ROTH BART BARONが考えるファンとの距離感|ユートニックな人々
「ユートニック」は、デジタルコンテンツを販売するストアや、ファンコミュニティを無料で作成できるサービス。さまざまなアーティストがこのユートニックを活用して、自分たちの活動に繋げています。そうした方々を紹介する連載が、この「ユートニックな人々」です。
第一回のゲストは、ROTH BART BARONの三船雅也さん。それまでもFacebookのコミュニティ機能を活用していた三船さんが、ユートニックを使うようになったのは2020年のこと。すでにコミュニティが存在するにも関わらず、どうして新たなコミュニティを立ち上げようと考えたのでしょうか。三船さんに尋ねます。
ROTH BART BARON
シンガーソングライターの三船雅也が2008年に結成した日本のインディーフォークバンド。2014年7月にアルバム『ROTH BART BARON'S The Ice Age』でデビュー。2020年には『極彩色の祝祭』を発表し、Apple Vinegar Music Awardでは大賞を受賞した。これまでに3枚のEPと5枚のフルアルバムを発表している。
ファンともっと対等な立場で
——三船さんは以前から「PALACE」というファンコミュニティをFacebookで運営していますよね。なぜ「PALACE Premium」という新たなコミュニティを立ち上げようと考えたのでしょうか?
僕が「PALACE」を立ち上げた2018年頃って、コミュニティを運営できるサービスがいくつか出てきたタイミングだったんですけど、月額制にしてしまうと情報を出す側と受け取る側でトップダウンの関係になってしまう気がしたんですね。
そうではなく、もっと対等な立場でROTH BART BARONの活動を応援してくれる人との接点をつくりたくて。Facebookグループは無料で使えて、しかも自分たちの労力を吸い取られることがないから、まずは使ってみようと。それで2年くらいやってきて、ある程度の手応えみたいなものは感じていたんです。あの場があったからこそ生まれたライブの演出とかグッズもあったし。
ただ、もっと深い関係になることを望むと別の場所が必要で。それでつくったのが「PALACE Premium」でした。
——バーチャル上に三船さんの楽曲制作の裏側を見せる場をつくった感覚なのでしょうか?
というより、秘密を共有する場所に近いかもしれません。
——秘密の共有?
「PALACE」は、部屋で例えると大広間みたいなもので誰でも入れるんですよ。しかも、イベントをどうするとか、グッズをどうするとか、目的があったうえでコミュニケーションが成立していたので、話し合う場としては最適でした。
一方の「PALACE Premium」は、もっとグッと近づいた距離感の人じゃないと入れないというか。プライベートの部屋に近い感覚です。
自分でもまだわからないクエスチョンを提示していくこともあるだろうし、もしかしたら普段は見せない一面をさらけ出すこともあるかもしれない。お互いにある程度の覚悟が必要になってくるんですよ。
——人によってはアーティストのかっこいい部分だけを見たいという人もいますもんね。
だから、いちばん奥に場所を用意した感覚でいます。
裏側を見せることで深まる物語
——「PALACE Premium」では、デモテープをはじめ、完成前の音源も公開していますよね。これはどういった意図があるのでしょうか?
特にコロナ禍になってから潮目が変わったというか、生活に目を向ける機会が増えましたよね。それによって、何にお金を使うのか、何を食べるのか、みたいな“選択”についていままで以上に考えるようになった気がします。僕自身、どうやってつくられているのかわからないものは食べたくないですし。
音楽もそれと同じで、完成した音源を聴くだけではなく、どんな人がどんな工程でつくっているのかを知りたい人もいると思って。そういう人に対して、ネイキッドな部分を見せるのは自然なんじゃないかなと考えたんですよね。
それに自分としても、楽曲がリリースされるまでの過程が共有された状態でファンとコミュニケーションが取れるのはすごくよくて。世に放たれたときの祝祭感みたいなものが全然違うので。
——1曲に詰まっている物語が密になる感覚があります。
そうですね。1曲が流れている時間は数分にしか満たないけれど、その1曲を完成させるまでに膨大な情報と時間と物語を詰めたということを知ってもらう機会になるし、ROTH BART BARONというバンドにもっと寄り添うきっかけになる気がしています。しかも、それをアプリで実現できるのがいいじゃないですか。なんか魔法みたい。何度かタップするだけで発動できるわけですから。
——そうやって1曲に込められた想いや物語を、デモ音源や三船さんの言葉などを通じて多角的に知ることもできるし、それまで気づかなかったことに意識を向けるきっかけにもなりますよね。楽曲が蒸留されていくイメージがあります。それによってファンの反応も変わってきているのでしょうか?
