『狐』
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『狐』

*2021年11月朗読教室テキスト③ビギナー番外編
*著者 新美南吉

月夜に7人の子供が歩いておりました。
大きい子供も小さい子供もまじっておりました。
月は、上から照らしておりました。子供たちの影は短かく地べたにうつりました。子供たちはじぶんじぶんの影を見て、ずいぶん大頭で、足が短いなぁと思いました。そこで、おかしくなって、笑い出す子もありました。あまりかっこうがよくないので二、三歩はしって見る子もありました。
こんな月夜には、子供たちは何か夢みたいなことを考えがちでありました。

秋頃から、小学4年生の娘が国語の授業で新美南吉の童話『ごん狐』を読んでいます。私が小学生の頃にも教科書に載っていて、黒い版画のようなちょっと暗いイメージの挿絵を覚えています。この辺りは本当に版画だったのか、あるいは物語の悲しいイメージが記憶の中の挿絵をそう描き換えてしまったのかもしれません。いずれにしても、春夏には明るい挿絵の多かった国語の教科書の中で、死を取り扱い、ハッピーエンドにもならない重苦しいの内容に、世界のトーンが切り替わったことを覚えています。
 
一方、同じ狐と人間の交流を描く『手袋を買いに』は、母狐と子狐の蕩けるような優しい会話と、ヒヤヒヤしながらも子狐が「葉っぱのお金でだまそうとしている」と人間に誤解されることなく無事に手袋を手に入れて、最後は人間のお母さんの子守唄に包まれます。そこには安心感があり、母子があり、冷え切った手を温めてくれる手袋があります。

そうして、実はこの二つの物語を、影からそっと見守っている者があります。冒頭で、子供達をあやしている月の存在です。悲しい物語も、やさしい物語も、それぞれをそのままに、微かな月明かりでそっと照らしています。私たちの日常も、何億人の人々も、昨日も今日も。月だけが知っている物語が、地球上に溢れています。

ビギナーコース番外編、11月のテキストは『狐』(新美南吉著)です。月夜の遊びから始まる短い物語を、半月の輝く夜に読んでみませんか。

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*底本 『新美南吉童話集』株式会社岩波書店
 1996年7月16日第1刷発行
*文中の太字は本文より抜粋

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