見出し画像

都バス運転手、献血バスを取材する。

画像1

【おことわり】内容は掲載当時(2013年4月)のものです。なお、文中の東京都赤十字血液センターは新宿区に移転しており、現在日本赤十字社辰巳ビル内には関東甲信越ブロック血液センターが入居している模様です。 

 駒込駅と秋葉原駅とを結ぶ路線、茶51系統に乗務していると、赤十字マークのついた移動採血車、いわゆる献血バスとすれ違うことがある。都内に6カ所ある献血バスの拠点の一つ、東京都北赤十字血液センターが、駒込駅からほど近い場所にあるためである。私事ながら、気軽にできるボランティアという認識で、16歳の時から献血を続けてきた。手元の献血カードに印字された献血回数は357回。路線バスの運転手であり「献血マニア」でもある私は、献血バスについて、一度詳しく調べてみたいと思っていた。
 訪れたのは、偶然にも交通局深川自動車営業所から直線距離で1kmほどの場所にある、東京都赤十字血液センター。都内の献血ルームや献血バスにて「献血ご協力者」(以下「献血者」)から採血された血液を検査し、さらに輸血用血液製剤を製造する役割をも担う、大規模な施設である。また、駒込と同じく、献血バスや献血運搬車(医療機関からの血液の突発的な需要に対応するための緊急自動車)の出動拠点の一つともなっている。
 事務部企画課・献血推進一部推進課の職員に話をうかがった。1961年、日本赤十字社輸血研究所に配備された移動採血車が、公式には日本初の献血バスとされており、運行初日の配車場所は、何と東京都庁と厚生省(当時)だという。東京オリンピックを3年後に控え、坂本九の『上を向いて歩こう』が大ヒットした年に、我々の大先輩が、生まれて初めて見る献血バスで緊張しながら献血に臨んだのである。都内での年間献血者数は約58万人(2011年度)で、これは子供からお年寄りを含めた都営バスの一日あたりの乗客数約55万人(同年度)を上回る。その内訳は献血ルームが7割、献血バスが2割、残りの1割は企業の従業員などを対象にした出張献血だという。移動施設である献血バスでの献血者が全体の2割を占めるという「奮闘ぶり」は、特筆に値すべきではなかろうか。
 人の流れやイベントの集客数を勘案しつつ年間の運行計画を立て、配車場所まで運転し、現地では的確な誘導のもと、時には狭隘な場所にも駐車する。献血バスには献血課の事務スタッフ3人が乗り、他に4人の看護師と1人の医師が加わり、採血業務に当たる。事務スタッフは分担して作業を行ない、運転のみという担当はない。日々様々な場所に赴き、スタッフの顔ぶれも同一とは限らない。少数精鋭チームとしての高度な連携力と臨機応変な対応が求められる。献血者の視点に立ち、心のこもったおもてなしをするために、外部講師を招いて適宜マナー研修も受講するそうで、このあたりは都営バスと同じだ。
 素朴な疑問をぶつけてみた。「路線バスに乗務していると、バスの撮影や乗車に熱意をそそぐファン、いわゆるマニアの方に遭遇する機会がありますが、献血バスにも一定数のマニアは存在するのでしょうか?」
 返ってきた答えは意外なものだった。「献血バスマニアの存在は聞いたことがないですし、バス自体の取材もほとんどありません」聞くと、献血バスの仕様は、車内のベッド数が4床か5床かという違いを除き、全国的に統一されているとのこと。なるほど、同じ車両ならマニアはつきにくい。だが、このことは医療機器としての高度な安全性の担保となる。もし仮に、「都内で唯一、昭和時代のレトロな献血バス」という触れ込みで車両を残したとしても、献血者の増加につながることはないだろう。
 最後、職員のお2人に、献血バスのPRをお願いした。「血液は人工的に作ることができず、長期の保存もできません。一方冬場から春先にかけては体調を崩す方が多く、献血者が減少します。血液の安定供給のため、ルーム、バスに限らず、皆様のご協力をお願いします」とのこと。体質的な問題などで献血ができない方は、この記事を身近な方に広めていただき、体調に問題のない方は、少しの勇気をわけて下さい。

都政新報 2013年4月2日付 都政新報社の許可を得て掲載
【取材協力】東京都赤十字血液センター 事務部企画課・献血推進一部推進課