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BTSラップラインの三者三様のラップスタイルを掘り下げてみる

以前からずっとやりたかった本企画、BTSの要であるラップライン(RM,SUGA,J-HOPE)のそれぞれのラップスタイルを掘り下げてみようというものです。ん?『要』?と引っかかった方がいるでしょうか?BTSの要は歌の上手なボーカルラインでは、とか?どちらも、超大事です(笑)

ただですね、最近感じていたのは、爆発的なヒットでBTSをより広く認知させるきっかけとなった「Dynamite」という曲によって、BTS=Dynamiteの人たち、という印象だけがついているのではないかという懸念です。彼らはファンキーでハッピーなサウンドで世の中を明るくしているだけではないのですよね。これまでのアイドルソングには無かったような、社会の不条理や私達の心の闇などにも目を向けた楽曲もあります。ヒップホップアーティストとしてBTSにハマり、ラップラインバイアスな私からすると、あの曲では世の中にラップラインの魅力がお伝えしきれていない!ARMYならご存知のはずですが、BTSは「ヒップホップ」から始まっているグループ。今でも過去の楽曲を聞き歌詞を味わうと、そのパンチ力の強さ、アイドルがこんな辛辣に世の中を斬るの!?という良い意味でその口の悪さに驚かされます。

ということで、前振りが長くなりましたが、今回は、ラップラインのそれぞれのラップスタイルについて一人ずつみていきます。
※文中での分析内容には私の主観的な見解が含まれます。文中にある歌詞の和訳には私の意訳が含まれます。ご了承ください。

生粋のラップマニア、RM 

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ヒップホップとの出会い

RM、以前はRap Monster(ラップモンスター)という名前でしたね。その名の通り、ラップをこよなく愛し、ラップ道を追求し続ける彼の経歴を少し振り返ってみましょう。

彼は小学2年生の時にすでに「孤独」や「自己と世界の関係」などに焦点を当てて詩を書いていたのだとか。(すでに天才の匂いが・・・)自分の作品をオンラインの詩の投稿サイトに約1年間ほど投稿し、そこで注目を集めたことにより、RMは文学のキャリアを追求することに興味を持ち始めたそう。
小学6年生の時、友人に薦められたエピックハイの「Fly」を聞いてヒップホップに興味を持ったと過去のインタビューで話しています。エピックハイの「Fly」は、2005年にリリースされた"vol.3:Swan Song"に収録されている楽曲。ポップで明るいサウンドと弾むようにリズミカルなラップで、世間が何といっても行け、飛び立てというポジティブなメッセージが込められた一曲です。
「大きなショックを受けた。ラップでこんな風に人の話ができるんだと思った。その時からシャワーの時にも音楽をかけたり、歌詞を書き出して覚えたり、僕が手を加えてみたりした。多分3000~4000回は聞いたと思う。」とも話しています。これまで文字で綴っていた詩を、音にのせて届けられるラップに魅力を感じたんですね。この曲が、世界へ飛び出してみたいと夢見た小学6年生のキム・ナムジュン少年を励まし、背中を押して、今があるのだと思うと、音楽の力というのは人の人生を変えるほど強いものなのだと改めて感じますね。

ちなみに、Flyの中に「소우주 (Mikrokosmos)」の歌詞「夜が深いほどより輝く星の光」に通じるような歌詞を見つけられるのは、偶然ではないでしょう。

어두운 밤일수록 밝은 별은 더 빛나 
(暗い夜ほど明るい星は輝く)


アンダーグラウンドで活動していたラッパー時代

ヒップホップチーム・大南朝鮮ヒップホップ協同組合(※)に籍を置き、「RunchRanda」という名前で活動していました。

※大南朝鮮ヒップホップ協同組合は、キド(ToppDoggとして音楽界にデビュー)、Iron(「SHOW ME THE MONEY 3」に出演)、Marvel.J(「SHOW ME THE MONEY 2」に出演)、Supreme Boi(BTSのアルバムにプロデューサーとして参加)などで構成されたチームで、2009年に結成された。

