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ファシリテーターは4つの人格を使い分ける

この記事は「ファシリテーター Advent Calendar 2022」の22日目の記事になります。

ファシリテーターという職業は複雑なものです。ある時には聴くことが大事でありながら、あるときには勇気ある介入が大事だったり、またあるときにはタイムマネジメントが意外と重要だったり、必要なことがめくるめく変わっていく職業だと感じています。

僕はこの複雑さを、「ファシリテーターは4つの人格を使い分けている」と考えることで捉えています。この記事では、その4つの人格を紹介します。

これが完璧なモデルだと言うつもりはありませんが(そんなものはない)、このモデルで考えることで、自分のファシリテーターとしてのタイプや成長可能性が分かりやすくなると思っています。

※筆者は普段インプロ(即興演劇)ワークショップのファシリテーターをしているため、ワークショップを例にあげることが多いですが、会議や組織のファシリテーターにも適用できます。

※「人格を使い分ける」というアイデアは、マイケルE.ガーバーが経営者の人格を「起業家」「職人」「マネジャー」の3つに分けて考えているところからインスパイアされています。

1. ビジョナリー(理想家)

ファシリテーターの第1の人格は、ビジョナリー(理想家)です。ビジョナリーは、ファシリテーションを通して「何をしたいか」「どういう場をつくりたいか」を描く人格です。

ビジョナリーが強いと、人はそこに惹きつけられます。ビジョナリーが弱いと、「なんのためにやっているのか分からないワークショップ」が生まれます。

ビジョナリーが弱くても他の3人格が強ければ、それだけで楽しい場をつくることは可能です。しかし、楽しい場とビジョンのある場は別物です(「楽しい場をつくる」がビジョンの場合は除く)。ファシリテーター、特にワークショップのファシリテーターは楽しい場をつくることに一生懸命になりがちですが、「それを通して何をしたいか」を忘れないことが大事です。

ビジョナリーを表すキーワードは「人生経験」「価値観」「望み」といったものです。ビジョナリーを育てるには、自分自身が様々なワークショップに参加したり、本を読んだり旅に出たり、他のファシリテーターと対話することが大事になります。

2. オブザーバー(観察者)

ファシリテーターの第2の人格は、オブザーバー(観察者)です。オブザーバーは、その場で起きていることを観察する人格です。なお、観察対象には参加者の様子といった「外」も、自分の身体や感情といった「中」も含まれます。

オブザーバーが強いと、参加者の好奇心や違和感に沿ったファシリテーションをすることができます。オブザーバーが弱いと、その場の流れではなく自分のプランでワークショップを進めがちになります。

オブザーバーの弱さは、もともとの性質による場合もあれば、不安による場合もあります。普段はとても観察力がある人でも、ファシリテーションの不安が強くなるとまわりが見えなくなることもよくあります。自分の観察力を過信しすぎず、ひとつひとつのワークショップを丁寧にふりかえっていくことが大事です。(僕はファシリテーターとして成長するにつれて、だんだんと自分の観察力を信用しなくなりました。)

オブザーバーを表すキーワードは「繊細さ」「優しさ」「リスペクト」といったものです。オブザーバーを育てるには、ワークショップのあとに他の人と観察内容をシェアするのがなにより効果的です。また、インプロや合気道など、「今ここ」への集中を高める習い事もいいでしょう。

3. プレイヤー(実行者)

ファシリテーターの第3の人格は、プレイヤー(実行者)です。プレイヤーは、その場に対して実際に介入する人格です。

プレイヤーが強いと、ワークショップをその場で変化させていくことができます。プレイヤーが弱いと、問題が分かっていてもアプローチできず、そのまま流してしまうことが起こります。

プレイヤーが強い人はどんどん前に出ていってしまうことがありますが、うまくいっているときには「何もしない」ことも重要です。ワークショップの主人公は参加者であることを忘れないようにしましょう。(オブザーバーはどれだけ強くても問題ありませんが、プレイヤーは強すぎても問題が発生します。)

ちなみに、プレイヤーは4人格の中で命名に一番迷いました。最終的にプレイヤーと名付けたのは、たとえどんなに深刻な状況でも介入にはいつも「遊び心」が必要になるからです。

プレイヤーを表すキーワードは「遊び心」「工夫」「勇気」といったものです。プレイヤーは引き出しの多さがものをいう人格でもあるので、プレイヤーを育てるには本や講座で具体的なテクニックを学ぶことも有効です。また、場数によるところも大きいです。

4. マネージャー(管理者)

ファシリテーターの第4の人格は、マネージャー(管理者)です。マネージャーは、ワークショップの進行のために空間や時間を管理する人格です。

マネージャーが強いと、ワークショップを安全に、時間通りに終わらせることができます。マネージャーが弱いと、準備不足によるトラブルが起きたり、ワークショップを時間通りに終わらせられなかったりします。

マネージャーは地味ながら、意外に重要な存在です。また、ワークショップの残り時間が足りないときには、自分の中でビジョナリーとマネージャーが会話をすることがあります。ビジョナリーは時間をオーバーしてもやりたがりますが、マネージャーはそれを諌めます。このときにどちらか「だけ」を取るのではなく、両方が握手できるポイントを探すことが重要です。

マネージャーを表すキーワードは「几帳面さ」「配慮」「計画性」といったものです。マネージャーの仕事は事前準備でほとんど決まります。マネージャーが弱い人は、事前にワークショップのプランを誰か(できればマネージャーが強い人)に見てもらうことで、だいぶ改善することができます。

4人格のマッピング

これらの4人格は、次のようにマッピングすることもできます。これにより、自分の立ち位置(タイプ)を知ることができます。

ファシリテーターの4人格マッピング

【縦軸】多くの場合、ビジョナリーとマネージャーでどちらかのタイプに分かれます。ファシリテーターによってはビジョナリーはとても強いけれど、マネージャーはてんでダメ、という人もいます。反対に、自分のビジョンはそんなにないけれど、仕事としてのファシリテーションをしっかり全うする職人タイプのファシリテーターもいます。

【横軸】オブザーバーとプレイヤーもどちらかのタイプに分かれることが多いです。オブザーバータイプの人は丁寧な観察は行うけれど、介入に躊躇しがちだったりします。反対に、プレイヤータイプの人は介入のためのいろいろなアイデアは思いつくけれど、その前の観察が不十分だったりします。

ちなみに、僕はビジョナリーとプレイヤーが強いタイプです。目指したいイメージがはっきりとあり、そのためのアイデアもたくさん思いつくタイプです。しかしそのために、参加者をふりまわしてしまう危険性もあるタイプだと自覚しています。また、マネージャーに関してはできることはできるのですが、あまり積極的にはやらないタイプです(ざっくりと決めてやりたい)。

僕はここらへん

完璧なファシリテーターは存在しない

4人格全てが完璧なファシリテーターは存在しません(そもそもこのモデルが完璧でもない)。人格の偏りが個性でもあります。このマッピングは目的地を示すものではありません。現在地を知り、どこに行きたいかは自分で決めるものです。

強みを知った上で弱みをカバーしていくという選択肢もあれば、弱みを知った上でもっと自分の強みを活かすという選択肢もあるでしょう。

みなさんはどのタイプになりますか?そしてどこに向かっていきたいですか?このモデルが自分を知り、これからを考えるきっかけになれば幸いです。では!

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