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T町にいるということ

わたしは自分で言うのもなんだけど、かなり単純で純粋だ。
風俗を始めたら、騙して騙されることが増えた。
結構人間は汚いのだと後から気づいた。
そして、お金も人間関係の嘘を学んだ。
優しく気持ちいい言葉は幻想なのだと思うようにした。
お客さんに言う言葉は嘘ではない。
わたしは嘘を吐くのは苦手だ。
悩みも感情もまるっと受け止めたい。
熱く喋り込んでしまうこともある。
人によっては受け止められない時もあるけれど…

会いたいとか、
一緒にいたいとか、
優しくて心地よく聞こえる言葉は薄っぺらい。
それは簡単に破れてしまう和紙の如く。
薄く薄く伸ばした飴の如く。
そんな言葉を優しく扱ってくれる人なんかいなかった。
わたしも簡単に破り捨て、足で割ってタバコの灰を落とした。
「一度わたしを捨てた男など要らない。」
戦慄かなのちゃんが昔インスタでそう答えていた。
わたしもそれに倣って、もう一度と縋りつく男を蹴落としていった。
既に興味を無くした人など要らないのだ。
わたしの大事な薄っぺらくて繊細な感情を雑に扱うことなどあり得ない。
それならば誰もいないほうがマシだから。
あなたが消え、この空いた席はまた誰かが座る。

おかげで強くなれた気がする。
胡散臭い人はタバコの煙が目に染みてよく見えない。
煙をフィルターに薄目でその人を眺めていると、歪んだ口、ぎらぎらした目、とにかく汚いものがよく見える。
嘘つきの笑い方。

わたしは似合わないんだろうな、この世界は。
と思う。
欲望が渦巻く町。
ここを歩けば、否応無しにじろじろと目線を感じる。
工事の人も、消防車の人も、通り行く人たちも。
これもきっとあと少しの我慢とかんがえながら真っ直ぐ前だけを見据える。

それでも思うのだ、苦笑いをしながら
「ここがわたしのアナザースカイ」
考えもしなかったこの世界に身を置いているのを自分の意志。
そして、良くも悪くもわたしを作り、育て、成長させてくれたのはこの陰気な町なのだから。

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