石井ゆかりさんの企画展と、コンステレーション=星座=布置 [2010・3〜4]

3月×日

画像1

星占いサイト「筋トレ」の石井ゆかりさんが、サイト開設10周年を記念して企画する写真展「Users Sphere; 星織-hoshiori 2010」へ(渋谷/ギャラリー・ルデコ)。石井さんは星占いではなく「星読み」と称して、星の配置を(批評的な意味での)「テクスト」と捉え、“テクスト・リーディング”していくような試みを、2000年位から自身のサイトでずっと続けてきた。非常に豊かな言葉の持ち主だが、誰にでも伝わるような平易な言葉で語ることから多くのファンの支持を集めている。2002年頃に偶然「筋トレ」を知り、それからはほぼ毎週サイトを訪問している。これもまた偶然がきっかけだと思うけど、石井さんの日記で「デザイン=器」のことを取り上げていただいたり(→この日の日記だった:削除済み)、時々サイトに遊びに来てくださったりもした。直接お会いしたことは一度もなかったにもかかわらず、なんだか遠くの友人のように感じていた。週報やTwitterの毎日の占いを通して、彼女のことをそんな風に感じている読者もきっと多いんじゃないだろうか。

今回は「筋トレ」プレゼンツ、と銘打って、石井さんがこれまで出版した著書に参加した二人の写真家、相田諒二・山口達己両氏の写真が展示されるとのこと。きっと石井さんも展示会場にいらっしゃるに違いない、と少しそわそわしながら会場へ向かった。『星栞-2006』の山口達己さんは水滴などをモチーフに光を強調した抽象的な写真。『星なしで、ラブレターを。』の相田諒二さんは外国を思わせる乾いたトーンで普段暮らす新潟の街を表現している。個人的には昔一緒に仕事した仁礼博さんの外国写真に通じる硬めの焼き具合でプリントされた、相田さんの写真を懐かしい思いで何度も眺めていた。

さて、石井さんはどこに、と思いながら目を泳がせたが、ここだと目星をつけた奥の図書室(石井さんの著書や普段読んでいる本が並んだコーナー)には不在のようだった。探すこと数分、あれっ?と思いつつ、入口近くのこのギャラリーの受付嬢だと思い込んでいた女性の首から提げられていた名札に「石井ゆかり」と書いてあるのを発見。その端正な字と奇妙なシチュエーションに、こみ上げてくる笑いをこらえるのに苦労した。感動の対面にもかかわらず具体的にどんなことを話したかすっかり記憶が飛んでしまったが、ぼくからはサイト訪問やあれこれのお礼と、昨年出た「禅語」という著書について、今回の展覧会のこと……とにかく褒めてばかりだった気がする。

「星読み」という石井さんの仕事は、心理学用語でいうところの「布置」(コンステレーション。Wikipediaの解説=分析心理学>因果性と共時性)に近いんじゃないかと思っている。語源のコンステレーションはそのまま「星座」の意味でもあるし(コンステレーションのこと|いのちの真相を求めて)。単なる星占いの域を越えて石井さんの言葉が響くのは、それが彼女の中にある星のように膨大な言葉群の中から彼女なりのフィルタを通して選び出されているからに違いない。もしそうだとしたら、その膨大な言葉のルーツをいつかまとまった形で、大きな展覧会で見てみたいなあと思う。天井にきらめく巨大な言葉のホロスコープとか、想像するだけでもロマンチックだ。それはたとえば「世田谷文学館・石井ゆかり展」のような場になるのだろうか……いつか世田文の宮沢和史展で毎週のようにブレーンストーミングに参加したときみたいにお手伝いできたりしたら幸せだなあ、などとリアルな妄想もまじえつつ、「次」への夢が自分の展覧会でもないのに、帰ってから次々と頭の中にふくらむのだった。
 

4月×日

画像2

月が明けて春が来た。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの「TDC展 2010」へ。1Fで見たグランプリ作品、ホワイ・ノット・アソシエイツの『Unseen Gaza』に興味をひかれた。イスラエルのガザ地区への取材にまつわる報道番組の予告編なのだが、報道管制が敷かれる中、視聴者にとって見るべき情報が隠されてしまうことを、タイポグラフィやグラフィックを使って巧みに表現している。こういう作品をグランプリに選ぶ審査員のセンスや時代感覚が鋭敏だと思った。ネットでも話題になったSOUR「日々の音色」(「RAINBOW IN YOUR HAND」の作者である川村真司さんの作品)も選ばれているし、一流アートディレクターと広告代理店やクライアントの生存確認みたいになっているデザイン賞と比べれば、はるかに時代の空気を吸い込んでいる印象を受けた。地下に展示されたノミネート作品もいつもに増して力が感じられた。

4月×日
代官山GALLERY SPEAK FORのミック・イタヤ「提灯」へ。いつものミックさんの人物像などが提灯に。自分の世界をグッズ化していくセンスは類いまれであり、いつか機会が来たら参考にさせてほしいと思う。行灯にミックさんの絵が描かれた作品で、「あなたの屋号やお好きな文字をお入れします」というのがあって買おうかどうか迷った。

4月×日
乃木坂のギャラリー東京バンブーで、デザインを担当した中川ひろたか・藤本ともひこさんのCD『いちについて』原画展が始まった。このアルバムは歌詞部分が14枚のカード式になっていて、それぞれの片面に曲をイメージした絵本画家のイラストが載っている。その原画の展示販売と画家さんが出している絵本の販売。ぼくも展示の案内はがきやポストカードセットの制作をお手伝いした。原画は熱心なファンの方が買うだろう、と思い、アルバムのリードシンガー野々歩ちゃんが仲間たちと作った可愛いフレーム(『いちについて』の歌詞カードを飾れるサイズ)を注文した。数日後、ギャラリーライブの日にまた来る。

恵比寿に戻ってナディッフアパートで、ジョン・ワーウィッカーの初の個展「for john cage (la mer) – the Floating World」を観る。タイトルの通り、ジョン・ケージの「サイレンス」、ドビュッシーの「海」にインスピレーションを受けた作品、とのこと。一見粗雑に描かれたドローイングに、ある種の規則性が見出されるところがグラフィックデザイナー的だと思う。海のようであり、水紋のようであり、彼が属するアンダーワールドの曲の絶え間ないキックによって生成される音の波紋のようでもある。ほかに店内で開かれていた村瀬恭子「Drawings」なども観覧。

4月×日
松屋銀座で始まったゴーゴー・ミッフィー展に行く。土日と会期の終わりほど混むだろうという見通しにより、金曜日の昼間に出かけたが、雨天も手伝ってなんとか普通に観ることができた。それぞれの絵本作品のために描かれた原画やセル画、その修正バージョンなどがわかりやすく並んでいる。見れば見るほどブルーナさんはイラストレーターではなくグラフィックデザイナーなんだなあ、との思いを深くする。物販会場は展示会場よりも混んでいたくらいの盛況ぶりだった。きょうは結局何も買わなかった。会期中にもう一度、ミッフィー好きの娘を連れて来るのでそのときに。

4月×日
ギャラリー東京バンブーで『いちについて』原画展最終日のギャラリーライブ。歌や演奏もお上手な絵本作家の飯野和好さん、村上康成さん、長谷川義史さん、藤本ともひこさんらが次々と、中川ひろたかさん率いるON’Sの演奏にゲスト参加。自分も楽器をやりたくなってしまった。音楽は、たとえばデザインのような、道筋がある程度決まっている作業と比べて自由だと感じた。

――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?