15歳のときにはBlock Bのジコと「Fuck Cockroacher」というミックステープを作っていたこともあるそう。パンPDにRMを紹介してくれたビッグヒットのプロデューサーPdoggさん。そしてPdoggさんに紹介してくれたのは、ヒップホップデュオ・Untouchableのスリーピーです。スリーピーは過去のインタビューで「RAP MONSTERの中学時代のラップを聞いて自分が恥ずかしくなった」と話していたほど。RMのラップの実力はデビュー前から有名だったということがわかります。そんなRMは、入社後、グループが最初の予定よりも王道のK-POPアイドル的なコンセプトに移行していったので戸惑いますが、パンPDが彼自身が書いた音楽を作ることができると約束してくれたことでグループに残ったというエピソードもあります。

RMが好むヒップホップの特徴と、RM自身のラップスタイルについて

ここまではRMのヒップホップとの出会いをファクトベースで振り返りましたが、ここからは私の主観的な分析がガンガン入ってきますのでご容赦くださいませ。SUGA、J-HOPEについても同じような流れでみていきます。

RMはこれまで好きなアーティストとして公言しているのは、Kanye West。現在プレイリスト(4月28日時点)にはヒップホップアーティストだとT-PainやDiddyが入っています。

2015年に出したミックステープ「RM」にサンプリングされている曲をみてみると、「Do You」はMajor LazerとPharrell Williams の楽曲"Aerosol Can"、「Monster」はJ Coleの"Grown Simba"、「표류」はDrakeの"Lust4Life"、などがあります。


あくまで個人的な見解ですが、RMのラップは、BTSにいる時とミックステープでフロウの仕方が違うように感じます。BTSでラップをする際は、オールドスクールなラッパーのような節回し。重心が低い、ねっとりした感じ。彼の英語には、みなさんもご存知の通り、ブラック系のアクセントやリズム感を感じます。ラップのフロウについてもブラック系のラッパーから影響を受けているのではないかと思います。以下に載せるのは私の好きなラッパーが勢揃いしている曲ですが、このなかで、3:38〜のLil Wayne(アフリカ系のブラック)のラップが近い気がする。

ミックステープでは、メロディアスで、たまにささやくような、ライトな感じ。特に、mono.以降はその傾向が顕著になっていきます。

トラックについて触れてみると、「RM」でサンプリングしている曲はヒップホップ好き青年のヒップホップ良曲セレクションなのですが、だんだんとヒップホップ以外のジャンルから影響を受けて曲風が変わってきます。

彼のSpotifyのリストには、ロバート・グラスパーのようなジャズミュージシャン、カシー・ヒルのようなR&Bアーティストなどが入っています。今までのリストでも、心が安らぐメロウな曲が多く選ばれていました。また、リストにあるボン・イヴェールの楽曲やT-painの楽曲はどちらもボイスチェンジャーが使われていますが、電子音を使った空間的奥行きを感じるサウンドが好きなのかな?とも感じます。mono.でのHONNEとのコラボレーション曲「seoul」には、そんな彼の”好き”が詰まっている気がします。

リリックについては、BTS名義での楽曲はアルバムのテーマなどにも沿って書いているので分析は割愛しますが、ミックステープだけでみると、「RM」(2015年)を出した頃の彼の歌詞のインスピレーション源は、彼自身の「内なる闇、不安、貪欲」。「mono.」(2018年)の「tokyo」「seoul」「forever rain」では「孤独」がテーマになっています。RMの歌詞は、外的要因ではなく、常に内省から生まれてきていることがわかります。

