ふらりたどり着いた街にて 2
土曜日の昼下がり、光るカフェオレ
5/11(土)
気づいたら土曜出勤係になっていた。いくつかの当番や仕事を肩代わりしているうちに「じゃあ、明日は7:30によろしくね!」と言われ、(え!そんな早朝からですか!)とは言わずに良い顔を作り良い返事をした。
ということで7時過ぎに職場に着き、あちこち歩き自分の作業を進める。とんでもないことになっている職場の私の部屋で大断捨離パーティをずっと執り行いたくて、時間にゆとりのある土曜日が結局ちょうど良く思えた。
ぐちゃぐちゃ!はちゃめちゃ!パッパラパー!な棚の中身を全て出し、要るもの要らないものに分け、20〜30年前の書類(もはや文化遺産)を捨て、同じ種類のもの同士をまとめ、秩序を保ったまま棚に戻すパーティ。おかげさまでだいぶ片づきました。
(前任者はこんな荒廃した空間で何をやっていたんだ…?)と毒づきたくなるたびに(ま、ここを建て直すために私が配属されたんだな!整理収納アドバイザーの資格、ついでに取っちゃおうかな!ワハハ!)とその毒を薄めた。
気づいたら14時、ほぼ誰とも話さずに作業をしていたから寂しい。味気ない。
そういえばお昼食べてない…どこか遠くに行きたい…と山に向かって車を走らせる。
1時間かかって山あいの谷間にある小さなカフェに来た。 豪雪地帯ゆえに冬はまるっと休業しているカフェも、爽やかな植物の芽吹きとともに営業を再開していた。
テラス席に座り湖畔を見下ろす。 木の柱で縁取られた額縁の先に光る、新緑。あぁ、うっとりしてしまう。
時折撫でるような風が吹くテラスでしばらくぼけ〜っとしていると、注文したベーグルとカフェオレが届いた。これもまた、うっとり。
職場と家の往復で日々をすり減らしていると、この自然の雄大さに惚れ惚れしちゃうなぁ。あっぱれだなぁ。
その後近くの公園に移動し、まるまる1時間水面を眺めて過ごした。
誰もいない湖畔を独り占め。
穏やかな水面と、爽やかな新緑。私しかいないと思ったけれど、感覚が周りに慣れてくるとモンキチョウのつがいと数匹のアメンボを見つけた。
このチョウもアメンボも、生まれたこの地を愛しているんだろうなぁ。この湖で生まれ育って、ひらひらと舞ったり悠々と水辺を跳んだりして、いつか繁殖して、命を繋いでいくんだなぁ。生き物ってどこか律儀で、自由で、一生懸命に命を繋いで愛おしいなぁと思った。
アメンボを見ながら、私は新しいこの街を愛していけるんだろうかと考える。私、コンクリートジャングルでの新生活に疲れている。仕事ばかりやっているうちに気づいたら平気で5、6年経っていそうで怖い。欠伸する間も無く30代半ばまで突っ走ってしまいそう、そうなったらどうしよう。なんて、不安フィルターを通して自分の未来を覗こうとする。そんなの意味ない、実現する訳でもないってわかってるけどさ。
そういえば4年前、海辺のあの街に初めて来た初夏にも、私は生き物を見ながらそんなこと考えていた。
あの頃は遠距離彼氏との未来がどうなるのかわからなくて(コロナもあったし)、数年後自分はどこに住んでいるんだろう、誰と笑っているんだろう、とそればっかり考えていた。港公園のテトラポットからたくさんのウミネコを眺め、(あのウミネコたちは一生この港で生きていく覚悟で飛んでいるのか…? 知らない港を夢見ることはあるのか…? 群れから離れて未開の地を目指すウミネコは、どれくらいの決心をしているんだろう…)と真剣に考えていたんだった。
今思うと微笑ましい。見えない未来をたいそう不安がっていたあの頃の私へ。私は海辺の街を心底気に入って、その地で生きていくことを選ぶよ。遠距離恋愛はいつか終わるけど、その先も楽しいことがたくさんあるんだよ。なるようになるから、あんまり深刻に考えないの!
