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ティール組織からみるDAOの課題と、解決のためのアイデア

はじめに

新年あけましておめでとうございます🌅

上泉です。普段はUnyte(ユナイト)というDAOツールを開発しています。
DAOの運営をより円滑にするためのツールを提供しながら、複数のDAOやコミュニティと共同でガバナンスのあり方を議論する、といった活動をしています。

今回は、そのような活動で見えてきた「DAOにおける課題」について、考察と解決策の提案をしてみようと思います。

(初めてのnoteです、と書こうとしたら、そもそも「ブログを書く」ということ自体が初めてなことに気がつきました。温かい目で見てください…。)


TL;DR

この記事で言いたいことを簡潔にまとめます。

DAOのガバナンスにおいて、
 ①意思決定に時間がかかる
 ②メンバーの貢献に報いる仕組みがない

 という2点が問題となり、DAOの成長を阻害している

①の意思決定スピードについては、ティール組織のエッセンスを取り入れることで、分散性を保ちながら解決することが可能

②の貢献に報いる仕組みについては、
 ②−A:メンバーの活動を可視化するツールの導入
 ②−B:活動履歴に応じた報酬体系の整備

 によって解決可能。

②−Aについて、我々が開発しているUnyteというツールを使うことで、メンバーの貢献度を可視化し、トークンなどの報酬を付与することが可能

②−Bについて、貢献に対してどのような報酬を支払うべきかについては、ベリロンコミュニティのポテトによるインセンティブが非常に参考になる

それでは早速、本編に入っていこうと思います。


DAOの定義

DAOのガバナンスについて議論する前に、そもそも今回のnoteで扱う「DAO」というものの定義について整理しておこうと思います。

DAOという言葉の解釈には、大きく分けて2つの派閥があると考えています。

  1. 「原理主義」派閥

  2. 「実用主義」派閥

①②の定義の間で、DAO(Decentralized Autonomous Organization)のうち「D」「O」の解釈はほぼ同一です。ただ「A」の部分、すなわち「自律的に組織内での活動が執行される」という部分に大きな隔たりがあります。

①の「原理主義」的な解釈では

  • スマートコントラクトによる自動執行が条件(="Code is Law")

  • システムの変更は、投票によって可決されたもののが自動的に反映される(現実にはそうでなくとも、状態としては↑が理想)

という解釈がなされています。
この原理主義的な視点から見ると、Bitcoinなどが理想的なDAOにあたります。

一方で②の「実用主義」的な解釈では

  • スマートコントラクトでの執行、もしくはメンバーによる「自律」的な活動によりアウトプットが出る状態が条件

  • システムの変更は、投票によって可決されたものをメンバーが分担して作業し、反映させる(自動反映の必要はない)

という解釈がなされています。
この実用主義的な観点では、いわゆる多くのDAOやコミュニティが該当することになります。

今回の論考では、後者の実用主義的な定義でDAOを解釈することにします。

(個人的には、前者のDAOはシステマチックすぎてもはや「組織」と呼べないのでは?と思っています。。どちらかというと「ソフトウェア」という呼び方の方が適している気が…。)


現状のガバナンスモデルとその課題

いよいよ本題に入ります。
私は、現状のDAOのガバナンスモデルには2つの課題があると考えています。

  1. 株式会社や中央集権型コミュニティに比べ、意思決定のスピードが遅い

  2. 貢献に報いる仕組みがないため、メンバーの活動が持続しない

それぞれ説明していきます。

意思決定のスピードが遅い

DAOはガバナンスの仕組み上、投票で意思決定されることが多くなります。しかし、投票から実行までのプロセスでは、

  • Snapshotなどで投票を起案する

  • 起案された内容への投票を呼びかける

  • 一定期間の経過後、投票結果が確定する

  • 投票で決定された変更をプロダクトや運営方針に反映させる

といったフローが必要になり、一つの変更を反映させるのに1ヶ月以上かかることも珍しくありません。

かたや、スタートアップ企業や中央集権型のコミュニティでは、一度責任者が意思決定をすればすぐにでも変更の反映に着手できます。
この差は特に新興分野でのプロダクト開発/プロジェクト推進を行うことが多いDAOにおいてはかなり致命的といえます。

貢献に報いる仕組みがない

多くのDAOにおいて「メンバーの貢献に報いる仕組み」が整備されていないことも、DAOの成長にストップをかける原因になってしまっています。

この「貢献に報いる仕組みがない」という状態には2段階あり、

  1. そもそも、どのメンバーがどう貢献しているのかが見えていない

  2. (↑が解決した前提で)貢献内容に対応する報酬量が定まっていない

という分類ができます。

①はいわば「誰が何をやっているか」という情報が不明瞭でブラックボックスのようになってしまっている、といった状態です。

日々の活動を報告する場所や仕組みがないパターンもあれば、あったとしても「スプレッドシートに活動内容を週ごとに記載する」など前時代的なオペレーションを求められるDAOもあります。

