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なぜ人は小池都知事にスパチャをするのか?スーパーチャットを贈る心理を学術的に分析してみた(前半4500文字無料)

はじめに

2020年12月、小池都知事の会見のライブ配信にてスーパーチャットが投げられたことがニュースになりました。
また、2020年には桐生ココさんを始めとする日本のVTuberがYouTubeの投げ銭ランキングで世界のトップ3を独占したことが、日経新聞に掲載されました。
このように「スーパーチャット文化」が一般的に広まっていることはもう間違いありません。

少し私の話になりますが、先日経済メディアの「News Picks」さんからインタビューを受けました。
その際に、「ファンがVTuberにスーパーチャットを投げる理由はなんですか」と質問を受けました。
そこで今回は、経済学と心理学の観点から「人がスーパーチャットをする理由」について分析していきます。


【参考文献】
「幸せ」について知っておきたい5つのこと エリザベス・ダン
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論文:経済的な豊かさと寄付の心理的効用の関連 ―東日本大震災前後の比較―
竹部 成崇


人がスーパーチャットをする理由


人がスーパーチャットをする理由は大きく分けて5つあると、私は分析しています。
その5つは

・返報性の原理
・インセンティブによる獲得効用
・ウェブレン効果
・栄光浴
・寄付による心理的効用

この5つです。
それぞれ簡単に解説していきます。

返報性の原理

1つ目の「返報性の原理」とは、言ってしまえば「楽しい配信をありがとう」という感情でスーパーチャットをする行為です。

人間は、親切にされると、そのお礼をしたいという気持ちが芽生えるという心理的な性質があります。
例を挙げると、無料のソーシャルゲームです。基本料金無料でできるゲームはいっぱいありますが、何年もプレイしてると、「無料でこんな楽しいゲームをやらせてもらったんだから、少しでも運営にお返ししたい」のような感じで、課金するという人がいます。
これは返報性の原理に近いところがあります。
YouTubeでいえば、ライブ配信ですごく楽しい配信だと、「こんな楽しい配信を見せてくれてありがとう」と言いながらスーパーチャットをすることが返報性の原理にあたります。


インセンティブによる獲得効用

2つ目は、インセンティブによる獲得効用です。

これは、言ってしまえば「名前とコメントを読まれたい」という欲求です。
スーパーチャットは名前とコメントが主に読まれるのでそこに希少効果が働きます。希少効果というのは、滅多に無いことに対して人間が価値を見出すという効果です。
特に、相手が人気になりコメントをする人が増えれば、通常のコメントでは自分が目立たなくなるので読まれにくくなります。そこで、スーパーチャットで確定で、そのコメントと名前を読んでもらうというところに価値が生まれています。


ウェブレン効果

3つ目は「ウェブレン効果」です。心理学の用語で、「見せびらかし欲求」という意味です。
つまり「俺ってこんなにスーパーチャットできちゃうんだぜ。こんなに財力があるんだぜ。」という、言ってしまえばマウント欲求みたいなところです。
スーパーチャットはマウント欲求を、なるべく下品に見えにくくしながら、暗に他の視聴者や配信者に見せつけることができます。
これは、YouTubeが正にこれを推奨する(煽り立てる)ような効果をスーパーチャットにつけています。スーパーチャットって、贈る額で、コメント欄での枠色が変化します(青、緑、黄、赤)。
額で色が変化するので、いかに高額なスーパーチャットを送るかによって、見せつけ度合いが変わります。

栄光浴

4つ目が栄光浴です。「ワシが育てた」と主張する欲求です。
これは、自分と少しでも関わりがある人が活躍するのを見ると、自身も気分がよくなるという心理効果です。
スーパーチャットをして、自分が推している配信者が今後活躍した時に、「この人は僕の応援のおかげで大きくなったんだ」っていう気分を味わいやすくなっているということです。
具体的に言うと、例えば自分の母校が甲子園に出場したら嬉しいですよね。また、オリンピックで日本人選手が金メダルを取ると、大体の日本人は嬉しいですよね。これも、別に自分が取ったわけではないけど、自分と関わりあるような人が活躍すると嬉しくなるという欲求です。


寄付による心理的効用

最後、5つ目の理由が、寄付による心理的効用、つまり「応援したい」という気持ちですね。活動を応援したいという純粋な気持ちです。
今回掘り下げたいのはこちらです。より深く解説していきたいと思います。

ここ以外の心理効果については、私のYoutube動画でガッツリ解説しているので、興味ある方はそちらをご覧ください。


スーパーチャットで幸福度が上がる

ここからは「スーパーチャットは寄付である」という説について話していきます。

結論、「スーパーチャットをすることで人間の幸福度が上がる」という私の主張です。
大前提として、人間は「寄付をすると幸福度が上昇する」ということはもう間違いありません。「他者のためにお金を使うと幸福感が上昇する」というのは、経済学の実験で明らかになっております。


幸福度測定実験

ある実験では、まず参加者の幸福感を朝に測定しました。
その後、参加者に5ドルあるいは20ドルを渡して、自分のため、または、他人のために使うように指示しました。
その日の夕方に、再び幸福感を測定した結果、「使用した金額に関わらず、誰かのためにお金を使った参加者の方が、自分のために使った人よりも幸福感が上昇していた」のです。
この研究をきっかけに、その後多くの研究で「他者のためにお金を使うことで、幸福感を得ることができる」ことが示されております。

