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Clubhouseは音声メディア戦国時代の覇者になるか

音声メディア戦国時代である。

ざっと思いつくだけでも、VoicyRadiotalkStand.fmSpoonなど様々な音声メディアが生まれて活況を呈している。いちおう音声メディアを扱う仕事柄、全て登録して使ってみるのだけど、機能面でもカルチャー面でも微妙な棲み分けが形作られていきつつのあるのを興味深く見ている(聴いている、と書くべきか)。

メディア接触時間はほぼ飽和している

我々は1日平均で7時間近く、411分強もの時間をなんらかのメディア接触に費やしているそうだ。( 出典:博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査2020」 )

定点調査

年々、このメディア接触時間は増えていて、もうこれ以上生活者の時間を奪い合うのは相当無理があるようにも見える。そしてこの中で、純粋な音声メディアであるラジオが占めるのはわずか14.9分。3.6%ほどに過ぎない。

ここに来て、冒頭の音声メディア戦国時代。これらは全てネットメディアなので、上記調査で言えばラジオではなく「パソコン」「タブレット端末」「携帯電話/スマートフォン」の接触時間に含まれている。もっと言えばラジオの側がRadikoだったりラジオクラウドだったり、ポッドキャストだったりで「そちら側」に挑んでいるという構図もある。

音声メディア戦国時代の戦いの舞台は、メディア接触時間のうち「パソコン」「タブレット端末」「携帯電話/スマートフォン」のデジタルメディア内で生活者の耳を奪い合っている。視覚情報に割ける時間が飽和しているいま、聴覚情報はまだ(デジタルメディア内を侵食する形で)のびしろがある、というのが大方の見方だろう。

音声メディアの特徴と変化

音声メディアの特徴のひとつは、ユーザーがスクリーンを見ていない点にある。ラジオでもVoicyでもSpotifyでもAmazonMusicでもいいのだけど、ずっとスクリーンを凝視しているという人は少ないだろう(一部の音楽系コンテンツでは歌詞やMVが流れていたりするがそれは音声メディアと呼ぶのには無理がある)。スクリーンを見ていない以上、視覚や行動時間は「別のこと」に費やされている。車の運転だったり、料理や勉強、通勤通学の移動、などなど。「ながらメディア」である点もまだ音声メディアは伸びしろがある、と言われる理由のひとつ。

またコンテンツ面では、たとえばSpotifyのポッドキャストチャートを見てみると、本日時点で上位30番組のうちラジオ局・テレビ局など放送局が制作したものは9つ。プラットフォーマーであるSpotify制作のものが7つ。残り約半数にあたる14番組は、個人だったりYouTube由来のスピンオフだったり、実に様々なコンテンツが並ぶ。すでに音声コンテンツは「プロが作って素人のユーザーに届けるもの」ではない。まあこれは音声メディアに限ったことではないが。

黒船・Clubhouseが破壊しようとしているもの

そんな音声メディア戦国時代に黒船のようにやってきたのがClubhouseだ。どんなメディアなのかを解説したものはすでに多く出回っているのでそちらに譲るとして、簡単に言えば個人が「雑談ベース」で繋がれる音声版SNSといったところか。それぞれのユーザーがトークルームを持ち、そこに入ってきたユーザーと雑談を繰り広げることが出来る。ユーザーはただそのトークを聴くことも、自分も会話に混ざりたいと手を挙げることもできる。もちろん自分のトークルームで選んだ仲間としゃべってもいい。

仮想通貨のブロックチェーンなどに活用されているP2Pという概念がある。P2Pネットワークは中央というものを持たない。中央(親)が作り送ったものを末端(子)が受け取る、という構造ではなく、末端(子)と末端(子)が直接つながる。P2P型の対義語はサーバクライアント型、だ。