前時代的なオペレーションの例。
何を隠そう、これはUnyteチームがかつて取っていた手法そのものです。

②の「貢献内容に対応する報酬体系がない」というのは、メンバーの貢献・活動履歴が見えていたとしても、それぞれの貢献にどのような「対価」を渡すかが定まっていない状態です。

通常の株式会社では、メンバー(=社員)の貢献は「給与」というフィアットの通貨で支払われる対価において報われています。
一方で、多くのDAOではこの仕組みが欠如しており、メンバーの「ボランティア」によって成り立ってしまっている現状があります。

結果、多くのDAOでは以下のような状況が生まれています。

  • 🔥メンバーは「頑張って活動するぞ!」と熱意を持ってDAOに参加

  • 🙋‍♀️とりあえず自己紹介

  • 💬Discordで会話する、プロジェクトに入るなど少しずつ活動

  • 🌥特に結果が出るわけでもなく、活動も進展しない

  • 🥺次第にモチベーションを失ってフェードアウト

このような状況を解消するにはどうすれば良いのでしょうか?
「意思決定スピードの改善」
「貢献の見える化と報酬体系の整理」の
それぞれについて整理してみようと思います。


解決策①意思決定スピードの改善

「分散性」と「意思決定スピード」は両立するか?

ガバナンス体制が原因となる意思決定の遅さについては、
DAOにおける意思決定の方法を変更することでしか解消しません。

ただここで、「中央集権に戻す」という意思決定をしてしまうと、DAOから一般的なピラミッド組織へ逆戻りすることになり、本末転倒です。

注:
もちろん、DAOとしての創業初期はコアメンバーによる集権的な意思決定を認める、という方針も選択肢の一つです。そのような組織モデルで成長してきたDAOも多くあります。ですが、今回の記事では敢えてDAOの特徴である「分散性」を保ったまま組織課題を解消する方法について検討してみます。

では分散性を保ちながら、意思決定速度を早める方法はないのでしょうか?

あります!!!(ドンっ!)

今回は「ティール組織」の意思決定モデルをベースに、分散性を保ちつつ迅速な意思決定ができる方法を提案してみようと思います。

ティール組織とは?

※アフィリエイトではありません

ティール組織は、これまでの意思決定モデルとは異なる新たなマネジメント手法を含む、2014年に提案された組織モデルです。

書籍では「組織の統治モデルは、構成者の意識レベルに依存する」という原則から、原始時代の組織(レッド)から現代の新形態(ティール)に至るまでの人間のマインドと組織の形態の変遷が紹介されています。

組織が内部の問題を解決しようとするさまざまな方法は、状況を好転させるのではなく悪化させることが多いように思われる。ほとんどの組織は、事業の変更、合併、集中化、分散化、ITシステム導入、ミッション・ステートメントの作り直しや評価・報奨システムの再構築を何度も経験してきた。現在の運営方法が限界に達したと感じ、こうした従来の処方箋が、解決ではなく問題の一部であるように思えることも少なくない。もっと大胆で革新的な方法が求められている。しかしそれは本当に可能なのだろうか? それとも単なる希望的観測なのだろうか?人々の可能性をもっと引き出す組織とは、どんな組織だろうか?どうすればそんな組織を実現できるのだろう?本書の核心をなすのはこうした問いである。

『ティール組織』本編より

ティール組織の最も大きな特徴として、
「現場のメンバーが自主的に意思決定ができる」点が挙げられます。

大切なことなのでもう一度言います。
「現場のメンバーが」
「自主的に」
「意思決定ができる」
です。
DAOの活動スピード問題の解決に活かせそうですね。

書籍にある、実在するティール組織の事例から、DAOにおいて同様のモデルを取り入れる方法について考察してみようと思います。

ティール組織とDAOとの関係

その前に、「現時点での」DAOの立ち位置についても整理してみます。
ティールに至るまでに、組織は以下のような変遷を辿るとされています。

『ティール組織』付録より

この中で、一般的なDAOに近い特徴を持つのは「多元型(グリーン)」です。
グリーンでは、それまでの「達成型(オレンジ=実力主義的な組織)」の環境破壊や組織の汚職などの問題点を解消すべく、

