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小説VS漫画 リレー作品:第22話(小説)

「あんたは最初から自由じゃないか」
  俺の最初とは「いつ」からだろうか? 俺が偽物として生まれた時か、それともソウイチとして生まれた時か。仮にソウイチとして生まれた時だとして、思い返すと自由ではあったかもしれない。大学や家族、周りの評価など面倒な事柄に縛られていたようにも感じるが、結局は死ぬ程深刻な状況でもなかったし、やろうと思えばある程度の事は出来たと思う。けれどもし俺の最初が偽物だとしたらどうだろう? 俺はソウイチを殺して自分を本物にしなければいけない。そんな自分で定めたルールに従っているだけだ。そこに自由はなく、仮にあるとすればソウイチを殺したである。現状自由であるとはとても思えない。そんな事を考えていると返事がない俺にオルソンは困った顔をしていた。

 ペンギンの案内に従って壁の向こうとやらに向かう。ペンギンの話によるとそこは色々と複雑でとにかく滅茶苦茶なのだと言う。あまりに大雑把な説明にオルソンが詳しく説明を求めたが、どうやら落ちこぼれペンギンには詳しい事はわからないらしく、知らないとしか答えがかえってこなかった。
「ここからは地上にでる」
 ペンギンが通路の突きあたりの扉を開くと上に続く階段になっていた。階段の先は真上にハッチのような扉がついている。ハッチから地上へでて振り返ると、ハッチの表面は地面と同じ肉片でカモフラージュされていた。
 なんとなく興味本位で俺はペンギンに話しかける。
「こういう通路が沢山あるのか?」
「そうだな。研究所をつなぐ通路や、主要な施設へ繋がる通路、さらに何かトラブルが起こった時に逃げるため、あちらこちらに同じようなハッチが隠されているな」
「覚えるのが大変そうだな」
「私は全て覚えているがな!」
 そうこうしていると、遠くにぼんやりとではあるが壁が見えてきた。この世界の空がどこまで高いのかは知らないが目視では確認できない程に高い。
 さらに近づいていくと、壁の正体は想像していたものと違う事に気付く。腐った歯茎のような肉癖をガソリンのように七色に気色悪く流動する粘液のようなもので覆っている。そしてどこまでも大きい壁に対して小さなメカメカしい正方形の門がある。小さいと言っても一辺は数十メートルはあるだろう。ただ壁があまりに大きいため小さく見えるのだ。
「さあ、これから門を開ける事になるが、本来私はここには入れないのだ。招かれざる落ちこぼれと呼ばれた私がこの扉を開ける事は反逆行為になるだろう。一応エラーで生まれた君がどれだけ希少で価値のある存在かを説いてはみるが、どうなるかは分からない。そうなったら奴らを殺してくれてかまわない。まさかここにいる二匹の化け物が自分たちに逆らう事のできる存在だとは思わんだろうよ」
 ペンギンはそう言い、口の中からカードを取り出した。それに対してオルソンが疑問を吐く。
「そいつはなんだ?」
「門を開ける鍵だ。違反行為ではあるものの、この時の為に長い時をかけて密かにこの門を研究してつくったのだ!」
「そんな昔から野心を燃やしていたのかお前は?」
「私が落ちこぼれなどとありえないからな! わからせてやるにはこのくらいの事をしなければならない」
 そう言ってペンギンは勢いのままに門に近づいてカードをかざした。数秒して肉を磨り潰すかのような音が響いたかと思うと、ゆっくりと門が開き始めた。

 ————

「あんたは最初から自由じゃないか」
 本心からそう言ったつもりだったのだが、ソウイチは心底不思議そうな顔でなにやら考え始めた。結局そのまま返答は得られなかった。
 きっとソウイチにはわからないのだろう。他に縛られる不自由を経験した事がないソウイチにはきっとわからない。そしてオレもまたそんなソウイチが何故自由になれないのか、何故自由を捨てているのかわからなかった。
 オレには生まれた頃から自由などなかった。細かい事は省くが働かなければ生きられない、生きるためには働かなければいけない、そんな環境に生まれ、この世界に来た後も科学者共の奴隷だった。何十、何百年と時間を忘れるまでに不自由を過ごした。自分の意思こそあれ行動には移せない。勇気だとか度胸などではどうしようもない不自由。
 
 オレ以外の奴らは頭がおかしくなるか、気付けばいなくなっていた。そうなってくるとオレも色々と諦めるようになった。誰かと親しくなるを諦め、希望を捨てた。だがそれが良くなかった。抗う事を諦めた結果、狂う事ができなくなった。希望があればこそ絶望が心を壊すものだ。親しい者もいないので誰かが死んでも心は痛まない。

 と……、そう「思い込んでいた」

 それに気付いたのはクサリというオレと同じ化け物に出会った時だった。クサリには「友達」がいた。オレがずっと持てなかった繋がりを持った同じ化け物。

 羨ましい

 久しぶりに自分の感情が動いた。同じ化け物でありながら繋がりを持つクサリに嫉妬した。それと同時にもしかしたらオレにも……と、希望が見えた気がした。
 そしてその後すぐに科学者共にまた捕まり、ソウイチと出会った。ソウイチは初めから自由だった。誰にも縛られず科学者共を殺し自分の目的のために行動できる。だがその目的に縛られているようにも見えた。
 折角の自由に気付く事もできず自らを縛り上げるソウイチを、俺の意思で手伝ってやろうと考えた。不自由という地獄はもう沢山だ。それを目の前のソウイチが味わっているのなら助けてやろう。
 そしてこの繋がりが「友達」と呼べるようになればオレは満足だ。

 ————

「犯罪者は大変だね」
 これにはもちろん皮肉も入っているが、ボクなりの労いのつもりでもあった。面倒な犯罪者生活に、ボクという化け物を殺すという約束まで増えたのだ。ボクが理性を失くし化け物になる頃にはきっと身体もボロボロだろうからタイヘイでも殺せるだろう。かといって簡単に済むはずもない。
「でもさぁ僕はいいけど、ソウイチは大丈夫かな? クサリを殺す時に邪魔されちゃうかもね」
「不謹慎だけどそうであったならボクは嬉しいよ……」
 そう言うとタイヘイはボクを見て少し微笑んでいた。それからしばらくしてタイヘイが眠った頃、遠くから大きな音が聞こえ、地面が揺れた。

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