乳幼児をパチンコ駐車場に駐めた自動車内に放置して死亡させた保護責任者遺棄致死被告事件の判決

 たまたま見つけた,意外と知られていないけど興味深い判例を5分くらいで読めるボリュームで紹介するシリーズ第2弾です。シリーズ名は,まだない。あ,あと今回は5分じゃなくて10分くらいで読める内容です。

 今回は,これからの時期にハイシーズンを迎える「親がパチンコに興じている間に子を駐車場に放置して死なせてしまった」(以下,「パチンコ車内放置死事案」といいます。)という事件の判決をご紹介します。こういう事件の判決って意外と読んだことがなくないですか?

 ところで,このパチンコ車内放置死事案,センセーショナルに報じられるせいか,毎年大量に発生しているように思われますが,実際はどうでしょうか。

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ホール駐車場内における子どもの車内放置死亡事故は,平成10年以降30件発生しており,近年では平成20年からの10年間で8件の死亡事故が発生しております。

(以上,http://www.syanaihochi.com/より)

 死亡に至るケースは思ったよりも少ない印象です。しかし,未然防止案件の数の多さには目を引くものがあります(なお,平成29年度から激増していますが,これは巡回強化等の対策の結果ではないかと推察されます。)。
 このうち,平成29年度に発生した死亡事故2件がいずれも判例検索システムにありましたので,ご紹介します。

 まずは,「静岡地裁浜松支判平成30年2月16日」です。

主文
 被告人を懲役2年6月に処する。
 未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
【罪となるべき事実】
 被告人は,生後約1年11か月の長男A(平成27年○月○日生。以下「被害者」という。)の実父として被害者を保護する責任のあった者であるが,平成29年7月8日午前11時10分頃,静岡県湖西市〈以下省略〉株式会社a・○○店駐車場において,炎天下であったにもかかわらず,同店内でパチスロ遊戯をするため,同駐車場に駐車した自動車のエンジンを切り,被害者を同車後部座席に設置されたチャイルドシート上に着座させたまま,あえてその場を立ち去り,その頃から同日午後0時53分頃までの間,被害者を放置して遺棄するとともに,同店内においてパチスロ遊戯に耽るなどして被害者の生存に必要な保護をせず,よって,同日午後2時27分頃,浜松市〈以下省略〉浜松医療センターにおいて,被害者を熱中症により死亡させた。
【量刑の理由】
 被告人は,気温が30度を超える真夏日に,日向に駐車し,冷房を切った自動車内のチャイルドシート上に被害者を置き去りにして,約1時間43分もの長時間にわたり,その間一度も被害者の様子を見に来ることなく放置し続けている。放置後のチャイルドシート付近の温度が50度近くになっていたものと推定されることや,被害者が生後約1歳11か月の幼児であり,成人と比較して体内に熱がこもりやすく,自ら高温環境下からの退避行動を取ることもできなかったことを考慮すると,被告人が被害者の元から立ち去る際に被害者の着座場所付近の窓を少し開けていたことを踏まえても,本件犯行が被害者を死亡させる危険性は大きいものであったといえる。
 被害者は,父親として慕っていた被告人に一人で置き去りにされ,暑さに苦しみながら,わずか1歳11か月という幼さでその未来を奪われたものであって,その身体的,精神的苦痛は計り知れず,本件犯行の結果は重いといわざるを得ない。
 被告人は,仕事で抱えたストレスの発散のためにパチスロ遊戯をしたいと考え,本件犯行に及んだものであるが,その動機は,被害者とは何ら関係のない自分本位で自己中心的なものといわざるを得ない。また,被告人は,昨今,パチンコ店での子どもの置き去りが社会的な問題とされている中,炎天下の自動車内に被害者を放置することの危険性を認識していながら,その危険の発生を避けるための行動を十分に取ることなく,被害者を置き去りにした上,自らの娯楽に耽って放置したものであるから,被告人に対する非難は避けられない。もっとも,被告人は,日頃から被害者に対する虐待や育児放棄をしていたわけではなく,本件以前に被害者を自動車内に長時間放置するなどしたこともない。被告人は,むしろ被害者を愛情深く養育してきたのであって,本件犯行も,被害者を苦しませようなどといった積極的な害意に基づくものではないし,計画的な犯行でもない。これらの事情を考慮すると,被告人に対しては,相応の責任非難を向けるべきではあるが,その程度が厳しいものとまではいえない。
 そうすると,本件は,子に対する保護責任者遺棄致死1件を行った類型において,その責任非難の程度を考慮すれば重い部類に属するものとはいえないが,行為の危険性や結果の重さ,パチンコ店における幼児の置き去りといった事案自体の悪質性を踏まえると,執行猶予を相当とするほど軽い部類のものとはいえない。
 その上で,遺族でもある被告人の妻が厳しい処罰を求めていないことや,被告人に前科がなく,妻や両親などその更生を支える家族もおり,被告人自身,法廷で謝罪,悔悟,反省の言葉を述べるなど,相当程度の更生可能性が認められることなど,被告人のために酌むべき一般情状事実も考慮すると,本件については,酌量減軽の上,主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。
 (検察官の求刑―懲役5年,弁護人の量刑意見―付執行猶予)

