バッドトリップ


寝る前に突然それは起きる。
頭の中で風船が破裂しそうなほど膨らみ続ける。
時計が速く進む。風速をこえてどんどん進む。
嫌いな声が聞こえる。
嫌いな言葉が聞こえる。
怒られる声が聞こえる。
「ああ、まただ」
と感じながら、避けられない感覚が治まるのを待つ。
安定剤を飲んでもそれは止まらないことを知った時、絶望と諦めを抱いた。

調べると、その感覚は不思議の国のアリス症候群というらしい。
子どもが熱を出した時とかに感じる、と書いてあった。
不思議の国のアリスの世界を描いたルイス・キャロルと同類なのかと思うと気が病む。

ひどい時は日中でもそれは起きる。
時間と、頭の中の風船はセットで、主に時間の感覚はバグる。喋るときは頭の中に言葉がいっぱい出てきて、台風に掻き回されるみたいにぐちゃぐちゃになる。
ゆっくり喋ってリセットを試みるんだけど、成功したことがない。
その日何時間かかけて、意識しないようにしていたら次第に治まっていく。
お酒で行くその世界は気持ち悪さが伴うから目印になるけど、そうじゃないときのそれは遠くに飛ばされてるみたいで、豪速球の綿毛の気持ちになって、呆然とするしかない。

似たものでいえば、頭皮と耳のマッサージを受けた時の気持ちよさは、麻薬のようだった。
きっと薬物をしたらこういうのを見るんだろうなと思う世界観だった。
もちろんシラフだったし、ただのツボ押しだった。
望遠レンズで覗いたような大きな満月に、紺色の空、手前に大きな緑の丘があって、ピンクのうさぎと茶色のくまと緑か青の犬のきぐるみが、薄笑いを浮かべて、わたしを見つめながら、ときどき揃って手を振って丘の向こうに消えていく。
まるで、教育番組(あやしい)みたいなシーンなのだ。
なぜかそれは気持ちよく見えた。

お酒をたくさん飲んだ後にしたセックスの最中に聞こえる、流しっぱなしにしていたトムとジェリーもだいぶ効く。
あんなの作れる人間なんか絶対まともじゃない、とその時思った。
アニメの速度も展開も全てがフィットしてくるし、
細かい効果音、視覚効果で、脳みそがふやけて耳から流れ出しそうな感覚だったから。

わたしはわりと簡単に飛んでしまうのかもしれない。
思考の流れを変えたり、意識を強く感じたり、お酒の力を借りたり、何かしらのタイミングで。

どうにか、わたしのこの日常を世界にダイヤルを合わせて、まともな人間になりたい。

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