写真de引用って駄目なんですね
ちょっと前に話題になったこの記事(以下の引用から飛べます)ですが、何となく気になったので、判決文もきっちり読んでみましたので、研究をしている大学院生の一個人としての考えをまとめてみました。
争点と判決内容
ぶっちゃけコレはセーフかアウトどっちなの?
これからどうやって使っていけばいいのか
1.争点と判決内容
判決内容の全部はここから見れるので、もっと詳しい事知りたい方はこれを読んでください。( https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/826/090826_hanrei.pdf )
まず争点ですが、大きく分けて3つです。1つ目は、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかどうか。2つ目は投稿の著作物性と引用の可否。3つ目は正当な理由の有無です。
結果ですが、原告側の訴えが認められて、被告側は発信者情報の各情報の開示を行わなければならなくなりました。では次から僕の立場も交えながらこの判例を考察していきます。
2.ぶっちゃけコレはセーフかアウトどっちなの?
さて、1つ目の争点である発信者情報かどうかの話は、畑がちょっと違うきもするので、今回は考察しません。そもそもプロバイダ責任制限法を読んだことがないので、細かい話ができないです。無理なもんは無理なので、この辺りは情報法の専門家に任せたいと思います。
僕が気になったのは2つ目の争点です。投稿の著作権の話と、引用の話ですね。ここの話をしていきます。
判決では、原告の各投稿に関して、(内容の是非はおいといて)「言語の著作物」であることが認められました。つまりは各人が行ったツイートはその個人の意思でオリジナルに発信したものであれば、それはその人の著作物であるということになります。これはまあ当然の話なので、そこまで深掘りする話でも無いです。というより認められない方がややこしくなります。
問題は引用の方です。Twitterにおいては、「他人のコンテンツを引用するコンテンツとして、引用リツイートという方法を設けることが認められ(判決文P12L16~17)」ています。そして被告は「上記の手順を使用することなく、スクリーンショットの方法で原告各投稿を複製した上ツイッターにしていることが認められ(同文P12L18~20)」ました。結果から分かるように、この過程は引用として認められませんでした。
つまり、本件では「引用を行う正規の手段として引用リツイートが機能として設定されているのにも関わらず、それを使用せずスクリーンショットで複製することで掲載したこと」は引用ではないという判断がなされました。ここに異を唱えている人は結構な数います。「批評や議論を委縮させるのでは」というようなものですね。次に僕の意見をまとめます。
僕の立場というか意見としては、「スクリーンショットでの引用は、それが原典と全くの同一であることを証明できなければ意味がない」です。簡単に言えば判決に関して半分ぐらいは賛成側になると思います。
「ネット専門の人間の癖になんだよ」って思う人もいるかもしれませんが、ちゃんと理由はあります。理由は画像ファイルとして一度別個に保存されている以上、「第三者による編集可能性」が否定できないからです。今の加工技術であれば、適当なツイートをスクリーンショットして、その一部を編集で変えることはそこそこ容易にできると思います。つまり、スクリーンショットされたものが原典と同一であることを証明する術をしっかりと持ち合わせていないとダメってことです。
ただ、今回の判決で大事なのは「スクショ引用は正規の手順を踏んでないから著作権法違反なので、IP等の開示はしてください」であって、「損害賠償請求」を行ったわけではないということです。どういうことかというと、ツイート内容は争点になっていません。多分ツイート内容が争点となった場合、原告側は結構不利になると思います。判決文もツイート内容の説明については結構語彙豊かに説明しているので、「あ、これあかんけどそこは問題ちゃうしな」って感じで書いているんだと思います。
3.これからどうやって使っていけばいいのか
この判決でスクショ引用は違法性が問われる可能性があるということが明らかになりましたが、あくまでそれは引用元がハッキリと明記されていなかったからです。なので、今後スクショ引用を行ったとしても、その引用元のURLを明記しておけば、多少は有利になると思います。本件でも原告の内容を加味すれば、「原告は非常に激しい口調で相手を罵ってくる可能性が非常に高く、自身の精神的安定を担保するためのやむを得ない方策」という感じになったかもしれません。
ただツイート内にそのツイートのURLを添付した場合は相手にも通知は行きます。それでは引用リツイートと大して変わりません。じゃあスクショにURLを添付したらどうでしょう。それならば同一と認めてくれる可能性が出てくるかもしれません。判決文にも「本件各投稿の目的との関係でス クリーンショット画像を掲載しなければならないような事情その他の上記 要件に該当する事実を具体的に主張立証するものではない(同文P13L5~7)」とあります。結局は、ケースバイケースってことです。
この判決を紹介した記事で栗原潔氏はこのように書いています。
僕はこの言葉に違和感を覚えます。理由は先述の通りです。スクリーンショットの引用が頻繁に行われているのは事実ですが、それは引用方法の正当性の議論を行ってこなかったからであり、Twitterの運営側が明確で詳細な規約の制定とその運用を行ってこなかったからまかり通った「慣習」にすぎません。判決文の内容とそこに書かれたTwitterの規約とを照らし合わせると、スクリーンショットの引用は「Twitter上のコンテンツの複製とそれに基づく二次的著作物の作成」に該当します(少なくとも裁判所はそう考えました)。結局のところ、スクショ引用は「具体性のない信用で成り立っていた気がする謎の文化だから、それを争点に喧嘩売られたらどうしようも無いよ」っていう話です。
あと、画像ファイルとすることによる編集可能性の議論を出さなかった栗原氏の見解はちょっと無理があるかなとは思います。というか多分気付いていないと思います。ただ、文化として成立してしまっている以上、Twitterの運営がスクショ引用を「合法化」するための機能を追加するか、また逆に「完全違法化」するかのどちらかのスタンスを早期に出す必要があります。個人的にはネガティブな評価の表示が隠されやすい現代のプラットフォーム環境を鑑みるに、「相手に知られたくないけど引用したい」という需要を満たす機能は必要になってくるんじゃないかなと思います。まあ鍵アカにすればいいじゃんと言えばそれまでですが、「オープンなフィールドだけど、面倒な人そうだから知られないようにしたい」という需要は一定数ありそうなので、こういう判例が続くようだと何かしらの声明は出るかもしれません。
正直、こういう判決が出たからと言って、何か行動を変える必要はないと思います。ただ、センシティブな話題の時に関しては、しっかり相手の発言の原典(URL)を保存しておくことは必要となりそうです。何故なら、画像だと持っている本人にその意思が無かったとしても、編集の可能性が否定できないからです。また、ツイ消しした場合にも裁判となった場合に、その内容が全文公開されることになります。そう考えるとなんか気楽になってきませんか?「ツイ消ししたので無敵です」に対して「じゃあ裁判所に行ってTwitter社にお願いしましょうか」と言えば大体何とかなるからです。
最後に繰り返しますが、別に行動を変える必要はありません。ただ面倒な事態にならない様にスクショするときは一応URLも一緒に保存しておきましょうということです。ブラウザ版であれば取得できます。
炎上してツイ消ししそうなら、スクショとURLをどっちも持っておけばそれはそれでいい武器となるでしょう。