「堀内誠一 旅と絵本とデザイン」と、“真実のパリ”[2009・9〜10]

9月×日

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渋谷の松濤美術館で「江戸の幟旗 庶民の願い・絵師の技」を観る。幟旗(のぼりばた)とは端午の節句の時期に神社等に飾られる細長い旗のことで、収集家によって集められた江戸時代から伝わるコレクションの数々が展示されていた。横が短く縦が長い定型のサイズの中に、文字だけをデザインしたもの、可愛い干支の動物のイラストが描かれたもの、天地の長さを上手く使って天上から庶民の生活を見下ろすような構図で描かれたドラマチックなもの、などいろいろな種類がある。どれも端午の節句のため、という目的から、子どもへの温かい眼差しや可愛さ、メッセージ、元気さなどが込められているようだ。幟旗の日本随一のコレクターは、イラストレーター北村範史さんの叔父さんだそうで、今回のコレクションもその叔父さん(勝史さん)が所有するものが大半を占めているのだという。展示物の多くが収録された美しい図録を買って帰った。

9月×日
「堀内誠一 旅と絵本とデザイン」がまもなく終わるので、歩いて世田谷文学館へ。堀内さんの膨大な仕事が、旅、絵本、デザインの3つのテーマに沿ってまとめられていた。イラストレーターが描く手描き地図+旅エッセイの元祖が堀内さんだともいわれている。昔の「アンアン」や「オリーブ」で盛んに喧伝されたパリのイメージに誘われて、実際に旅してみると、建物は古くて汚いし、路上には犬やウマの糞があちこちに落ちている。真実のパリは日本人の女の子たちが連想したような可愛い街ではなく、しっとりと落ち着いた色合いを持つ大人の街だった……。パリやヨーロッパの間違ったイメージを日本に流布したのが堀内さんではないか、と勝手に思っていたら全然そんなことはなくて、展示されていた書簡や旅行記のそこかしこに「実際のパリは汚い」みたいなことが散々苦々しく書かれていて面白かった。堀内さんの作品やデザインにも、日本人特有のすっきりしたわかりやすさでは割り切れない、独特のビターな感覚が宿っているように感じられる。

9月×日
たくさんの仕事が終わったり始まったりする中、束の間の休息を求めてギャラリーへ。馬喰町のFOIL GALLERYで、前から見たかった青木陵子作品展「オブジェクト・リーディング」。青木さんの作品は、前にKiiiiiiiのライブを観るためNYを旅したとき、チェルシーのギャラリーで観たことがある。KiiiiiiiのLakin’(多田玲子)のドローイングに共通するセンスを感じる、ノートの切れ端などに描かれた絵が、広くて天井が高いギャラリースペースいっぱいに無造作に広がっていた。今回もそのときと同様の展示。繊細なのに暴力的。

9月×日
9月は連日多忙のため、観たかった和田誠さんの展示@gggを見逃してしまう。仕事を終えて夜、北村範史さんの展示第二弾「SCRAPS」を観に、事務所のすぐ近くのバーhanamiへ。店内の壁一面にこれまでにカラーインクで描いた作品のプリントアウトが飾られている。これまでの作品のベストアルバム的な展示。カラーインクはインクの特性上褪色が気になり、代わりにそれよりも長持ちするインクジェットで出力した作品を、グッズ感覚で販売することを思いついたのだそうだ。このやり方だったら、作品を各地に送って全国ツアーもできそう、みたいな話で盛り上がった。

 
10月×日
忙しい中風邪を引いてしまった。インフルエンザではなかったのが幸いか。急に肌寒い季節の変わり目、原宿のGAPで娘のスパッツを買ったあと、HBギャラリーでさかたしげゆき個展「子どものころ」。丁寧に描かれた風景画とキャラクターっぽい子どもの絵のミックスが新鮮。そのあとOPAギャラリーに移動して、年に一度の河村ふうこ&毛利みき展「私の部屋〜花を添えて」の初日へ。河村さんと毛利さんにご挨拶と、昨年の展示直後に生まれた娘の写真を見せて軽く自慢(申し訳ない)。河村さんの絵が少し大人っぽくなった。毛利さんのカモミールの絵が、香りが漂ってくるみたいに素敵だった。

娘の寒さ対策に青山のマクラーレンにベビーカー用の防寒具を買いに行く途中、急に尿意を催し公衆トイレを探したが見つからない。喫茶店と思って駆け込んだ場所が、たまたま秋山庄太郎写真芸術館という写真家の私設ギャラリーだった。我慢ができず結構な入場料金を払ってようやく思いを果たしたあと、せっかくなのでそのまま展示を隅々まで見ることに。「それぞれの四季~前田真三+前田晃+秋山庄太郎 風景三人展~」という内容で、秋山庄太郎と盟友の前田真三、その息子の前田晃の三人による風景写真を展示していた。恥ずかしながらここに来るまで、秋山庄太郎という写真家のことを全く存じ上げなかった。風景写真を撮る際に自分の存在を消し去るという前田真三氏と、風景を目にした瞬間の感動をも写真に封じ込めた秋山庄太郎氏の、二人の作風の対比が面白い(晃氏は父に近い)。どちらの写真が好きだったかと問われれば、間違いなく秋山さんの方だろう(「デザイン=器」的には、器の上に載る料理には存在感が充満しててほしい)。トイレに行く用事がなければ一生訪れることはなかっただろうけど、普段見ないタイプの写真をじっくり見ることができ、そこから多くのことを学べてうれしかった。

ほっとした気分で、帰りにギャラリー360°に立ち寄る。「ジャパニース・ポップ NOW」というタイトルで、日本のポップな画家(スージー甘金、伊藤桂司ほか)の作品を展示していた。逆柱いみりという漫画家が描く油彩作品の、奇妙な異国情緒とパノラマ感に釘付けになってしまった。作品そのものがほしいくらいだったが、販売されていたミニ画集「臍の緒街道」でがまん。
 
10月×日

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レコード会社でのミーティングのちょっと前に、原宿ソーン・ツリー ギャラリーのグループ展「bird watching」を覗く。グループ展とはいえあなどれない力作揃い。図録買ってくればよかった……。

──2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。

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