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令和5年度 弁理士 特定侵害訴訟代理業務試験(事例問題1・2) 開示答案

はじめに

本投稿は有料となっていますが、有料部分にはコンテンツはなく、無料ですべてご覧いただけます。

本記事は、令和5年度特定侵害訴訟代理業務試験(いわゆる付記試験)について、実際に受験した際の答案の開示を受けたことにより、当該答案を書き起こしたものです。
なお、問題等は以下からダウンロード可能:

https://www.jpo.go.jp/news/soshodairi/soshodairi-mondai/index.html

なお、内容はあくまで開示答案をそのまま書き起こしたものであり、多くの誤りが含まれ、またより良い答案があることは確実です。その点ご理解のうえご活用ください。

事例問題1:問1

空欄1

1.原告の請求をいずれも棄却する。
2.訴訟費用は原告の負担とする。

空欄2

構成b-2 一端面に円状にくり抜いた穴と、逆端面に装身具との接続環部が設けられた側壁

空欄3

オス金具の外径の3倍の間隔で形成された二枚の平行板が設けられている。構成要件B-1においては、「ほぼ一致する」という語が用いられているが、オス金具の外径と二枚の平行板の間隔が一致しているか否かは、外径と間隔の絶対的な差のみならず、その差がオス金具の外径や二枚の平行板の間隔と比較して十分小さいと言えるかどうか、また製品全体の大きさと比して十分小さいと言えるかどうか、といった相対的な基準によっても判断されるべきである。被告製品におけるオス金具の外径は2mm、二枚の平行板の間隔は6mmであり、従って、間隔は外径の3倍、間隔と外径との差4mmは外径の2倍にも及ぶ。また被告製品全体の大きさは二枚の平行板に垂直な方向で約1cm〜1.5cmであり、これと比較して4mmという差は小さいものとはいえない。
よって、相対的な基準でみた場合、オス金具の外径と二枚の平行板の間隔との差は、十分小さいものと言うことはできない。

空欄4

本件特許出願における明細書の記載によれば、従来製品においては「オス金具13を円筒内壁部11内でぐらぐらした状態で停止位置まで差し込む必要」(段落【0003】)があり、従って「装着時の操作が難しいという欠点を有していた」(同)。
これに対し、本件特許発明においては、「オス金具30は二枚の立て板44にガイドされ」(段落【0012】)ることにより、「二枚の立て板44の間隔がオス金具30の外径にほぼ一致していることにより、オス金具30は、メス金具40内で二枚の立て板44にガイドされ安定して挿入されることから、ぐらぐらすることなく、メス金具40内に深く挿入させることができ、双方を連結する操作が容易となる」(段落【0013】)としている。
従って、二枚の立て板は、オス金具を挿入した時にそのガイドとして機能することに意義があり、また、これによってオス金具を挿入する操作において、オス金具がぐらぐらすることなく、挿入の操作が容易となるという機能を奏すべきである。

空欄5

被告製品においては、係止レバーが2枚の平行板の内側に配置されている。そのため、オス金具を挿入した場合において、オス金具と二枚の平行板が直接触れることはなく、従って、二枚の平行板が押オス金具を挿入した際のガイドとして機能することはない。
また、被告製品において、オス金具挿入時の操作の安定性をもたらすガイドとしての機能は二枚の平行板ではなく係止レバーが担っている。
実際、係止レバーにつき、その側壁を削り取ったものを用いてテストをしたところ、メス金具に挿入中のオス金具はぐらぐらした状態となり、深く差し込む操作を目視できない首の後ろでの操作が容易でないことが確かめられた。

空欄6

切欠とは、辞書を引くと「組み合わせるために部材を細長く切り取った溝状の部分」を意味するとされる。実際、本件発明においても、切欠部46はU字形の溝状の形状となっている。
また明細書の段落0011によれば、この部分の形状を切欠とすることで、レバーを押し下げる操作との組み合わせにより、側壁43の高さ方向の全てにわたり開口することが可能であり、これにより、開口部を広くして、目視できない首の後ろでの装着操作が容易になる、としている。
このことから、本件特許発明においては、操作が難しいという課題を解決する手段として、オス金具を挿入する部分が、レバーの形状との組み合わせにより、広い開口部を実現できる切欠状である点に意義があると言うべきである。

