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歩道橋から「お疲れ様」を【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から29】

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 都営浅草線西馬込駅の南口を出て第二京浜国道をしばらく南下すると歩道橋への階段が見えてくる。歩道橋に上ると、眼下には道路、ではなく線路、線路、線路……鉄道好きにはたまらない光景が広がっている。ここは馬込車両検修所。都営浅草線の車両基地である。ある冬の日の早朝、散歩を兼ねて、この歩道橋を訪れてみた。
 なぜ冬の日の早朝にこの場所を訪れてみようかと思ったのかというと、とある日の出愛好家の方のブログ記事で紹介されていたからである。鉄道、切手、骨董、アニメ……世の中にはさまざまな愛好家がいるが、日の出に特化した愛好家という存在を私は初めて知った。そして、その方の撮る写真が何とも味わい深かったのである。
 凍てつくような寒さの中、歩道橋に上る。太陽はまだ出ていない。そして私はあることに気がついた。鉄道施設の朝は早く、冬の朝は遅く、始発からすでに何本もの電車が駅へと送りこまれ、ブログで見た車両基地の光景とは異なっていた。そうなのだ。車両基地にびっしりと電車が眠る光景を日の出とともに見るのなら、冬よりも日の出の早い夏の方が適しているのだった。そういうわけで、太陽が現れる時刻にはすでに多くの車両が出庫し、広大な車両基地の主役は電車ではなくレールとなっていた。
 歩道橋の上で日の出を今か今かと待っていた私は自らの誤算に苦笑しつつも気を取り直し、太陽が出るであろう方角とは逆側を向いてみた。そこには普段見かけることのないストロベリーレッドの事業用機関車E5000形が留置されていた。
 E5000形は浅草線ではなく大江戸線を牽引するための電気機関車である。大江戸線車両の法定検査(全般・重要部検査)は馬込車両検修所で行うことになっており、浅草線とは駆動方式が異なり車両がコンパクトである大江戸線には、この電気機関車による牽引が必要不可欠となっているそうである。
 冬の朝は遅い。歩道橋にたたずむ私が太陽の光を浴びる頃には、多くの車両が出払っていた。代わりに、普段運行される姿を目にする機会は滅多にないE5000形が堂々と鎮座していた。左後方の馬込総合庁舎の建物に遮られた日の出の光はE5000形には当たらず、遠方の線路を照らしていた。私は縁の下の力持ちに、「お疲れ様」とつぶやいた。

都政新報 2022年2月1日付 都政新報社の許可を得て掲載
【参考資料】
・大江戸線建設物語―地下鉄のつくり方 計画から開業まで 監修:東京都交通局 編集:大江戸線建設物語編纂委員会 (2015)
都営浅草線・馬込車両検修場で使用する車両について(浅草線車両の更新と電気機関車の活用) 東京TECHブログ(東京都技術会議)