そして、今でこそ、RMが盆栽を育てたり、植物と触れ合うことで自分を取り戻していることが有名ですが、彼のリリックには、気候や自然に関する表現がよく見られます。
以前RMが、友人と「雨が降っているところと降っていないところの境界はどこだろう、そこまで走ってみよう」と試したら、いくら走っても雨雲にはたどり着けず、自分は韓国人だから韓国人以上のことはできない、僕もこれ以上のことはできないんだ、という気付きを得た、という話をしていました。自然の事象を哲学的に解釈する、彼の自然との向き合い方が表れているようで大好きなエピソードです。(今日リリースされた、eAeron氏とのコラボ曲Don'tの歌詞にも、波や野花といった言葉が出てきます)

하루 총알 비가 왔음 좋겠어 
一日中雨が降っていてほしい
누가 나 대신 울어줬으면해서
誰かに僕の代わりに泣いてほしくて
종일 비가 왔음 좋겠어 
一日中雨が降っていてほしい
그럼 사람들이 날 쳐다 보질 않아서 
そしたらみんなが僕を見ないから
우산이 슬픈을 가려 주니까  
傘が悲しみを隠してくれるから
ーforever rain
사람도 아픔도 언젠간 죽기에
人も痛みもいつかは死ぬ
무뎌지려면 바람을 맞아야 하잖아
鈍感になるには風を受けなければいけない
꿈속에서는 영원할 수가 없잖아 
夢の中では永遠に続かない
힘내란 뿌연 말 대신
"頑張って"と濁った言葉の代わりに
다 그럴듯한 거짓말 대신
全部もっともらしい嘘の代わりに
그저 이 모든 바람 바람처럼 지나가길 
ただこの全ての風  風のように過ぎ去りますように
ー지나가

ケンドリック・ラマーが「DAMN.」というアルバムでラッパーとして初めてピューリッツァー賞を受賞しましたが、その時の選考委員会はこのように述べています。「生きた本物の言葉で紡いだ巧みな曲の集成であり、力強いリズムを相まって現代のアフリカ系アメリカ人の人生の複雑さを切り取った、感動的な挿話になっている」

RMも、これまでもこれからも、多くの人々をインスパイアする言葉と美しい風景描写や心情描写で、いつかラップレジェンドとしてその名を刻む日が来ることを願っています。

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RMの作詞術

メンバーの楽曲制作の際に、RMにヘルプしてもらったというエピソードをよく耳にしますが、一体どこからそんなに言葉が出てくるのでしょうか。デビュー当初の頃からの作詞の様子からみていきたいと思います。

「地方のファンサイン会に行く時の移動時間を利用したり、宿などでも時間があるたびに歌詞を書き、作業を続けた。最近は技術が発達しているので、スマートフォンに録音やメモをしてメールで送ることもできる。僕は元々同時に違うこともやるというマルチタスクが上手くできなかったけれど、最近は少しずつできるようになっている。これからも活動をしながら曲を書いて作業するためには、色んなことが同時にできるようにならなければならないと思う。」-2013.10.23 http://jp.tenasia.com/archives/13230 

Bon Voyage4ニュージーランド編でも、一人だけアクティビティに参加せず、キャンピングカーの中で歌詞を考えるRMの貴重な姿をみることができます。悩んでいる表情をみると、私たちの見えない場所で、日々、産みの苦しみを味わっているのだと気づかされ、歌詞を味わって大切に聴こうと思わされます。


ヒップホップを生きる、SUGA

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あくまで私の印象ですが、RMをヒップホップをこよなく愛するマニアだとすると、SUGAは”ヒップホップという血液が流れ、生きている人”と表現したくなるんです。

ヒップホップの起源は1970年代、ニューヨークの黒人街ブロンクスに遡ります。アメリカのストリートギャング文化とも関係があると言われており、抗争を無血に終わらせるために、銃や暴力の代わりとしてブレイクダンスやラップの優劣が争われていました。それは、ラップバトルという形で、現在でも力の見せつけ合いや権力争いの方法として残っています。