空欄7

第三者に予想できない不利益をもたらすことがないか

空欄8

二枚の立て板44の間隔がオス金具30の外径にほぼ一致していることにより、オス金具30は二枚の立て板44にガイドされ安定して挿入できることから、ぐらぐらすることなく、メス金具40内に深く挿入することができ、双方を連結する操作が容易となる。

空欄9

現在、原告製品及び被告製品の市場は、競合他社であるM社の製品を含め、原告、被告、Mとでほぼ1/3ずつの市場占有率となっている。また、被告が市場に参入する以前においては、原告とMとでほぼ1/2ずつの市場占有率であった。さらに、これら3社の製品はいずれも1000円程度と同価格帯のものであり、それぞれ代替可能である。
以上のことから、仮に被告により被告製品の販売がなかったとしても、それにより原告が追加で販売できた数量は、被告製品の販売数量の多くても1/2である。

空欄10

被告製品は、外部のデザイン会社にデザインをしてもらった製品であり、デザイン性に優れる。また、新規なデザインであることから、被告とデザイン会社との共同出願により意匠登録を受けている。
さらに、特殊なコーティングを用いることで、被告製品は真珠のような輝きのある質感となっている。
実際、被告製品に切り替えた装飾品メーカ担当者からは、デザイン性や質感に優れていることを理由に被告製品に切り替えた旨のコメントを多くいただいている。

事例問題1:問2

(1)ア

実施することができる。
民法99条により、代理人YがXのためにした法律行為は、Xに対して直接効果を生ずる。本問において、Zは自身の債務であるライセンス料の支払を履行しており、従って、Pに係る通常実施権を行使することができ、Pに係る発明を実施できる。
本問においては、Yにライセンス料の受領の権限が与えられているか不明であるが、仮に与えられていない場合であっても、民法109条第2項により、Yによるライセンス料の受領が有効なものとみなされる余地がある。

(1)イ

実施することができる。
Yによる意思表示は、民法93条の心裡留保にあたるが、本問においてはZはYの真意を知らず、Yは真意を巧妙に隠していたことから、知ることができたと考えられない。従って、民法93条1項ただし書きには該当せず、Y,Z間の契約締結は有効なものとなる。

(1)ウ

実施をすることができる。
Yは実際には委任された権限外の行為(ライセンス契約締結については委任されているが、実際に締結したライセンス料は委任された範囲外であった)をしているが、通常100万円を限度とした委任がされていると想定することはZには難しく、従って、それを知らなかったことにも正当な理由がある。
よって、民法109条第2項により、ライセンス契約は有効であり、それに基づいてZはPの実施ができる。

(2)A

できない。
裁判所は、請求の趣旨について、当事者が主張しなかった請求原因事実に基づいて判決をすることができない(弁論主義、民事訴訟法246条)。

(2)B

できない。
裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて事実の認定をする(民訴法247条)。本問ではすでに口頭弁論は終結しており、また別の裁判で得られた証拠を用いて事実認定をすることは認められない。

(2)C

できる。
裁判所は、提出された証拠につき、その証拠の目的とは異なる争いのある事実についてその認定に用いることができる(民訴法247条)

