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#1『レゾンデートルの祈り』感想

今回ご紹介するのは、楪一志(ゆずりはいっし)先生の『レゾンデートルの祈り』という作品です。

*以下ネタバレを含みますのでご注意ください*----------------------

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○あらすじ

安楽死が合法化された近未来の日本。主人公の遠野眞白はこの国の安楽死制度を管轄する「ラストリゾート」に勤める新米アシスター(人命幇助者)として、日々安楽死希望者とのカウンセリングを行なっている。

これは、一人の若い少女が、生きることを選ばなかった5人の安楽死希望者の心に寄り添い、彼らと共に「生きる意味」を考える物語である。

○感想

読んだ直後の率直な感想は、

「眞白のような人が寄り添ってくれるのなら、安楽死という選択肢もありかな」

でした。

眞白は作中で5人の"生きることを望まない"人々に出会います。この5人が安楽死を求める理由は様々で、どれもこのような制度があれば実際に存在すると思われるようなリアルな事例ばかりです。作品前半ではまだアシスター(人命幇助者)としての経験が浅かった彼女も、それらの事例に対して彼女なりの方法で優しくそれぞれの心に寄り添おうとしていくことで、彼女自身アシスターとして、一人の人間として成長していきます。

"死"というものを自分の意思で選んだ人間と真摯に向き合い寄り添うからこそ、共に"生きる意味"を見つけることができる

これが本作品のアシスターに必要な力なのだと感じました。


また、私がこの作品を読んで感じたのは、

「時として死ぬよりも生き延びる方が辛いこともある」

ということです。

アシスターはあくまでも"人命幇助"つまり「安楽死を踏み留まって、生き延びてもらうこと」が目的ですが、生きる希望を失った人間に、生きていることで直面する現実から逃げたい人間に、「生き延びるように促す」ことは本当に正しい行いなのでしょうか。

これを理解しているのとそうでないのとでは、アシスターとしての向き合い方が大きく異なると思います。

"生きること=正義"と思い込んで接してしまうと、更に追い詰められる人も世の中にはいるのです。

私は"自ら死を選ぶ"こと自体は間違っているとは思いません。もちろん現在の日本では法的に認められていないので別の方法を取るしかないかもしれませんが、実際本作中にあった事例ような状況に置かれたとき、安楽死を望むという人は一定数居るのではないでしょうか。

"生き延びてほしい"という気持ちも、"死を選びたい"という気持ちも、どちらが善悪ということはないのだと思うのです。

だからこそ私は、眞白のようなアシスターに寄り添ってもらった安楽死希望者は、

"生きる意味"を知った上で"死を選ぶ"

ということも十分に考えられると思います。その方が、最期に自分の気持ちを理解してくれる人に出逢えて心置きなくこの世と別れることができる、と考える人もいるのではないでしょうか。


現在の日本では安楽死制度は公的に認められてはいません。それは、安楽死を決定するのは死にたい本人でも、実際に安楽死ができるようにサポートするのが医者や看護師など第三者であるケースでは、「安楽死=自殺幇助=殺人」という世間の認識がどうしても拭えないことが要因の一つであると言えます。

細かくいえば、安楽死と自殺幇助は第三者が関与するか否かという点で違いはありますが、どちらも"まだ生きられる命を奪う"という点に関しては同じ部分があるので、そこが人道的モラルと反しているという見方が多いようです。


○最後に

本作中の安楽死希望者の事例には、実際にいつ私たちの身に起こるかわからないようなものもあります。

今は見えていなくても、"死"というのは唐突にあなたの目の前に現れるものです。

ここまで読んでいただいた皆様が、ご自分の人生を全う出来ることを願います。


Twitterに本のリンクもあるので是非見てみてくださいね。

○著者について

・楪 一志 (ユズリハ イッシ)

北海道在住。Web小説サイト「カクヨム」掲載作を加筆修正した『レゾンデートルの祈り』にて作家デビュー。


・ふすい (フスイ) (イラスト)

イラストレーター。
『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)等数々の書籍装画を手掛けるほか、児童書/教育事業関連/広告/MVイラスト/CDジャケット等を中心に活動している。

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