  • メンバーそれぞれが平等な権利を保持しながら

  • コミュニティが主体となって、コンセンサスによる意思決定を行う

という特徴を備えています。まさに現在のDAOと似た思想です。

多元型の視点は権力や階層とはなじまない。理想的には、どちらもなくしてしまいたいと思っているだろう。順応型と達成型のモデルを捨てて、このあまりに過激な段階を白紙状態から始めようとした人々もいる。「権力の不平等によって、トップの人々がいつも最下層にいる人々を統治する結果になるのなら、階級を廃止して、全員に平等な権力を与えることにしよう。すべての社員が平等に会社を所有し、だれもリーダーシップの地位を握ることなく、あらゆることをコンセンサスで(あるいはもし必要であれば、順番にリーダーシップを握ることにして)決めようじゃないか」というわけだ。

『ティール組織』本編より

ただ、書籍でも言及されている通り、グリーンの組織モデルでは「物事がいつまでたっても決まらない」という課題が発生することになります。

コンセンサスは、魅力的に響く考え方だ。何しろ参加者全員に平等な発言権が与えられるのだから(とりわけ多元型組織で重視されている価値観だ)。しかし実際には、参加者全員がめいめいに勝手なことを主張する、集団的なエゴの嵐に陥ってしまうことが多い。自分の思いつきや希望が組み入れられないとだれにでもグループの判断を止める権利があるからだ。つまり、ほかの人々に及ぼせる権力(とはいえ組織を麻痺させる権力だが)を管理職だけでなく全員が持っていることになる。全員の希望を(それがどんなにつまらないものであれ)満足させようとする試みは、往々にして出口の見えない苦行になる。そして最後には、ほとんどの人がどうでもよくなり、「何でもよいから早くだれかに決めてほしい」という状況になることも珍しくない。

『ティール組織』本編より

現在のDAOが抱える課題が言語化されています。耳が痛い。
ティールのモデルは、このようなグリーンの課題を解消するべく生まれたものです。

それでは、実際のティール組織の意思決定プロセスと、
DAOでの実践方法について整理していきます。

ティール組織を反映させたDAOガバナンス

ティール組織にあたる企業では、全てのチームメンバーは
自身の裁量で意思決定を行うことができます。
ただ、これは「好き勝手になんでもやって良い」ということではなく、「誓約と制約」にあたるものが存在します。

これは「助言プロセス」と呼ばれています。
書籍の説明が簡潔なので、本編を引用する形で説明します。

原則として、組織内のだれがどんな決定を下してもかまわない。ただしその前に、すべての関係者とその問題の専門家に助言を求めなければならないのだ。決定を下そうという人には、一つ一つの助言をすべて取り入れる義務はない。目的は、全員の希望を取り入れて内容の薄くなった妥協を図ることではない。しかし必ず関係者に助言を求め、それらを真剣に検討しなければならない。判断の内容が大きいほど助言を求める対象者が広がり、場合によっては、CEOや取締役の意見も求めなければならない。通常、意思決定者はその問題や機会に気がついた人、あるいはそれによって最も影響を受ける人だ。

『ティール組織』本編より

このように、すべてのメンバーに適切な裁量が与えられています。これをDAOで行うことで、思想の基盤となる分散性を保ちながら、意思決定のスピードを高めることができると考えています。

実際にDAOで導入する場合には、以下のような実装方法になります。

  • メンバーはDAOに対して取り組みたい内容を起案する

  • 助言プロセスでアドバイスを行ったメンバーが、
    証拠として該当する起案に電子署名を行う

  • 必要な数の電子署名が集まり次第、起案内容が確定。
    実行フェーズに移行される

これにより、Snapshotで必要な数の投票を集める場合と比較して圧倒的に早いスピードでプロジェクトを推進できるようになります。


解決策②貢献の可視化と報酬体系の整理

それでは、意思決定スピードの遅さと並ぶ2つ目の課題である「貢献に報いる仕組みの不在」についても解決策を整理してみます。

どうやって貢献を可視化するか

まずはじめに、そもそもの「メンバーの活動をどのように可視化するのか」という部分についてです。現在のDAOでは、メンバーが日々何をしているのかがブラックボックスになってしまっている、という話をしました。

この課題を解消するため、我々は「Unyte(ユナイト)」というDAOツールを開発しています。

Unyteは、Discord上で稼働するBotをサーバーに招待することで、

  • チームへの提案

  • 日々の活動内容の記録

  • 他のチームメンバーに対するお礼

といった活動を「スラッシュコマンド」と呼ばれるボタン一つで簡単に記録できるようになります。

その名の通り、チャットに「/」を打つだけで実行できます

例えば、「/proposal」のコマンドを使うと、
チームに対して簡単に提案を行うことができます。
提案内容は、Discordの「フォーラムチャンネル」と呼ばれる場所に集められるため、他のチャットに埋もれ、流れていってしまう心配もありません。