事例問題2:問1

空欄1

被告は、日本酒を含む酒類又はその包装に別紙被告標章目録記載の標章を付し、あるいは付したものを販売し、又は販売のために展示してはならない。

空欄2

被告は、別紙被告ウェブサイト目録記載のウェブサイトから、別紙被告標章目録記載の標章を削除せよ。

空欄3

被告は、原告に対し、金1億2100万円、および、これに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

空欄4

図形部分は墨の濃淡による墨画であって、色の濃淡はあるものの、全体として灰色の矩形に近い印象を与えるものであるのに対し、文字部分は毛筆文字によって白黒の境目のはっきりとした印象を与えるものであり、視覚的な印象は大きく異なる。また図形部分と文字部分との間には一定の空白部分が存在し、このことからも、視覚的にそれぞれの部分を分離して知覚することはなんら不自然ではない。
また、被告は本訴提起前のやり取りにおいて、絵画部分の右下部には縦書きした「雅邦」の署名及び落款印の印影が表記されているため、絵画部分とその作者及び作品名とを表す文字部分とを、分離して観察することはできない、と主張する。
しかしながら、実際には署名及び落款印を視認することは、それらが小さく描かれ、また墨画の濃淡に埋没していることから困難であるし、そもそも、絵画中に作者名と落款印が視認できたとしても、それをもって、絵画とは別に記載された作者名、作品名とを一体のものとして観察するとは言えない。

空欄5

「雅邦」の文字部分と「深山幽谷」の文字部分とは離れた位置にあり、そのすき間の大きさは、「雅邦」の文字部分そのものの幅より大きいため、一見してこれら2つの文字部分は分離されたものとの印象を与える。
また、「雅邦」の文字と、「深山幽谷」の文字とではその大きさが一見して判別できる程度に異なるうえ、「雅邦」の文字は「深山幽谷」の文字の高さ方向における中心線よりも上方に配置されている。さらに、「深山幽谷」の文字は毛筆を用いた独特の書体の印象を与えるものであるのに対し、「雅邦」の文字は、どちらかと言うとペンを用いて記した書体に近い。
以上のことから、「雅邦」の文字部分と「深山幽谷」の文字部分とは、各部分の配置、文字の大きさ、文字から受ける印象のいずれにおいても大きく異なるものである。

空欄6

「深山幽谷」の文字は、毛筆体で独特の印象を持つ書体によって大きく表記されているのに対し、「雅邦」の文字はより細いペン字のような書体で、より小さく、またより端に近い位置に配置されている。
また「深山幽谷」という語は、その語が意味する「深い山々の間に幽玄な谷がいくつも刻まれている幻想的な風景」を想起することができなかったとしても、深い山々と谷、といった風景を想起することが可能であるのに対して、「雅邦」という文字は、一見してしてそれが作者の名であると認識することは難しく、そもそも、人名なのか地名なのか、あるいはそれ以外の何らかの概念を意味するものなのか、それすらも困難であると言わざるを得ない。

空欄7

被告標章の「深山幽谷」は、毛筆体による独特の印象を与える書体ではあるものの、元の文字が容易に推認できないほどに大きくくずして記載されたものとは言えず、従って称呼の面においては、原告商標の「深山幽谷」と同一の「しんざんゆうこく」という称呼となると考えるのが自然である。
外観の面においては、書体の差はあるものの、「深山幽谷」を横方向に同一の大きさの文字で整然と並べたものである点で共通しており、極めて近いものであるという印象を与える。
観念の面においては、どちらも「深い山、幽玄たる谷」という観念を与えるものであり、被告標章についてその書体から若干受ける印象が強められると考えられるものの、実際に想起される観念にはほとんど差がないと考えられる。
以上のことから、原告商標と被告標章との「深山幽谷」の文字部分を対比すると、その外観、観念、称呼いずれにおいても与える印象はほぼ同一のものであると言うことができる。

空欄8

販売地域について言えば、被告は原告商品については大阪府南部と和歌山県であるのに対して被告商品については大阪府北部である高槻市であって異なると主張する。しかし、実際には原告商品、被告商品ともに大阪市で販売されており、従って、販売地域には共通する部分がある。
販売価格については、被告は、被告商品は原告商品の1.5倍の価格であると主張するが、特に日本酒は銘柄によって価格に大きな差があることは需要者の間でよく知られていることであり、1.5倍程度の差は同一カテゴリの銘柄として需要者が共通するものと考えるべきである。
味や熟成度について、被告は被告製品が「純米吟醸」であるのに対して原告製品は「純米酒」であると主張するが、日本酒の分類は多岐にわたることから、需要者が「純米吟醸」と「純米酒」を同一視することは十分に考えられる。

