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都営浅草線・馬込車両検修場で使用する車両について(浅草線車両の更新と電気機関車の活用)

1. 都営浅草線と馬込車両検修場

 都営浅草線は1960年(昭和35年)12月に、地下鉄と郊外私鉄との相互直通運転を行う日本初の路線として開業し、2020年(令和2年)には開業60周年を迎えました。
 羽田空港と成田空港の両空港を繋ぐ、空港アクセス路線の一部となっており、沿線に浅草や銀座などもあるため、コロナ禍による乗客者数の一時的な減少はあるものの、訪日外国人を含めた観光や、通勤、通学など、多種多様な目的で多くのお客様に利用されています。
 この浅草線で使用する車両の車両基地が馬込車両検修場です。馬込車両検修場は、車両の留置、点検及び軽微な検査を実施する「検車場」と主要な検査及び車両改修を実施する「車両工場」から構成されています。
 今回は、都営浅草線と馬込車両検修場で使用している「車両」についてご紹介します。

2. 浅草線車両の更新

 交通局では、開業60周年という節目と東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催にあたり、「Tokyoと世界を結ぶ地下鉄」をコンセプトに、浅草線の古き良き伝統を守りつつ現代的な地下鉄に生まれ変わらせる「浅草線リニューアル・プロジェクト」を立ち上げました。その一環として、現在、既存の5300形車両を新型の5500形車両に更新しており、2021年度(令和3年度)までに全27編成の更新が完了する予定です。この新型車両の主な特長は以下のとおりとなっています。


(1)車両デザイン
 外観デザインについては、国際的にも日本の伝統文化として認知されている歌舞伎の隈取をモチーフにしたデザインを採用し、空港アクセス路線を担う車両としてスピード感を感じさせるものに仕上げました。

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 車内については、訪日旅行客や一般利用の方を含め、日本らしさを感じながら落ち着いてご利用いただけるよう、座席柄に江戸小紋を複数まとめた寄せ小紋や、袖仕切りのガラス窓に江戸切子の七宝紋を模した柄を採用するなどし、和のテイストを感じさせるインテリアデザインとし、また沿線由来のイラストを遮光カーテンなどに使用し、遊び心のあるものとしています。

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(2)動力装置・空制装置
 動力装置では、主電動機を従来の自己通風式から全閉自冷式に変更することで、外気取入れに伴う吸気カバー及び内部の清掃が不要となり、メンテナンス性を向上させています。また、VVVFインバータは主回路素子自体に低損失高温動作可能なSiC(炭化ケイ素)を採用することで性能と効率の向上を図っています。
 ブレーキ等に使用する圧縮空気を作るコンプレッサは、摺動部分に特別な表面加工を施すことでオイルフリー化を実現し、オイル交換等のメンテナンスが不要となり、廃油の削減による環境負荷の低減にも貢献しています。

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(3)戸閉装置
 お客様が乗降する扉を開閉する戸閉装置は、動力を空気式から電気式(ブラシレスモータによるラックアンドピニオン方式)に変更しました。従来の空気式では、戸閉力が常時500N(約50kgf)で一定であり、お客様の体の一部や持ち物が挟まれた場合、人の力で引き抜くことは困難でした。しかし、今回の電気式では常時戸閉力・スピードを調整しており、扉の位置情報による戸ばさみ検知時に戸閉力を弱める制御や、閉扉でロックした後も車両が走り出す (5km/h未満)までは戸閉力を100N(約10kgf)とする制御を行うことで、戸ばさみが発生した場合でも、人の力で引き抜きやすくなっており、安全性が向上しています。