これは本当に主観ですが、わたしはエミネムの少年期とSUGAに通じるものを感じています。エミネムの自伝的映画「8miles」では、主人公が得意のラップで成功し、いつかこの貧困や犯罪とは縁のない、8マイル(富裕層と貧困層、白人と黒人を分けるような位置にあったデトロイトの道)の向こう側に行くことを夢みている。有色人種が圧倒的な数を占め、権力を持っていたヒップホップ界で、白人のラッパーとして初めはなかなか勝つことができない。しかし、現状を打破するために努力を重ね、いくつものMCバトルを勝ち抜いていく。
私は、いつも何故かここにSUGAを重ねてしまうんです。アイドルは本物のラッパーになることができないと、最初は劣等感に苛まれていた彼が、BTSのメンバー達と共に、自信を持ってマイクを握ることで、世界的なアーティストとして認められるようになる、というこれまでの足跡。

내 주소는 아이돌 부정은 안 해
俺の居場所はアイドル 否定しない
수 차례 정신을 파고들던 고뇌
何度も精神を蝕んだ苦悩
방황의 끝 정답은 없었네
迷いの果て 正解はなかった
팔아먹었다고 생각 했던 자존심이 이젠 나의 자긍심 돼
売ってしまったと思っていたプライドが 今では俺の誇りになってんだ
내 fan들아 떳떳이 고개들길 누가 나만큼 해
俺のファン達 堂々と顔をあげろ 誰が俺ぐらいできんだよ
ーThe Last

また、ヒップホップの世界では、ドラッグに溺れていくもの、犯罪に手を染めるもの、仲間同士の抗争で命を落とす者もいる。ここまで過激とは言わずとも、SUGAの楽曲には、そうした暗い過去を背負う友人の話、彼らとの別れについても出てきます。彼自身も、事務所に所属しながらも配達のバイトをしたり、なけなしのお金で宝くじを買っていた話、バスにのるか一食の食事をとるか迷っていた話、自力で暮らしていくのに金銭的に困難だった時代も過ごしています。

SUGAのラップには、彼の人生が刻まれている、そして、今もその物語を生き続けている、そんな風に感じています。ヒップホップはもはや彼の一部となっているような。

私の考えだけでこんなに長くなってしまいましたが、彼の音楽ルーツについて改めて振り返りましょう。

ヒップホップとの出会い

彼のルーツについてはこの記事で触れているので、ご覧ください、としたいのですが、さらに追加情報も見つけたので、改めて書いておきます。

彼のヒップホップとの出会いは、まさかの「レゲエ」なのです!STONY SKUNK というレゲエ・ヒップホップグループの「Ragga Muffin」という曲を聞き、そのステージを見た時に、「何かが違うと思った」のだそうです。「彼らの音楽は流行の音楽とはまったく違っていたにもかかわらずハマってしまった。それで、STONY SKUNKの1枚目のアルバムから聞き始め、レゲエ・ヒップホップジャンルが好きになり、さらに同時期にEpik Highが出てきて、ヒップホップに魅力に本格的にハマるようになった。」と話しています。

RMのきっかけはEpik highのFlyでしたが、SUGAの好きな曲もFlyです。
SUGAは、13歳ごろから、歌詞を書き始め、MIDIを学んだそうです。大邱の実用音楽学院「BAS ACADEMY」(SUGAを売りにしすぎでは!?となるHPで面白い)でも学んでいたようですが、コースなど詳細は不明。17歳までレコーディングスタジオでアルバイトもしつつ、アンダーグラウンドラッパー Gloss(ユンギという名前にも込められている、艶という意味)として大邱で活動していました。ソウルの芸術高校に進学を目指して、クラシック音楽の作曲も勉強していましたが、金銭的な事情で諦めたそうです。(このあたりもみなさんご存知のエピソードなので割愛)2010年18歳の時に、作曲家を募集するオーディション「HIT IT AUDITION」で合格。事務所の提案で、裏方から表に出る人に・・・。SUGAが激しく踊っているのをみるたび、少し音に合わせて身体を揺らすだけでいいと言われたのに、という彼の言葉をいつも思い出してつい微笑んでしまいます(笑)
おっと話が逸れました。

