渦目のらりく

妖怪を中心にホラー作品を執筆します。 2022年 『夏の夜の怪談コンテスト』 優秀賞 …

渦目のらりく

妖怪を中心にホラー作品を執筆します。 2022年 『夏の夜の怪談コンテスト』 優秀賞 「畑山良和を知りませんか?」  2023年 第11回ネット小説大賞最終選考 「我々の身辺の在り来たりなる怪談集」 2024年 カクヨムコン9 「令和に潜む妖怪たち」 「妖眼の怪奇蒐集家」

最近の記事

令和に潜む妖怪たち 第五十一頁【うわん】

【画図百鬼夜行 風】第五十一頁 【うわん】  僕の住む町内に、とある古屋敷がある。  漆喰塗りの高塀に周囲を囲まれた格式高い屋敷であるのだが、僕がこの地に来てから約十年。少なくともこの期間には買い手はついていなかった。  犬の散歩で近所を歩いていると、今風の家々に挟まれて、突如と古い高塀がスラリと立ち並び、十メートル程のその距離を歩いている間、妙に古めかしい様な心持ちになる。  ある日の朝、犬の散歩をしていると、この地に昔から住んでいるという、同じ町内の腰の曲がったおばあ

    • 令和に潜む妖怪たち 第五十頁【牛鬼】

      【画図百鬼夜行 風】第五十頁 【牛鬼】  食肉加工場で働いていたSさんから聞いた話。  Sさんは牛の解体業務を任せられていたらしい。  その工程を聞いてみると、まずはキャプティブボルトという圧縮空気で打ち出すボルトを牛の眉間に合わせて発射し、意識を無くさせ、足にチェーンを掛けて吊るしてから、喉元を裂いて心臓付近の大動脈を刃物で切断し、放血させるという。  国民に食肉を届ける。誰かがやらねばならない誇り高き仕事であるのは間違い無いが、Sさんは動物の命をいただくという事にどうに

      • 令和に潜む妖怪たち 第四十九頁【ぬっぺっぽう】

        【画図百鬼夜行 風】第四十九頁 【ぬっぺっぽう】  一九四五年八月九日。  今から約八十年前。  長崎に落とされた非人道的人災。  歴史に残る爪痕。忘れてはならぬあの痛ましい記憶を、生の声で語れる者が少なくなって来ているという話しを耳にした。    私の祖父はその当時、幼き少年として長崎に居た。  これは、あの日の日本国民の忘れざるべき記憶と、その時に祖父が見たという、怪異の記録である。    *  ※方言がキツいので標準語に修正して記載しています。 「あの当時のわし

        • 令和に潜む妖怪たち 第四十八頁【赤舌】

          【画図百鬼夜行 風】第四十八頁 【赤舌】  この小さな町を全貌出来る展望台が、幼い頃からの私のお気に入りの場所だった。  小高い山の上にある地元民からの信仰を集める中規模の神社には、山肌から迫り出す様な形の展望台があって、そこに鎮座した背の高い仏像が町を見下ろす様にしている。仏像の前には東屋があって、その古びれた椅子に座って私は日がな一日、芒としている事も珍しくは無かった。  正面には遠く山並みが続いていて、足元を見下ろせば行き交う人々や自動車が見える。  けれど私が展望

        令和に潜む妖怪たち 第五十一頁【うわん】

          令和に潜む妖怪たち 第四十七頁【青坊主】

          【画図百鬼夜行 風】第四十七頁 【青坊主】  友人と難波のひっかけ橋を歩いていた。  昼中、人混みの向こうから古びた袈裟を纏った高齢の坊主が、何処かから、しゃらんしゃらんと鈴の音を鳴らし、俯きながら歩いて来る。 「至レり…吾至レ…ジゴク…ノ門…」  呟いている。  すれ違った後、異様な有様に吹き出しながら友人が振り返ると、坊主は群衆の中に立ち止まって、私達の方へと足を向けていた。  賑やかな晴天の下の往来に、一つ不気味な佇まい。  それはまるで友人の嘲笑を耳聡く聞き

