順も推測できてしまうし、アーティスト育成に主眼を置く美大ではこういうプロダクト系は敬遠されていて、ふれる機会がありませんでした。ただ、ガラスセンターの隅で売られているボトルシップが、見た目の割にすごく安価なのが不思議だとは思っていました。人気がないのかな、ならばなぜわざわざ作るのかなって。

大学卒業後、ガラスセンターの職人さんとよく仕事をするようになり、職人の知恵や修行時代の話などをいろいろ聞かせてもらいました。ある日、私は何気なくボトルシップを手に取って質問したのです「これはどうやって作るの?」すると、職人さんはまるで興味がなさそうな様子で、「ああ、もうそれはいいよ。作らないほうがいいよ。もう終わったんだ。」と言いました。

(・・・・・・終わったって何が?)

何かいけないことを聞いたかなと思いましたが、単に重要でないという感じであしらわれてしまい、長いことそれは謎のままでした。いえ、別に謎とも思わずに、忘れて過ごしていました。

ガラスセンターには、観光の方も大勢みえますが、サンダーランドの地元のお客様も多いです。常連さんがやってきて何時間と雑談に花が咲くこともよくあります。何だかそれが楽しくて、私も毎日のように通っていたところ、少しずつ点と点がつながりはじめ・・・

(あれ、この人も「ボトルシップは終わった」って言っている)

一体、ボトルシップの何が起こり、何が終わったのか。

研究とは、疑問から始まるのではなく、疑問に気づくところから始まるのだとつくづく思います。長い間、気づかずにいた、ボトルシップの背景というテーマがようやく明らかになり、私は調査を始めました。

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