SUGAが好むヒップホップの特徴と、SUGA自身のラップスタイルについて

SUGAも好きなアーティストにKanye Westをあげていますが、ペチョルスさんのラジオでは、T.I.も好きであることをあげています。そして、彼のSpotifyのプレイリストはわかりやすくヒップホップの嗜好が出ています。彼こそ、RMのラップスタイルにようなオールドスクール系ヒップホップが多いんですよね。ノートリアスB.I.G.やCommon。(21年4月28日時点)

以前あげていたものだと、T.I.、Nas、カニエ、2Chainzやら、強面揃いの、男臭いゴリゴリなラインナップでございます。

フロウについてですが、以前私はこのような呟きをしたことがあります。

以前プレイリストでThe Way I Amを選んでいるのでエミネムを聞いているのは確かです。RMは節全体がひとかたまりとなってねっとりとうねるような感じですが、SUGAのラップはザッザッザッザと高速に刻むことが多い気がします。連続カウンターパンチを食らわせて、殴られてる相手が起き上がる暇もなくノックアウトみたいな感じ。(感覚的な表現ばかりですね)声を裏返してしゃくりあげるような技も頻繁に入れています。

トラックは、AgustDでもBTSでの楽曲でも攻撃的な音を好む一面が強かったと思います。Spotifyのプレイリストに入れている"Buggatti"とかはAgustDの楽曲に近い攻撃性を感じますね。
ただ、SeesawやPeopleに見られるようなメロディアスなサウンドも年々増えてきている感じがあります。それは、ヒップホップ業界自体のトレンドでもあると思います。LogicやPost Malone、Juice WRLDなど、エモーショナルなリリックをメロディアスに歌い上げるスタイルのアーティストが続々と出てきています。

彼が音楽プロデュースを手掛けた楽曲はバリエーション豊かで、ルーツであるレゲエや、一度は目指したクラシック音楽、といった、ヒップホップだけを学んできた人ではないからこその感覚があると思います。音楽トレンドにも敏感なので、今後もどんどん新たな方向性の音楽を作っていくのだろうなと楽しみにしています。

リリックについてみてみましょう。ビシャッと血飛沫が舞いそうな、切れ味鋭いディスが溢れた1stミックステープ「Agust D」。4年前の彼は、攻撃することで自分の身も傷付けてしまいそうな、諸刃の剣のような激しいリリックが特徴的でした。

직업을 전향해
転職しろ
삽질하는 게 예삿 폼이 아냐 전향해
無駄なことするのは普通じゃねえから 転職しろよ
I’m sorry 진심야 미안해
すまねえな 本心なんだ 悪いな
니 랩퍼가 나 보다 못하는 것에 대해
お前んとこのラッパーが俺よりも下手クソだってこと
ーAgustD「Agust D」

名声、金、地位の誇示、ヘイター達を蹴落とすディス(攻撃・皮肉・批判)。
これらはラッパーにおける王道なテーマではありますが、SUGAにそうしたことを歌詞に書かせる原動力は少し特殊です。「アイドルであること」が苦悩させ、批判される種ともなり、そして今やその道を選び成功した自分があることを誇りにも感じ始めている。

しかし、3年後の「D-2」ではリリックの内容に変化が見られます。3年の間にとてつもなくビッグなアーティストに成長したため、心境に変化があるのは当たり前ではありますが、外部へのディスよりも、内省的な歌詞が増えたように思います。(「Strange」「Moonlight」「Set me free」など)
「大吹打」のようにヘイターへの攻撃力は健在ではあるものの、近年、彼は心理学を学んでいるとも話していますが、「People」のような内省を通して悟ったことをリリックに込め、彼らしい方法でリスナーの心に寄り添う楽曲が今後も出てくるのかなと思います。

