【ショートショート】銀河鉄道移住計画(580字)
月行きの列車は、空いていた。
向かいの席の老夫婦が訊ねる。
「あんた達、ふたりきりかい?」
そうだよ、とフーガとユーガのふたりは同時に答えた。
「父さんと母さんは、もう月にいるんだ」
その声はどちらがどちらだか分からない。
フーガとユーガは一卵性の双生児だ。小さな頃、双生児というのは美味しいものだとフーガもユーガも思っていた。
「あ、流れ星だ」「僕だってさっき見たぞ」
「僕はもう三つ見たぞ」「僕だって三つだ」
こんな風にふたりはいつも競っている。どちらが格好良いか、どちらが器用か、どちらが足が速いか・・・。だけど、誰もふたりのうちどちらが、とは決められなかった。どんなこともふたりはぴったり一緒だったのだから。
今度は、どちらが遅くまで地球に居られるかを競った。が、それも同時だった。それを見た者は居なかったけれど。
「ほら、もうすぐ月に到着だ」
向かいのおじいさんがいそいそと下車の準備を始めた。ふたりは列車の窓から、大きくなる月と、遠くなっていく地球を交互に見た。列車から見た地球は燃えるような赤だった。
大昔、月に初めて到達した宇宙飛行士は“地球は青かった”と言ったらしいのだけれど、フーガとユーガにはとても信じられなかった。
「さようなら、僕たちの地球」
「今度は上手くやるからさ」
フーガとユーガが声を揃えて別れを告げ、列車は月に降り立った。今日からここが僕たちの家だ。
END
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