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詩:0053 納棺

うすくしぼんだ唇に
口腔ケア綿棒で
行き来する
水を飲めないなら
濡らす落ちる水滴を
受け流してください
喉へ

足裏を温タオルでふき
まっすぐ長い指
点滴のなごり
紅い川がひろがる手の甲に
その手にも死化粧

あなたの髪の分目がどちらかも
口紅がどれほど赤かったのかも
どの服がいちばん好きだったかも
想う

おもいでの品々
寄り添わせても
ふとんやストールを掛けても
棺桶の天井は遠すぎる

あとあなたは
なにを愛していたのですか
ただひとり愛していたひとは
ここにはいない
形には残っていないひと

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