 次いで,山口地判平成30年5月23日です。

主文
 被告人を懲役4年に処する。
 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。
【罪となるべき事実】
 被告人は,実娘A(平成29年○月○日生)の実母として同児を保護する責任のあった者であるが,平成29年5月11日午前9時59分頃から同日午後3時40分頃までの間,山口県防府市〈以下省略〉パチンコスロット店「a」駐車場において,同店内でスロットをするため,同駐車場に駐車した自動車内に同児を置き去りにして遺棄し,よって,その頃,同車内において,同児を熱射病により死亡させた。
【量刑の理由】
 被告人は,5月の晴れた日,スロットをするため,生後わずか2か月余りの乳児である被害女児を,密閉されてエアコンの効かない自動車内に,約5時間40分もの長時間にわたって放置し,その間に熱射病により死亡させたものであり,真夏ではなかったことや,入店した当初からこれほどの長時間スロットを続けるつもりはなかったであろうことを踏まえても,勝ち負け次第で長時間になりかねないスロット遊技の特性に鑑み,相当に危険な犯行態様であったとみるべきである。また,被告人は,義母から子供らを自宅に放置してスロットをしていたことを咎められた後も,本件の数日前のゴールデンウィーク期間中,夫と共に,被害女児を自動車内に残したままでのスロットを繰り返した末,本件犯行に至っており,被告人がスロットにのめり込むようになった背景には,夫の影響だけでなく,3人の子の育児負担等に伴う日常生活上のストレスや,人格的未熟さなど被告人が元来有する資質も影響しているとはいえ,経緯においても同情の余地は乏しく,本件犯情はなお重大である。
 以上を踏まえ,被告人が事の重大さを受け止めきれず,夫を始めとする家族らに責任を転嫁し,自己を憐れむかのような供述を繰り返す中,被告人が被害女児の異変に気付いて直ちに119番通報したことのほか,前科前歴がないこと,更には幼い2人の子がいること等,弁護人の主張する早期の社会復帰も視野に入れるべき事情をも十分に斟酌しつつ,親が乳児ないし幼児1人を死亡させた事案の量刑傾向を参照して検討した結果,被告人の刑事責任は重く,法定刑の下限を上回る主文の実刑は免れないとの結論に達した。
 (検察官の求刑 懲役6年,弁護人の科刑意見 執行猶予付き判決)
サイ太コメント;本件のその他の参考事情
 ・遊戯後に車に戻って異変に気付き119番通報後,現場を自宅の駐車場と偽るなど虚偽の弁解をしていた。
 ・弁護側は故意ではない,また,心神耗弱状態にあったと主張したが,いずれも排斥。
 ・事実誤認と量刑不当で控訴するも,控訴棄却(広島高判決平成30年11月6日)。

 いずれも裁判員裁判ですが,前科がないにもかかわらず,一発で実刑判決となっています。この種事案は裁判員裁判になって量刑が上がった部類の事案でしょうね。
 量刑に開きがありますが,前者は明示的に酌量減軽を認めています。量刑には,自白か否か,放置時間,子の年齢,反省悔悟の有無,あたりの違いが影響していると思われます。

 いずれにせよ,パチンコ車内放置死事案の量刑は重いことが分かりました。ダメ車内放置。


以下,八百選的コメント。

・リーディングケースとなった名古屋地判平成19年7月9日裁判所HPは,同種事案について,不保護の認識を否定。訴因変更の上,重過失致死罪を適用して執行猶予付き判決を言い渡したもの。「被害者が呼吸をしていないことを認識しながら,なおメダルを換金する行動に出るなどしており,犯行後の行状も悪い。」という判示がなんともはや。

全日本遊技事業協同組合連合会のページで,未然防止事案の報告が読めます。厳重注意されたのに悪びれもしない事案も散見されて色々と絶望します(児童相談所に即通告でよいのでは・・・。)。今回紹介した2件はエアコンすら付けていませんでしたが,この報告ではエアコンを付けて放置していた事案でも積極的に声かけを行っているようです。良い取り組みですね。

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