冬の蚊を払ひ即身仏となる 攝津幸彦

冬の蚊は哀れ。息も絶え絶えの様相を呈している。寒くなると、もう消えていなくなるのだが、ふっと思い出したように暖かい日が巡ってくる時がある。この時期を逃したら、このままこの世に生まれいづることのないままに終わってしまうかもしれないと、渾身の力を振り絞って孵化した蚊である。
ふわふわ病み上がりのようにうろたえている。そんな様子に同情し、殺生はできない。自らの身も蚊のようにおろおろしている命なのだから。


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