「なるほど。寄付で幸福感が増すのは分かった。じゃあ、なぜ寄付すると幸福感が増すんだ?」というと、寄付は「関係性」「有能性」「自立性」に関する欲求を満たすからだと考えられてます。この3つの欲求を満たすと幸福感が高まるということを、自己決定理論といいます。

それぞれの欲求について解説していきます。

自己決定理論

関係性に関する欲求は、「相互作用を持つ周囲の人間との関係性をうまく持ちたい、持っていたい」という欲求です。
寄付をすることで、寄付をした相手との距離が親しくなる、「親密になる」という効果を持っているために、関係性に関する欲求が満たされると言えます。

有能性に関する欲求は、「有能な人間でありたい」という欲求です。
寄付は社会的な行動なので、寄付をすることで、社会に対してポジティブな影響が及ぼされます。そういうところで、自分が有能な人間だと自己認識できるという欲求が満たされます。

自立性に関する欲求は、「自分の行動を自分自身で決定したい」という欲求のことです。
寄付だったり、スーパーチャットも、「自分が決めて、自分から贈るもの」ですよね。誰かに言われてやるものではないっていうところで、「自分で決定している」という欲求が満たされます。


この3つが満たされることで、幸福感が高まるというお話でした。
結論、何が言いたいかというと、寄付やスーパーチャットは幸福感が上がるという説です。


使い道が見えないと幸福度は上がらない

幸福度についての、更にちょっと詳しい情報を解説していきたいと思います。


友達に奢る場合は一緒に食べにいくこと/ギフトカードの実験

寄付は、使い道が見えないと幸福度が上がりません。これは大事です。
例えば友達にご飯を奢る際は、一緒に食べに行きましょう。

これを示すギフトカードの実験があります。
10ドルのカフェのギフトカードを、友達のために使った参加者は、自分のために使った参加者よりも幸福になっていました。
その幸福になる時の条件が、ギフトカードを友達に奢ってあげた時に、一緒にそのカフェに行った場合だけ幸福度が上がったという実験結果があります。

何が言いたいかというと、使い道が見えないと駄目なんですね。

これは結局スーパーチャットでも同じことが言えます。
送られたスーパーチャットを、何に使ったんだ。と、使い道がはっきりしてる方が、スーパーチャットを投げる人の幸福度が上がりやすいというところですね。


うさんくさい団体へ寄付したくない/慈善団体の例

もう一個、使い道が見えないと幸福度が上がらない例です。

慈善団体へ寄付する場合も、やはり使い道が不透明な団体への寄付は幸福度が上がりにくい、というデータがあるそうです。これは別に当然の話ではあります。

なので、やはりスーパーチャットで自分の幸福度を上げたい場合は、ちゃんと使い道を明確に見せてくれるような人にスーパーチャットする方が良いです。

スーパーチャットを受ける側であるVTuberとかYouTuberは、実際に何に使ったかっていうのを明確に示してあげることが大事になります。


一度スパチャをすると止まらなくなる

もう1点、スーパーチャットの豆知識です。
「一度スーパーチャットをすると止まらなくなる」という可能性があります。

これは何故かというと、寄付で幸福感が高まった場合、その時の幸福感が残って、また別の人にも寄付をしようっていう動機付けが高まるというデータがあります。
一度寄付で心が満たされた人は、それを別の人にも派生させたくなります。

実際に私もこの影響を受けたことがあります。


桐生ココさんの例

桐生ココという、YoutubeLiveスーパーチャット獲得ランキング世界一位のVTuberがいます。

桐生ココさんは、一時期YouTubeを休止されていた時がありました。その時に、私が桐生ココさんについてのライブ配信を行ったときに、桐生ココさんのファンの方々が、私の配信に遊びに来てくれました。
その時に……桐生ココのリスナーさんは「『スーパーチャット獲得額世界1位のVTuber』のリスナーさん」なので、とんでもない額のスーパーチャットが……私のVTuber活動で初めて、次元が違う額のスーパーチャットが飛んできました。
これは、「千莉の配信すごーい!」というよりは、桐生ココのリスナーさんに「スーパーチャットをする」という習慣があり、他の人にもスーパーチャットを投げる動機付けがされているのだと思います。

なので、「一度スーパーチャットで幸福度が上がった人は、何度もスーパーチャットをする傾向がある」という分析です。

逆に、スーパーチャットを投げても全然コメントが読まれないとか、使い道がよく分からなかったなどの理由で嫌な思いをした人は、もう他の人にも投げなくなるとも言えます。

総じて、スーパーチャットを継続的に投げられるような配信者は、視聴者の幸福度が高まっているという分析もできます。


まとめ

今回のお話をまとめると、「スーパーチャットを投げる理由は色々」あります。

人によってスーパーチャットを投げる理由は異なるのですが、私が一番言いたかったのは、「スーパーチャットは寄付であり、寄付によって人間の幸福度は上がる」ということです。

では、この「寄付で人の幸福度が上がる」という情報を、ビジネスや商売に活かすならばどうすればいいかっていうことの具体的な戦略についてちょっと考えてみたのですが。
あまりにもマニアックすぎるので下の有料記事で公開したいと思います。
もし興味ある方は是非見てみてください。

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