뭐 어때
いいじゃないか
상처받으면 뭐 어때
傷ついたっていいじゃないか
때론 또 아플지도
時にはまた苦しくなったって
가끔은 속상해 눈물 흘릴지도
時々 悔しくて涙を流したって
뭐 어때
別にいいじゃないか
그렇게 살면 뭐 어때
そうやって暮らしてもいいじゃないか
물이 흘러가는 대로 흘러가
水の流れのままに流れていく
저기 끝은 뭐가 있을지도
その果てに何があったとしても
특별한 삶 평범한 삶 그 나름대로
特別な人生 平凡な人生 それなりに
좋은 게 좋은 거지 뭐
いいのがいいんだよ まあ
ー사람

ユンギの話は、こちらもどうぞ。

ポジティブなエナジーを届け続ける
次世代のラッパー、J-HOPE

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RMとSUGAはデビュー前からアンダーグラウンドのヒップホップシーンで活動しましたが、J-HOPEがラップを始めたのはBTSになってから。そんなエピソードを知らなければ全く気付かないほど、素晴らしいラッパーですよね。
彼のヒップホップとの出会いをまずは振り返ります。

ヒップホップとの出会い

デビュー時のインタビューでは、「普段からヒップホップが好きでよく聞いていた。僕は元々ダンスを踊っていたけれど、主にヒップホップ音楽に合わせてダンスを踊っていたので、ヒップホップ音楽には親近感を抱いていた。」と話しています。ラップという形で繰り出される詩に影響を受けたRMやSUGAと異なり、J-HOPEはヒップホップをダンスミュージックとして聞いているところがポイントかと思います。

J-HOPEが好むヒップホップの特徴と、J-HOPE自身のラップスタイルについて

Spotifyのプレイリストに選んでいる楽曲も、どれもビートが特徴的で、まさに踊ることに適した音楽。ミックステープ「HOPE WORLD」では、ラップのためのトラックに囚われず、シンセポップ、トラップ、ハウス、オルタナティブヒップホップ、ファンクソウルといったジャンルが並んでいます。

フロウですが、彼の声がRM、SUGAと比べて、クリアで太く通る声なので、輪郭がはっきりとしているのが特徴的かと思います。リリックを優先すると字足らず、字余り、後ノリのようなフロウもあり得ますが、J-HOPEの場合、リズム感とビート優先なので、音にはめにいく、ジャストで合わせにいくような感じ。聞いていてとても気持ちのいいラップですよね。ヤッヤー♪ヘイ♪みたいな言葉ではない音を結構入れてきたりもします。

似ているラッパーでいうと、DrakeやJ.Coleは、リズム重視のラッパーかなと思います。また、元々はラッパー志望だったChris Brownの音楽にも通じるところを感じます。J-HOPEは、彼らの曲は聴いているようなので多少は影響を受けているかもしれません。

J-HOPEとジョングクがよく踊っている、DrakeのToosie Slide

Chris Brownのヒップホップよりの曲もつけておきます。

そして、リリック。J-HOPEの見出しにも書きましたが、J-HOPEのラップは、ポジティブなエナジーを放っていることが魅力かと思います。ミックステープのタイトル曲「HOPE WORLD」でも、このような歌詞があります。

즐겨 해 욕과 속된 말 But
楽しんでする悪口と品のない言葉 しかし
내 음악에선 안 해
俺の音楽ではしない

元来ラップは、ビーフ、ディスという言葉があるように攻撃的で批判的で、時に自虐的な言葉も多くなりがちです。そのような暗黙のルールにはのっとらず、彼の性格が滲み出るような明るくエネルギッシュなリリックに励まされます。いくつかミックステープから希望的なリリックを引用してみます。

전하고파 용기를
伝えたい 勇気を
행복의 기준은 너고 그 길을 걸어
幸せの基準は君、その道を歩いて
ーP.O.P(Piece Of Peace)pt.1
이젠 내게 기대도 돼 언제나 옆에
もうこれからは俺を頼ってもいいよ いつでもそばにいる
Hey mama
내게 아낌없이 주셨기에 버팀목이었기에
俺に惜しみなく捧げてくださり、 支えだったから
Hey mama
이젠 아들내미 믿으면 돼 웃으면 돼
これからは息子を信じていればいいよ 笑っていればいいんだよ
ーMAMA (※どの歌詞も素晴らしくて抜粋するのが難しかったです)

