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自作GPT:公的債務分析ツール(全世界)

2023年11月6日のOpenAI DevDayでベータ版が紹介された「My GPTs」を早速作ってみました。各国の公的債務を分析するためのGPT(Public Debt Analyst 1.0)[1]です。 まだ荒削りですが、分析の叩き台として使うにはありなのかなと思っています。私の理解では、現段階ではChatGPTプラス会員のみアクセス可能になっているかと思いますが、分析ツールに興味ある方用にエクセルベースの公的債務分析ツールも添付します。

モチベーション

·      近年、パンデミックの影響を軽減するために公的債務が大幅に増加しており、深刻な財政ストレスに苦しんでいる国もあります。
·      政策立案者は、自国がどの程度の公的債務を抱えることができるのか、あるいは債務の持続可能性を確保しつつ財政的な余力や余裕がどの程度あるのか、疑問に思うかもしれません。公的債務の限度額としてGDPの60~70%がよく使われますが、これは必ずしもその国固有の債務負担能力を反映しているわけではありません。より大きな債務を負担できる国もあれば、そうでない国もあります。
·      投資家にとっては、債務不履行リスクだけでなく、為替リスクの評価も含めて、その国に投資するリスクを知ることも重要です(債務リスクは現地通貨の下落圧力)。格付会社はすでにこれらのリスクを分析していますが、このGPTは公的債務について、より直感的な説明を図とともに提供します。

Public Debt Analyst 1.0の紹介

GPT(名前:Public Debt Analyst 1.0)へのアクセス

以下のリンクからアクセス可能です。現段階ではGPT plus会員のみアクセス可能かと思われますが、注記のところにエクセルの分析ツールも添付してありますので、ご興味ある方はダウンロードしてみてください。

GPTへのリンク:
https://chat.openai.com/g/g-ku1xzCxP5-public-debt-analyst-1-0

専門分野

このGPTは、主に以下に関する質問に答えるためにデザインされています:
·      公的債務残高の評価
·      公的債務持続性分析
·      財政余地:債務持続性を損なうことなく、望ましい目的のために資源を提供することを可能にする政府の予算余地。

質問例はConversation Startersに4つほど用意しています。英語ですが、日本語で会話可能です。

与えた指示

GPTに与えた基本的な指示は以下の通りです:
1. 指定された国の公的債務残高(% of GDP)の実績及び予測値(IMF)を、すでに推定された債務残高限度(閾値を超えるとデフォルトの可能性が大きく上昇)と債務残高のアンカー(限度額から必要なバッファーを引いたもので債務残高との差が財政余地となる)とともに可視化する(詳細は付録を参照)。
2. チャートについて説明。
3. 分析の完全性を期すため、最新の IMF IV レポート等に触れながら、その国の現在の経済・財政状況について説明。

注記とエクセルベースのツール

·      いくつかの国でテストしてみましたが、ほとんどの国では問題なく動作していますが、たまに指定国ではない他の国と間違えてしまうことがあります。その場合、国名ではなく、ISO-3コード(日本で言えば、JPN)でもう一度質問するとうまく動いてくれる場合があります。
·      このGPTとのチャットは非公開です。こちらから見に行くことは不可能です。
·      GPTについては、ChatGPTプラス会員のみアクセス可能と思われます。各国の推定債務上限・アンカーに興味のある方は、こちらからエクセルベースのツールをダウンロードできます。

ケーススタディー

テストで以下の国の債務持続性分析をお願いした時の回答の要約です。グラフは上記のエクセルで自動生成されるものですが(DashboardタブのC4セルで関心のある国を選択)、GPTも債務に関する質問をすれば下記のようなグラフを表示してくれます(くれるはずです)。