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(4)列車情報管理制御システム
 車両には様々な機械が搭載されていますが、安全かつ安定した運行をする上で重要となるのが、各機器の情報を収集、演算、伝達する列車情報管理制御システムです。
 今回導入したシステムでは、車両間の情報伝送速度が10Mbpsから100Mbpsへ大幅に向上しています。この結果、伝送速度の制約から各車両の端末装置で実施していた演算を列車ごとに1つの中央ユニットで実施して伝送することが可能となり、各車両の端末装置が不要となりました。
 回線は、運転制御系、機器状態監視系、案内情報系の3種類に分かれており、特に走行安全性に関わる運転制御系については、二重回線としています。また、将来的に車両外とリアルタイムで各種情報を送受信する可能性も考慮して、拡張可能なシステムとしています。
 運転中に乗務員が確認する表示画面は3画面構成で、相互にバックアップすることにより、表示機能にも冗長性を持たせています。

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(5)省エネルギー化
 列車を動かすモーターへのVVVFインバータ制御の採用や電力回生システム(ブレーキ時にモーターを発電機として動作させることで、列車の持っている走行エネルギーを電力に変換するシステム)の採用により、電力の効率的な活用に取り組んでいます。
 また、照明については、客室内照明は元より、前照灯などの外部照明を含めた全てでLEDを採用しています。

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―――浅草線車両は行くよ、どこまでも?―――
 都営浅草線の区間は西馬込駅~押上駅ですが、京成電鉄(株)、京浜急行電鉄(株)、北総鉄道(株)、芝山鉄道(株)と相互直通運転をしているため、浅草線の車両は、各社の車両に交じって、東は成田空港駅から南は三浦半島の三崎口駅まで行くことがあります。沿線にお住まいの方は機会があればぜひ乗車してみてください。

3. 馬込車両検修場に電気機関車がある理由とは?

 馬込車両検修場は、浅草線の車両基地であり、浅草線西馬込駅と線路でつながっています。そのため、浅草線の列車は自走して馬込車両検修場に出入りしています。
 ところが、馬込車両検修場には、自走できない列車をけん引する電気機関車が存在します。なぜそんなものがあるのでしょうか?その理由は、大江戸線にあります。

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(1)大江戸線の車両工場は馬込車両検修場
 都営地下鉄には、浅草線以外に三田線、新宿線、大江戸線の3路線があります。このうち、最も新しい路線が大江戸線です(平成12年に全線開通)。都市が発達した後にその地下に鉄道を作るのは大変なことで、この大江戸線建設にあたり、課題の一つとなったのが、「車両工場をどうするか?」でした。
 車両改修等の作業を行う車両工場は、東京都建築安全条例により地下への建設が認められていません。しかし、大江戸線の車両基地となる木場車両検修場(木場車庫及び高松車庫)は、立地の関係から地下に建設せざるを得なかったため、別途車両工場を設けなければなりませんでした。
 この課題を解決するため、様々な検討を行った結果、決定した方針が、「大江戸線の車両は、軌間(レールの幅)が共通である浅草線の馬込車両検修場の車両工場まで回送して、整備を行う」というものでした。


(2)大江戸線車両を馬込車両検修場に運ぶには
 大江戸線車両を馬込車両検修場に回送するには、浅草線の線路を経由する必要があります。線路をつなぐために浅草線新橋駅と大江戸線汐留駅を結ぶ連絡線(汐留連絡線)を建設することになりましたが、もう1つ課題がありました。それは、大江戸線の列車が浅草線内では自走できないということです。自走できない原因は大きく2つあり、詳細な説明は割愛しますが、1つは電気の給電を受ける架線の構造や高さが異なること。もう1つは、車両を走行させるモーターの形式が異なることでした。
 そこで、浅草線内で自走できない大江戸線列車をけん引する車両が必要となり、馬込車両検修場に電気機関車が導入されました。大江戸線車両を回送する手順は、まず、電気機関車が馬込車両検修場から汐留連絡線を通って大江戸線の汐留駅まで行きます。そこで大江戸線の列車を連結し、再び汐留連絡線を通って馬込車両検修場まで回送するという形です。戻すときはこの逆の手順で行っています。

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(3)電気機関車の運用状況
 平成18年の運用開始以来、電気機関車は現在も現役として運用されています。汐留連絡線を使った大江戸線車両の馬込車両検修場への回送は、終電間際に不定期に実施しているので、運のよい(?)方は、珍しい編成で運行している回送列車を目撃することができるかもしれません。

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