ラップをやる人間に対してこれまで世間は、口が悪く、だらしのない格好で、悪い友達と環境に囲まれた人たちという印象があったと思います。今もドラッグに手を染めたり、Fワードを連発するようなラッパーもいます。そのようなラッパー像を打ち破るような、J-HOPEのように希望的な言葉を放ち続けるラッパーというのが、一つの流派というか、新しいスタイルになっていくのもいいのではないかなと私は思います。

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ここまで、ラップラインの3人の、ヒップホップとの出会いや、超主観的ではありますがラップスタイルの違いをみていきました。もし今後、彼らのラップを聞く時に、どんな個性があるか、読者の皆さんなりに、違いを考え、感じながら聴いていただくと、より音楽を楽しめるのではないかと思います。そして、この記事を通して伝えたいことは、BTSはアイドルグループではあるものの、ヒップホップへの深い愛と造詣があり、研究熱心で、天才的な才能を持ったラッパーが3人属していること。それがBTSを唯一無二の存在にしている数ある要因のなかの一つであると思います。これからもわたしは彼らを"respect"し続けます!

おまけ(でも重要な話):BTSの楽曲制作について

2013年のインタビューの時点で、BTSの楽曲制作のプロセスではBTSのアイデアがかなり優先されているということがみてとれます。
メンバー自身も経験を積み、知識も増えた今では、より一層、その比重は大きいのではないかと思います。

Rap monster:パン・シヒョクプロデューサーは総括ディレクターの役割を果たす。実質的なトラックの作業やプロデュースをするのは僕たちだ。Pdoggというプロデューサーの兄さんがトラックを作り、メンバー全員で集まって歌詞を書く人やメロディーに合う声の人などについて話し合う。それで、むしろ僕たちが欲張ってパン・シヒョクプロデューサーにやりたいことや意見などをたくさん提案している
SUGA(シュガ):パン・シヒョクプロデューサーはタイトル曲以外はアルバムに関与しない。僕たちで曲を作って歌詞を書いていると音楽の雰囲気などが偏る場合があるが、タイトル曲は人々に僕たちを表す曲なので、大衆音楽作曲家であるパン・シヒョクプロデューサーが調整してくれる。

また、以下のように、初期からRMとSUGAがヒップホップにどれほど詳しかったのか、ヒップホップを愛していたのかを感じられ、また、パンPDの判断力と冷静な視点がビンビン伝わってくるような言葉もあります。

Rap monster:パン・シヒョクプロデューサーから「私の耳が一般の人々の耳のデッドラインだ」と言われた。僕たちはヒップホップの中でもハードコアヒップホップ(アメリカのヒップホップの中でも非常に強烈なジャンル)をよく聞いているので、人々の趣向と違うかもしれないからだ。
SUGA:でも、時にはパン・シヒョクプロデューサーも逆にそんな“僕たちならでは”の雰囲気を出した方がいいと言ってくれて、そんな音楽を要求することもある。人々と関係なく、もともと僕たちがやってみたかった音楽をやってみなさいと言ってくれる。だから、表現において制約は多くない。

パンPDが自分で選んだBTSメンバー達の音楽の実力とセンスをとことん信じ、彼ららしさを尊重しているからこそ、今でもBTSが変わらぬメンバーで続き、個性的な楽曲を生み出せているのだと感じます。

長くなりましたが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
普段はTwitterにてBTSについてぺちゃくちゃしゃべっておりますのでよろしければ!


<発言の引用元や参考文献>
http://jp.tenasia.com/archives/13230
・https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=1979856
・https://www.oricon.co.jp/special/1239/
・Do Hip-Hop.1 (힙합하다.1): Song Myungsun 

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