          令和に潜む妖怪たち 第四十七頁【青坊主】

          令和に潜む妖怪たち 第四十六頁【苧うに】

          【画図百鬼夜行 風】第四十六頁 【苧うに】  僕のおばちゃんは古くからの伝統を守る為に、手作業でカラムシという植物から固い繊維を取り出して糸を作り、機織り機にかけて苧麻布というものを作っていました。  日本古来よりあるその布は、なんでも、高級な着物の素材になるそうなんですが、今では手間暇かかり過ぎる苧麻を作る人が日本に数少なくなって、中でも未だに手作業で布地を作るおばあちゃんの様な職人は一部の人たちから需要があるらしかったのです。  おばあちゃんはいつも障子を閉め切って、

          令和に潜む妖怪たち 第四十六頁【苧うに】

          令和に潜む妖怪たち 第四十五頁【元興寺】

          【画図百鬼夜行 風】第四十五頁 【元興寺】  物心のつくかつかないかの頃の記憶に、ある筈のない記憶が紛れ込んでいる。  その当時は疑う事もなく受け入れていた経験であったが、いまこうして成人を迎えた節目にこれまでの生涯を追想していると、どうにもその記憶が、恐ろしいものに思えて仕方が無くなって来てしまった。  自分の頭の中に整理を付ける為に、あの頃の事をここに記そうと思う。  その当時はまだ奈良県に居たから、私が三歳か四歳の頃だったと思う。  私と二つ年上の兄は、しょっちゅう

          令和に潜む妖怪たち 第四十五頁【元興寺】

          令和に潜む妖怪たち 第四十四頁【ぬらりひょん】

          【画図百鬼夜行 風】第四十四頁 【ぬらりひょん】  一人暮らしをしていた古い木造アパートの自室で、ある異変が続いている事に気が付いたんです。  机の上に置いてあった筈のリモコンの位置が変わっていたり、座布団が折り畳まれて枕の様にされた痕跡があったり、便座の蓋が上げっぱなしになっていたり、小さな変化が立て続いている事に気付いたんです。  それは本当に些細な変化で、ずぼらな性格をしている私は長い事その事に気が付かないでいたんだと思います。  朝、出社して自宅に戻ると僅かに

          令和に潜む妖怪たち 第四十四頁【ぬらりひょん】

          令和に潜む妖怪たち 第四十三話【濡女】

          【画図百鬼夜行 風】第四十三頁【濡女】  海へと続いた川縁を歩いていた時の事。  川のせせらぎを聞きながら、薄暗い夜道を心地良く歩いていると、何か異変に気付いて、太い川の中央にポツンとある、砂利ばかりになった中洲へと視線を投じていた。  その淵で、白い着物を着た女が中腰になって私に背を向けていた。  季節は秋。  背中を向けた、着物の裾は水に浸かっている。  この凍て付くような寒さの中で、いったい何をしているのだろうと、薄暮れの中に視界を凝らしてみた。  第一からしてその

          令和に潜む妖怪たち 第四十三話【濡女】

          令和に潜む妖怪たち 第四十二頁【塗仏】

          【画図百鬼夜行 風】 第四十二頁 【塗仏】  三年前に、岡山県で一人暮らしをしていた父が亡くなった。  鍋島家の長男は私で、父が亡くなった後に残された実家の始末は当然私に一任される事になった。  ……であるがお恥ずかしながら、私の生活拠点が東京である事に加え、件のウィルス騒動で傾き掛けた会社の立て直しと、娘の受験等が重なって多忙を極め、この三年間、岡山県の実家はまるっきり放置した状態であった。  程無くすると仕事も落ち着き、娘も無事に大学受験に合格して一人暮らしを始める事に

          令和に潜む妖怪たち 第四十二頁【塗仏】

          令和に潜む妖怪たち 第四十一頁【おとろし】

          【画図百鬼夜行 風】第四十一頁 【おとろし】  手足が足りない気がした。  両腕二本にそれぞれに五本の指。  二本の足。  これでは足りない気がしていた。  それはずっと昔からそう。  けれど私達はまだマシだった。  普通の人には手足が二本ずつと、五本ずつの指しかない。  けれど私達は二人で一つの姉妹。  村の巫女を務める私――カサネと妹のヨリコは、それぞれに二本ずつの手足と五本ずつの指を持ち合わせている。  私達はずっと昔から二人で一つなのだから、それは手足