提案内容はフォーラムチャンネルに自動で記録されます

また、Proposalも含めた他の活動は、DAOごとに発行されるダッシュボード上に記録されていきます。

「Thanks」コマンドで送られたありがとう一覧
-MedicalDAOさんのダッシュボードより

メンバーそれぞれがどの活動をどれくらい行っているのかという情報もダッシュボードに記録されていきます。

自身の活動が溜まっていくマイページ
貢献を一覧化できるダッシュボード
-PharmacistDAOさんのダッシュボードより

このように、DAOメンバーの活動内容が簡単に見える化できるため、「誰が何をやっているのか見えない」という課題を解消できます。

詳しい使い方は以下のマニュアルに記載しています!
(現在はクローズドβテスト期間のため、ご利用を希望される方は私のTwitterにご連絡いただけると嬉しいです!)

報酬体系の明確化

メンバーの活動を可視化できたあとは、いよいよ
「貢献に応じてどのような報酬を渡すか」という部分の議論に入ります。

ここはDAOによってもかなり方針が分かれるところなので一般化しにくい部分です。今回は「ワークしている報酬体系」を持つDAO(コミュニティ)の事例を紹介することにしたいと思います。

今回紹介させていただくのは、「VeryLongAnimals」のコミュニティです!

かわいい

ご存知の通り、ベリロンコミュニティは日本で最も勢いがあるといっても過言ではないNFTコミュニティです。ベリロン・二次創作のホルダーはもちろん、そうでない人も含めて多くの人がTwitterとDiscordでコミュニティに参加し、日々活動をしています。

そんなベリロンコミュニティには、「ポテト」という独自の報酬制度が存在します。

報酬がポテトなのは「ベリーロングな食べ物だから」らしいです

ポテトはベリロンコミュニティに貢献することでもらうことができ、ベリロンをより楽しむためのユーティリティを備えています。ポテトのユーティリティはこちらのツイートに詳しく載っています。

簡単にまとめると、日々の活動でポテトを集めることで、リアルなポテトやiPadといった価値のある商品を受け取ることができます。

そして、このポテトがもらえる条件は、「ポテト配布基準」というドキュメントに明記されています。

配布基準には、
「二次創作の制作」
「ベリロンについてのSNSでの発信」

などの難易度が高めのものから、
「朝に「vgm #ベリロン 」とツイートする」
「PM11:11にTwitter上で「べりろん」と呟き、一番近いとポテト獲得」

などのゲーム感覚でポテトがもらえるものまで幅広く用意されています。

この「手軽に貢献でき、かつ貢献に応じてリアルな対価がもらえる」という仕組みが、ベリロンコミュニティの成長を支える強い基盤になっています。

自分たちが販売するNFTコレクションを安く手に入れることができる権利や、ユーザーの生活を豊かにするグッズとの交換というユーティリティは、他のDAOでも真似できる部分が多いように思われます。

前述のUnyteでも、活動に応じて特定の報酬をユーザーに送る機能を実装しています。ベリロンコミュニティのように、報酬量が決まっている貢献(二次創作の作成etc..)を新たにコマンドとして登録する、といった
使い方もできるようになります。

例えば「二次創作の制作」を報告する際は「@Unyte 二次創作 【作ったコンテンツ】」と
打つことで自動的に200ポテト送付される、といったチーム独自のコマンドに対応できます
MedicalDAOに貢献すると、「MED」と呼ばれる独自トークンが配布されます

さいごに

DAOのガバナンスに関する課題とその解決策について考察してみました。

いち個人として私は、多くの人々が「会社で働く」という選択肢だけを生活の基盤とせざるを得ない状況に疑問を感じています。

「DAOやコミュニティに貢献する」ことが、会社で働くという手段に変わる新たな生活の基盤として広がることで、今の社会に蔓延する多くの課題(過労やメンタルの不調など)が解消するのではないか。

そんな希望を持ってDAOやコミュニティの活動を応援しながらツールを開発する生活を送っています。

この記事が、「より多くのDAOが持続的に活動し続けられる仕組みの整備」の一助になっていれば、これ以上の喜びはありません。

開発中のUnyteもまだまだ検証段階のため、
テストランに参加してくださるユーザーを募集しています!
ご興味をお持ちいただいた方は、ぜひUnyte
公式Twitterアカウントまでご連絡ください!

ここまでお読みいただきありがとうございました!
良きDAOライフを!👋

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