公的債務(% of GDP)の遷移(日本), IMF WEO October 2023, and the author's calculation

·      日本:公的債務(約250%)は推定債務上限(Debt limit:約350%)を大きく下回っており、高水準の債務にもかかわらず、日本にはまだ財政的余裕があることを示している。IMFは、今後5年間は公的債務があまり増加しないと予想している。日本は持続可能な道を歩んでいるが、より長期的には、IMFのIV条協議レポートでも言及されている財政再建を実施することで、債務負担を軽減する努力をすることが奨励される。
*債務限度額と債務アンカーは、Advanced Economies(AEs)の方が他の国よりもショックに強く、変動が小さい(つまりバッファーの必要量が少ない)と、ここでは仮定しているため、AEsでは同レベルとしている。

公的債務(% of GDP)の遷移(ザンビア), IMF WEO October 2023, and the author's calculation

·      ザンビア:公的債務は推定債務限度(Debt imit)とアンカー(Debt anchor)を大幅に超えている。ザンビアは2020年に債務不履行に陥った。とはいえ、IMFの介入後、ザンビアの債務の持続可能性は改善しつつある。IMFの拡大信用ファシリティの下での好調な実績と、大幅な改革努力に支えられている。債務処理に関する公式債権者委員会との合意は、長期的な債務持続可能性に向けた重要な一歩。

推定結果に関する留意点

·      除外エラーと包含エラー: 債務上限・アンカーの超過によるシグナルは、例えば深刻な財政ストレスを経験しているアルゼンチンを捕捉しておらず(exclusion error:除外エラー)、また、その逆もまた然り。試算ではインドは財政的に深刻なストレスを受けているとみなされているが、実際には経済はそこまで傷んではいない(inclusion error:包含エラー)。
·      この問題に取り組むため、GPTには、IMF IV報告書などの他の資料も活用しながら、叙述的なアプローチも併せて取るよう促しています。

付録:債務残高上限及びアンカーの推定方法

国別の債務限度、アンカーを導出するために、最近発表されたIMFのワーキングペーパー(Comelli et al., 2023)の推定方法を参照しました。このペーパーでは、サブサハラのみの推定になっていますが、ここでは、サンプルを世界の全ての国(IMF WEO Oct 2023のデータがある国)に広げています。基本的なステップは以下:

1.     債務限度のキャリブレーション

·      債務償還に係る指標について、それを超えると財政ストレスが発生する可能性が高いと思われる最大閾値を求めるため、回帰を行う。
·      上記の回帰から、歳入に対する利払いの比率に焦点を当て、16~19%の閾値を超える比率は、財政ストレスの高いリスクを強固に予測することが示される。
·      上記の利払い/歳入比率の19%を使用し、その閾値を超える債務残高を債務限度(Debt limit)とする。

2.     安全バッファーの調整

·      債務上限をめぐる安全バッファーは、過去のマクロ経済と財政のボラティリティを考慮して調整される。
·      各国は、財政赤字の対GDP比の過去のボラティリティに基づいて3つに分類され、その分類に基づいてGDPの10~30%の範囲のバッファが各国の債務限度額に適用される。例)ボラティリティの大きい資源国や島嶼国は30%のバッファーに分類される可能性が高い。

3.     債務アンカーの計算

·      債務アンカーは、債務限度額から安全バッファーを差し引いた額として計算される。
·      ある国の推定債務上限がGDPの80%で、GDPの20%のバッファーを持つ場合、債務アンカーはGDP比60%になる: 80%-20%=60%

まとめ

·      各国の公的債務を分析するための GPT ベースのシステム、Public Debt Analysis 1.0 ツールを紹介しました。
·     タスクとしては、 公的債務の実績値、予測値(出典:IMF)に併せて推定債務限度、アンカー(アンカーと債務残高の差が財政余地を指す)を視覚化し、図表を説明。
·      推定債務残高上限やアンカ-が不完全な部分は、IMF IV条協議レポート等を参照し、可能な限り包括的な債務分析を行います。



[1] このPublic Debt Analyst 1.0と分析ツールで使用される公的債務に関する推定結果は、情報提供のみを目的としたものであり、公表されているソースからのものではありません(推定方法は公開論文を参照)。あくまで各自のご判断でご利用ください。

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