って4年前の私にデコピンしたくなった。こそばゆい。
5/12(日)
朝から軽〜い出張。強気でいたい…!と思い大盛りトマトパスタを作ってモリモリ食べた。これだけ食べれば強気でいられるでしょ、だってめちゃ美味しいもん。
家を出る前にベランダの多肉にお水をあげた。日光を好む多肉の鉢は小さなおばけみたいに成長していて、伸びた茎から新しい株がぽこぽこ育っている。もうこれはおばけ。
玄関を出てドアを閉めた私の目の前を、たんぽぽの綿毛がふんわり舞って行く。
私は白い生き物、ふわふわした生き物のことは前に飼っていたハムスターの化身だと信じているから(あら!私に会いに来てくれたの!)とその都度嬉しくなる。今日も、心にポッとあかりが灯った。
軽〜い出張はほんとに軽かった。
出先の和菓子屋さんで見つけた激かわスイーツを食べたら元気が湧いてきた。食べられるカワイイってこんな見た目でこんな味。私のチョイス、大正解。
夜は職場の若手会。社会人1〜2年目の瑞々しい仕事観や結婚観を聞けた。若手2人がまっすぐで誠意に満ちた結婚観を話してくれるから、(このまま上手くいくと良いね)と心の底から思った。
深夜2時、タクシーを降りてうちまでの数百mをズカズカと歩く。雨がぼつぼつ降る中を早足でズカズカといく。もう全部馬鹿で、全部アホなんだ、もうどうしようもないんだ。急にそう思えてきて困った。私はあの若手なりの「学生時代からの恋人とこのまま生きていきたい」という結婚観がとにかく眩しくて、それをなし崩しにした1年前の自分がどうしようもなく馬鹿に思えてくる。全て終わってしまえばいい、と暴論を抱きながらシャワーを浴びて、ありゃもう3時…?!3時間後には起床…?!と思いながら寝た。
5/13(月)
寝起きの30分で二日酔いが抜けた。朝からスッキリした頭でテキパキと仕事をする。あれだけウイスキーをロックで行ったのに、てか後半はそれしか飲んでないのに、私ったら酒つよモンスター…?と我ながら驚いた。私よりもずっと具合の悪そうな人を数人見かけた。
雨上がりの夕方、日が落ちる頃、数分だけ空が不気味な赤色をしていることに気がついて慌てて外に出た。そこにいた10代と顔を合わせて空を見上げる。
「…世界の終わりみたいなエグい空ですね」
「そうだね…世界が終わるなら最後に何食べたい?」
「うわエグいこと聞きますね。うーん坦々麺?」
「グルメだね〜私はおにぎりかな〜」
不気味な空の下でおにぎりの具材について語った。枝豆とチーズのおにぎりの美味しさを知らないなんてまだまだお子ちゃまだよ。
5/14(火)
朝から晩まで爽やかな一日。厚紙で箱を折ったら全部全部いびつな形になってウケた。私なりに丁寧に折ったのに、不器用さといびつな性格は隠せないみたい。
今日はまた1人、かっこいい働き方をする大人を見つけてしまった…! 「楽しいことを仕事にしているだけだから、どこまでも仕事に打ち込めちゃう」を地でいく大人。そんな生き様とお茶目な人柄に魅せられた。 かっこい〜〜っす。
帰り、最後まで残ったメンバーで退勤する時に若手の男の子が「晩ご飯はすき家にします!」って笑顔で言ってたのが頭に残って、(私も夕飯は買っちゃおう!)と決意。そんな日があってもいい。
コンビニに寄る途中、よく澄んだ夜空の天頂に北斗七星のような星座を見つけた。GWの屋上BBQでも北斗七星を見上げながら「星めぐりの歌」を聴いたことを思い出して、あの夜と今がちゃんと繋がっているんだ、と嬉しく思えた。
5/15(水)
転勤してから初めての感覚。
他の人と私とで考え方が少し異なって一旦食い下がったのちに(…あ、私にもプライドがあるんだ)と自覚した。 ここに異動してからいろんなことに気を張っていたけれど、下手の人間としてやってきたつもりだけど、そこからこんな風に自分の意見を持てるまでに馴染めてきたんだ…とハッとした。
意見の食い違った相手の上司は私とは違う畑で生きてきた人種だから、食い違うことも仕方ない。そう開き直れる自分のタフさにあっぱれだよ。
5/16(木)
昨日の上司は隣の席だから(朝どんな顔で会おう…)と少しだけソワソワしたものの、それは杞憂に終わった。
そいえば昨日の朝イチで「ジャムの瓶を開けてください!明日持ってきます!」とお願いしていたんだった。
出勤後「お願いします!」とジャムを手渡す。「お〜昨日言ってたやつね」カポッ
ジャムの瓶は上司の手のひらの中で秒で開いた。
昨日聳え立ったぎこちない心の壁もスッと消えた。
家でうんともすんとも言わなくて途方に暮れたジャムよ、とっても良い仕事をしてくれてサンキュ〜!
これで家でヨーグルトを美味しく食べられるよ、上司サンキュ〜!
5/17(金)
エブリデイ・ハレの日!ってくらい目まぐるしい職場でも、ふと息をつけるタイミングで周りの方が優しく声をかけてくれるから、そのおかげで頑張れています。
(き、今日も麗しい…)といつも目を細めたくなるような女性上司が、スタバのアイスコーヒーを片手に出勤してきた。今日も麗しくてかっこい〜っす。
午後になってその方がハレofハレの大仕事をしているのを目撃して、アイスコーヒーはその気合い注入だったのかなぁと思いを巡らせた。かっこい〜。 大仕事の合間を縫って、私に話しかけてくれた。キュンです。ありがとうございます。
クリープハイプのワンマンに申し込もう。空気階段の単独ライブも申し込もう。と夜に思い立つ。 そのついでに遠方の友達にも会いたいし。生きているうちにやりたいこと、やっていかなくちゃ。
4月は憔悴しきっててな〜んにも「want」が生まれなかったけれど、こうして少しずつ心が潤っていくこと、なんだかホッとする。
遠方に出かけようと思う余裕が本当になかったもんね。
ハムスターの歩幅くらい少しずつだけど、確実に、ゆっくりと、私は前に進めているんだよ。
だから大丈夫。どうせうまくいくんだよ。
5/18(土)
今週末は出勤しないんだから!と朝から家でまったり。
たっぷり時間をかけて家を整えてnoteをまとめた。この時間が私を救う。
今日はどこかに出かけてみよう。 山に囲まれた集落に出かけよう。その前に玄関に水を撒いてお掃除しよう。お天気だから。
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