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KJ法とKA法の特性と使い分け

今回は、有名な定性分析2種の私なりに考える特性と使い分けの話をしたいと思います。

1.KJ法とは

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KJ法とは、文化人類学者の川喜田二郎氏がデータをまとめるために考案した手法です。集まった膨大なデータをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、図解し、文章にまとめていくもので、汎用的な分析・モデリング手法として使われています。オフラインでの分析では、付箋を使ってカードを作成します。

付箋に書くのは、1枚につき、ひとつのデータだけです。複数書いてしまうと、まとめていく最中に、それぞれが別のグループに所属していた場合、付箋が動かせなくなってしまいます。

ユーザーインタビューの分析の場合、この「ひとつのデータ」というのは、必ず、ひとつの行動と、そこに紐づくコンテキストや気持ちを1セットとして書きます。

実際に行動に移したかどうかは、かなり重要です。UXデザインはユーザーのインサイトを洞察して行います。例えば、ダイエットに関して調査をしていたとして、大事なのは「ダイエットをしようと思っている」ことより、「ダイエットをしようと思っているができない背景」や「してみたけど続かなかった理由」または「成功している背景」です。それらには、デザインのためのヒントがたくさん隠されています。

また、コンテキストや気持ちを一緒に書くのは、分析者が思い込みなどで勝手に推測してゴムのユーザーにしてしまわないための防止策です。

2.KJ法の特性

KJ法をやろうとして、よくあるのが、カードに書かれている内容を、そのまま分類しに行ってしまうケースです。「これは行動の範囲系だね」「これはお金系だね」というようにです。分類をしてしまうと、何に対して何の発話があったかはわかりますが、価値観の洞察が浅くなってしまいます。

KJ法は、分類法ではなく、発想法です。カテゴリは意識から追い出し、上がったすべてのものを俯瞰して見て、共通の価値観を探していきます。

共通の価値観を探す上で、その人だけの特性のデータは、グループにまとめずに弾かなければいけません。そのため、インタビューをAさん、Bさん、Cさんの3名に実施した場合、分析の際、付箋の色をAさんは黄色、Bさんは水色、Cさんは緑色、と言ったように人で色を揃えると、共通の価値観なのか、その人固有の特性なのかが判別しやすくなります。

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3.KA法とは

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KA法とは、紀文食品の浅田和実氏が、新商品開発のために開発した分析法です。調査データを分解・カード化・マップ化し、ユーザーの日常生活の行為に関する調査から、ユーザー行為の背景にある“価値”を導出します。

カード化・マップ化と聞くと、KJ法と同じように聞こえますし、実際、最後のマップ化では、KJ法を使いますが、この2つの手法は、カード化の仕方が大きく違います。このあたりで、けっこう好みが分かれるかなと思います。

KJ法は俯瞰しながらグループごとにまとめていきますので、カードに書かれている粒度は細かく、丸められていないデータです。定量分析で言う「ローデータ」の状態に近いです。

対してKA法は、ひとつのできごとに対して、初めに丸めにいき、できごとに対して価値が出たところで、価値でグループをまとめていきます。

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できごとという具体性の高いものから、いきなり価値という抽象度の高いものを導出するのは大変なので、一旦、心の声と言う、ユーザー視点でできごとを見るフェーズを挟んでラダーアップしていきます。

4.KJ法とKA法、どっちがかんたんか

KJ法とKA法、どっちの方がかんたんか、という議論をしたことがありますが、その人の思考の癖によって、かんたんと感じるのか、難しく感じるのかが分かれるのではないかと思います。先ほど、好みが分かれる、というお話をしたのはそのためです。

KJ法は、先にも述べた通り、“ひとつの行動と、そこに紐づくコンテキストや気持ちを1セットとしてカードを書く”ということさえ意識できれば、カード化はかんたんです。

ただし、KJ法で一番コツがいるのは、ローデータの状態から、一番最初の共通点を発想していくところです。膨大な情報量を一度に扱うことになるので、ひとつづつフォーカスを絞って考えていくタイプの人にとっては、とっつきづらいと感じるようです。

そのため、チームで分析を行う場合は、ファシリテーターの腕が重要になってきます。迷子にならないようにフォーカスを絞りつつ、発想が狭まらないように絞り過ぎにも注意しながら進めていきます。

逆に、KA法で一番コツがいるのは、カード化です。

できごとをユーザー目線の価値に置き換えなければいけません。この、一旦心の声にするフェーズに苦戦する方がけっこういます。小説を読んで、登場人物に感情移入をする行為に感覚が似ているので、文系の人は得意な方が多いかもしれません。ただ、以前、一緒にKA法で分析を行った仲間と議論をしてみたところ、人によって、この感情移入の濃淡が分かれるようで、心の声を書いたものの、なんかピンとこない、なんてこともあるようです。

カード化は個人作業ですし、ここを失敗すると、その後に影響が出てしまうので、慣れないメンバーで行う場合は、先に練習として何枚か書いてもらい、慣れているメンバーがチェックしてアドバイスを行うとハードルが少し下がります。

KA法は、ひとつのできごとに対して、順に抽象度を上げていくため、フォーカスを絞って考えることができるため、そういった思考タイプの方は、こちらの方がとっつきやすいです。

また、グループ化も、カードがすでに、価値という抽象度の高いところまで丸まっているところからスタートですので、やりやすいです。

5.KJ法とKA法の使い分け

KJ法とKA法の使い分けですが、オフラインの場合、分析に参加するメンバーが、カード化と発想からのグループ化、どちらが得意そうか(もしくは苦手そうか)の観点で使い分けると良いです。

どっちも苦手な場合は、ファシリテーターがハンドリングができるようであればKJ法、ハンドリングに自信がないようであれば、カードのチェックの時間を設けた上でKA法を使うのがやりやすいです。

ただ、オンラインでホワイトボードツールを使って分析を行う場合、KJ法は向いていません。実際にリサーチャー仲間でやってみましたが、KJ法の肝の部分の“俯瞰”が、モニターではできません。文字が見える範囲まで拡大すると、フレームアウトする付箋が大量に出るため、後で「この付箋、さっきの付箋と同じグループだ」と急いで戻ったり、付箋を移動してみたらグルーピングに違和感が出てそこのグループを解体することになったり、そんなこんなで、行ったり来たりしているうちにホワイトボード上で迷子になる人(私です)が出てきたりと効率がものすごく悪いです。

リモートで分析する際は、KA法、ないし、今回触れていない他の手法でフォーカスを絞って行えるものを選択した方が良さそうです。

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