過ごす時間の濃度が変わりますよね。ライブにしても2時間なり3時間なりという時間をどこまで最大化して忘れられない体験にしていくかは常に考えているので、共有できるものが増えていくと関係性に変化は表れる気がします。
2020年の12月にめぐろパーシモンホールでライブをやったんですけど、そのときは「PALACE」に参加しているメンバーにホールスタッフとして参加してもらったんですよ。お客さんの誘導とかグッズの販売とかを手伝ってもらって。そうすると、ただのお客さんじゃなくなるわけですよ。
——会話の質が変わりますよね。ライブを見るだけだと、あの曲よかったね、この曲よかったねで終わるかもしれなけど、運営側として参加すると物販の動線はもっとこうした方がよかったとかっていう視点で考えることもあるでしょうし。
今回はチケットをデジタルで販売していて、しかも当日に配信したライブ映像を観れるようにしているんです。だから、もしかしたらファミレスとかで反省会をしているかもしれないですよね(笑)。
ただ、そういう世界観は僕の理想ではあります。レッドツェッペリンのロイヤル・アルバート・ホール公演の映像を観ていても、観客との距離感がすごく近いんですよね。アーティストと観客を隔てる柵がなくて、手を伸ばしたらケーブルに手が届くくらいの場所で演奏をしているんです。それってお互いの信頼関係が成り立っていないとできないことじゃないですか。だから、少しでも僕たちとお客さんの垣根を融和していければいいなと思います。
傍観者の時代はもう終わり
——今の話を聞いて、過去の三船さんのインタビューで、「フォークには“人々の”という意味がある」とおっしゃっていたのを思い出しました。まさにフォークロックバンドであることを体現しているなと。その中心にユートニックがある気がしました。
円がどんどん広がっていくイメージですよね。これがピラミッド構造だと上に行くほど偉くなってしまうんですけど、円を螺旋として捉えると、中心に向かうほど関係は深まっていくから。
——その時々で深く入り込んでもいいし、遠目から眺めていてもいい。その選択ができるのもいいですよね。
ただ、傍観者の時代はもう終わっていると僕は思っていて。というのも、今の時代って腕組んで眺めているときの方が長い気がして。いまだって、読者はパソコンとかスマホを眺めながら記事を読んでいるわけじゃないですか。本気で夢中になれるものがあるなら、とにかく深く入り込んだ方が人生は楽しいと思うんですよ。その対象がROTH BART BARONだったとしたときに、いつでも参加できる入り口を用意しておきたいなと考えています。
——だからこそ柵を作りたくないと。
そうですね。入るのも自由だし、出るのも自由。そういう環境をつくっていきたいと考えています。
もっと深く、濃く、繋がりたい
——今後ユートニックを使って実現したいことはありますか?
言葉と映像と写真はすでにやってるから、手軽にビデオ配信とかできると楽しいかもしれないですね。YouTubeでもいんだろうけど、どうせならユートニックに利益が還元できる仕組みの方がヘルシーだし(笑)。
あとは、もっと深く繋がれるといいなと思います。もっと自分の手足のように感覚的にアプリを使いたいですね。たとえば、この景色を残しておきたいと思った瞬間に動画とか写真が撮れるとか。それで即座にファンと共有できたらすごくいいじゃないですか。そういう進化を期待しています。
ただ、それはもう少し先の話にもなりそうなので、いまは自分の秘密をみんなと共有していく場として、楽しんでいきたいですね。
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