          令和に潜む妖怪たち 第四十一頁【おとろし】

          令和に潜む妖怪たち 第四十頁【わいら】

          【画図百鬼夜行 風】第四十頁 【わいら】  私には生まれる前からずっと一緒に居る姉が居ます。  姉と私は背丈も容姿も同じ。  一卵性の双子なのです。  ずっとずっと一緒。何があっても私達は共鳴し、共に手を取り合って生きていた。  私達にとってはどちらが姉のカサネで、どちらが妹の私、ヨリコであるのかなど関係がありません。  どちらもカサネでどちらもヨリコであって私達はそれで良いのですが、周囲の者がそれではいけないらしく、私達は便宜上、そっくりな姉妹を見分ける為に、この絹の様

          令和に潜む妖怪たち 第四十頁【わいら】

          令和に潜む妖怪たち 第三十九頁【ひょうすべ】

          【画図百鬼夜行 風】第三十九頁 【ひょうすべ】  これは一昨年の、私がまだ佐賀県に住んでいた、二十代半ばの頃の話しなんです。  当時私は仕事の都合で、狭いアパートで一人暮らしをしていました。  アパートはそれなりに栄えた街中なんかにあるんですけど、田舎ですから、夜ともなれば周辺はただ暗いばかりで、時折コンビニやファミレスが現れるくらいのものです。  仕事の帰り、暗くなった街中を駅から歩いていました、夜の二十時は回っていた様に記憶しています。  外灯が点々と並んだ閑静な住宅街

          令和に潜む妖怪たち 第三十九頁【ひょうすべ】

          令和に潜む妖怪たち 第三十八頁【しょうけら】

          【画図百鬼夜行 風】第三十八頁 【しょうけら】  古くからある精神科の『K病院』に看護師として勤めていた時の事。  夜勤をしていると交代で深夜に二時間の仮眠があるのですが、僕の勤めていた四階の病棟だけには仮眠室というのがありました。  他の階の病棟に仮眠室が無いので、休憩の時間になると簡易ベッドを風呂の脱衣所に組み立てて仮眠をとるのですが、K病院の最上階となる四階にだけは何故か、仮眠専用の部屋があるのです。  しかしその部屋の造りが妙なのです。  まず病棟の廊下に倉庫へと

          令和に潜む妖怪たち 第三十八頁【しょうけら】

          令和に潜む妖怪たち 第三十七頁【見越】

          【画図百鬼夜行 風】 第三十七頁 【見越 】  私だけなんでしょうか?  超高層のビルなんかを足元の方から見上げるとゾクゾクとして、足腰が立たなくなるかの様にフラフラとよろめいて、悪くすると膝をついてしまうんです。  名古屋駅の東口なんかに出てJRセントラルタワーズを見上げる時なんかは絶対にそうなります。  ただの高層ビル位はなんとも思いません、余りにも巨大な建造物を足元から見上げた時にだけそう感じるのです。  私はこれを勝手に高層物恐怖症と呼んでいましたが、調べてみると“

          令和に潜む妖怪たち 第三十七頁【見越】

          令和に潜む妖怪たち 第三十六頁【幽霊】

          【画図百鬼夜行 陽】第三十六頁 【幽霊】  仕事の帰りの峠道を運転していると、日傘をさした女がいるのだと言う。  IT関係の仕事をしているSさんの帰りはいつも黄昏時だという。  早く帰りたいので、途中国道から逸れて県道の峠道を利用して帰るのだとか。  あまり整備もされていない、言うなれば《《酷》》道と形容出来るその県道は、小高い山に分け入ってSさんの自宅に向かうまでの障害となる山を一つ飛び越える事が出来るのだそうだ。  あまり一般的には利用されないこの峠道を通過すれば混雑

          令和に潜む妖怪たち 第三十六頁【幽霊】