見出し画像

考えない日記:電波1の岩がちな海辺で2023.03.28

 数ヶ月考えを巡らせていた行事が終わり、漁師町にある10席程度の小さな定食屋さんで昼食とっていた。楽しくも苦しい行事の束縛から解放された午後。窓の外には漁船が何艘も停泊し、漁の後片付けをする男たち。

 携帯電話のメールが着信し、友人から悲しいお知らせが届く。食事を済ませてから車を少し走らせ、海岸線の突き当たりにある公園の駐車場へ停めた。普段は人のまばらな磯辺に旅行者らしき人々が春の行楽に訪れていた。ごろごろと砕けた海岸の岩と砂場を歩き、寄りかかれるような場所に落ち着いた。荷物を置いて携帯電話を取り出し、引き潮で浅瀬の剥き出しになった磯場をぽつぽつと歩きながら電話をかけた。電波は1と0を行き来し繋がらなかった。海岸線を歩いて崖と草の間を進んで電波を探した。反応の悪い携帯電話を操作して短い文を作りメッセージを飛ばした。

 砂と貝殻の混ざり合った浜へ座り、柄の美しい小石や造形美にあふれた貝を取り上げてはその辺りへぽいと放り投げた。親指の爪程度の乾いた蟹の亡骸が幾つか転がっていた。

 夕方の交差点で信号待ちをしていると、横断歩道をスクータータイプの原付を押しながら若い恋人たちが歩いていく。髪を挑発的に染めたお洒落な若い彼女とにこやかな彼。車の正面ガラスの向こう、ゆっくりと押されながら進むバイク。縞々の白線。信号を確認するとまだ車には赤のサインで、隣の車列に並んだ運転手も彼らに目線を送っていた。前日に沢山降った雨の乾ききらない路面が夜の支度を始めていた。

 友人の店へ忘れ物を取りに寄ると友達がカウンター席に座っていた。炭酸を飲みながら少し話した。古いタイプの手提げ金庫のことや肉の焼き方や車輪のでない飛行機の着陸。一見さんには開いているのか閉じているのか分かり難いお店。木枠で囲った扉の外を知人らしき姿が二、三度行き来しながら通り過ぎた気がしたが席を立たなかった。天井の梁が普段より太くみえた。

fine 2023.03.28

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?