これをコンテンツになぞらえてみると、送り手と受け手はサーバとクライアントの関係に近い。放送局(送り手/サーバー)がコンテンツを生み出し送ったものを、視聴者(受け手/クライアント)が受け取る、という関係が従来のメディア構造であった。

ネットの登場以降、このサーバクライアント型の構造がP2P型に近づいてはいる。しかし送り手と受け手のあいだには依然として壁があり、容易にこの関係が入れ替わるというところまでは来ていない。YouTubeのユーザーが全員ユーチューバーでないことは言うまでもない。

Clubhouseの仕組みはここを破壊しようとしている。

現時点でのClubhouseを見てみると、有名人も一般人も関係なく(現状、感度の高い社長層などが多い、というのは初期カルチャーをつくるため招待制にした戦略の結果だろう)さまざまなトークが繰り広げられている。ただ聴くだけのユーザーも、いつでも自分のルームで雑談を始めることが出来る。極めてP2P側の構造に近いように見える。

ネットやスマホが普及した結果、「誰でも発信者」になれる、などとよく聞くようになった。しかし実際にはそう誰でも発信を行っていない。可能であることはイコール達成を意味しないのだ。
clubhouseが持ち込んだスタイルは、「発信者/受信者」という概念を過去のものにしようとしている。なぜならClubhouseユーザーが行っていることは「そこにいた人とのトーク≒雑談」がベースであって、「発信」ですらないのだから。

既存のメディア側にいるひとたちは、ここを理解しておいた方がよいのではないか。これはP2P型のメディアであって、これまでのメディアと同じレイヤーにはないコミュニケーションだ。そして戦いを挑もうにも、相手には中央というものがないのだ。それなのに、着実に「残された生活者の聖域=聴覚」を着実に奪ってゆく。

Clubhouseは戦国時代の覇者になるか

ここからは全く個人的な単なる予想であって根拠もなにもない。

Clubhouseがこの戦国時代の覇者になるかどうか。予感としては、「Clubhouseの次あたりに出て来るもの」もしくは「Clubhouse自身が作ったカルチャーを進化させた先に変化したもの」あたりの誕生を待つ必要があるのではないか、と思っている。

混沌とした時代を収束させる新しいカルチャーというのは、感度の高い人々に受け入れられるのは速いが、一般に浸透するまでには時間がかかるものだ。最初のカルチャーを作るプレイヤーは困難が伴うが、徐々に浸透したところでそのエッセンスをうまくすくい取った新興プレイヤーが安定した体制を作る、というのは歴史上もよくあること。中国では春秋戦国時代を終わらせた始皇帝の治める秦はわずか15年で倒されたがその後の漢王朝は400年も続いている。日本の戦国時代は信長や秀吉がまとめかかった後に260年続く幕府を開いたのは徳川家であった(歴史理解がざっくりしすぎていて例が適切でないかもしれないが)。

Clubhouseが作ろうとしているカルチャーは、一般に浸透するにはそもそも異なるレイヤーでのコミュニケーションに人々が慣れる時間を要するのではないかと思っている。その意味で「次」が楽しみなのだ。それはClubhouse自身かもしれないし、別のプレイヤーかもしれないが。

いずれにしても、混沌とした戦国時代からは様々なチャレンジやコンテンツが生まれる。音声メディア戦国時代の端っこで生きる者としては、どこが覇権を取るのかを注意深く見つつ、流れ矢に当たらぬよう独自の生き方を編み出していかなければならない、という感覚でいる。

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この記事はSpotifyのフェイバリットリストを聴きながら書きました。

毎度のことながらMBCラジオ「RadioBurn+」のマガジン用の記事です。今回のテーマが「伝えるということ」。ちょっと壮大なテーマ過ぎて、しかもClubhouseにも触れるのではということだったので、全く本編では時間が足りない可能性があり、長文になってしまいました。語りたいことは多々あれど、さてどこまで語れるやら。

オンエアは1/30(土)18時から。YouTubeライブやRadikoでもどうぞー








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