空欄9

原告商標の登録出願時である平成24年10月における取引記録等は示されておらず、仮にその時点で取引があったとしても、開示されている平成28年4月以降、年平均2409本という実績から推測すると、大阪府を含めた周辺地域において需要者の間に広く知られていたとは考えにくい。
また、被告は令和4年4月に「おおさか地元の名産品100」の一つに選定されたと主張するが、これをもって需要者の間で周知となったと判ずることはできないし、そもそも、原告商標登録出願時に周知性を獲得していた根拠としてなんら寄与するものではない。

空欄10

原告は被告に対して平成26年10月に、原告の商標権を侵害する可能性がある旨を指摘しており、これに対して被告は「追って連絡する」と返信したもののその後の連絡は途絶えている。
これにより原告は被告が商品の展開を自重するものと期待していたものであり、連絡がなく、その後格別の措置を取らなかったことにつき責があるとすれば、その責は被告に帰するものと言うべきであるから、被告の主張は失当である。

空欄11

令和4年4月から現在までの被告による被告商品の販売数量とその額は、
720ML瓶
 2000円/本 × 少なくとも50000本 =1億円
1.8L瓶
 4000円/本 × 少なくとも30000本 =1.2億円
であり、合計2億2000万円を下らない。
また、被告における製造・販売に必要は費用は多くても売り上げの50%である。
従って、被告が被告商品の販売によって得た利益は
2億2000万円×(100%-50%)=1億1000万円
を下らない。

事例問題2:問2

(1)ア

売買代金の減額を請求することができる。
Bが本件売買契約に基づいてAに引き渡すことができたのは、目的物である甲商標権のうち、その持分の2分の1にとどまる。従って、引き渡された目的物が数量に関して契約の内容に適合しないときに該当する(民法562条1項本文)。
ここで、BはAに対し、これ以上Cと交渉するつもりはなく、従って、売主たるBが、履行の追完を拒絶する旨を明確に表示している(民法563条2項2号)。
よって、Aは、Bに対して、ただちに(民法563条2項本文)、不適合に応じた代金の減額を請求することができる(民法563条1項)。

(1)イ

損害賠償を請求することができる。
Bの債務不履行を理由として、AがBに損害賠償を請求する場合、請求できる範囲は原則として通常生ずべき損害に限られる(民法416条1項)。
本件の場合、Dから得ることを期待していた500万円は逸失利益にあたり通常生ずべき損害に含まれない。
一方、BはCに相談することなくAとの売買契約を締結しており、さらに、AはDからの申出につきBに伝えていた。よって、BはCから譲渡について拒否される可能性を予見すべきであった。従って、本件においては、特別の事情によって生じた損害も賠償の対象に含まれると考えるべきであり(民法416条2項)、従って逸失利益である500万円についても、BはAに対して損害賠償を請求することができる。

(1)ウ

Aは令和10年10月1日までに当該請求をするべきである。
アの請求は、Bが追完をする意思のないことをAに伝えた令和5年10月1日時点でただちにすることができるから、この時点を起算点として、消滅時効(民法166条1項)が進行する。従ってそこから5年(同)以内に請求をすべきである。
なお、Bは引き渡した商標権が契約に適合しないものであることを知っているため、民法566条にある担保責任の期間の制限を受けない。

(2)

① 訴えの変更
② 著しく訴訟手続を遅滞させる
③ a. 書面でなすことが必要である
④ b. 裁判所を通じて被告へ送達することが必要である
⑤ 訴えの取下げ
⑥ 同意
⑦ 口頭弁論の分離
⑧ 反訴

終わりに

答案は以上です。
得点は事例問題1が38点、事例問題2が40点、合計78点でした。

以上

解答は以上です。

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