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資金調達方法による公共投資の効果をシミュレーション(DSGEモデル)

本稿では、公共投資の資金調達の違いによって、経済的帰結がどのように異なるかをDSGE(Dynamic Stochastic General Equilibrium)モデルを用いて検証する。

モチベーション

現在のマクロ経済政策分析において広く用いられているDSGEモデルを使用し、公共投資の資金調達の方法(増税、国内借入、対外借入)が、どのようにマクロ経済に影響を与えるかを調べる。マクロ動学モデルを使わなくとも、構造VAR等で公共投資ショックの効果を試みようとする研究も多いが 、多くの変数を一遍に扱う複雑なモデルを検証することは難しい。本稿ではIMFが開発したDIGNAR(Debt Investment Growth and Natural Resources Model)モデルを用いて、異なる資金調達方法による公共投資の効果について考えたい。

シナリオ

各シナリオは公共投資を5%増加させるモデルであるが、資金調達方法は大きく異なる。以下、各シナリオについて説明する:

・シナリオ1:資金調達は25%が外部資金で、残りは国内調達。
・シナリオ2:公共投資資金の一部は消費税導入により賄われ、消費税は0%から5%に引き上げられる。残りの資金需要のうち、25%を外部借入で、75%を国内資金で賄う。
・シナリオ3:資金調達は対外調達と国内調達が均等で、それぞれ50%を占める。
・シナリオ4:このシナリオでは、消費税を0%から5%に引き上げる。追加的な資金需要については、半分を外部調達、残り半分を国内調達とする均等配分となる。同時に、公共投資の効率性を50%から75%に引き上げる。

これらのシナリオは、公共投資の資金調達戦略の違いから生じるさまざまな経済的結果を明らかにするためのものである。

結果

IMF DIGNARモデルを使用し、筆者作成(基本パラメータはExampleママ)

上のグラフは、DSGEモデルを用いて分析した、公共投資を5%増加させた場合の資金調達シナリオの違いによる様々な経済指標を表した一連のグラフである。それぞれのグラフからシナリオに基づく、いくつかのポイントは以下。:

  1. GDP成長率:増税を伴うシナリオ(2と4)では、当初、増税の減衰効果に起因すると思われる成長率の落ち込みが見られた。シナリオ4は、投資効率の改善により、より早く回復する。

  2. 民間消費: 増税を伴うシナリオ(2と4)では、最初の落ち込みがより顕著であり、増税がGDPに占める民間消費を減少させることを示唆している。下記にある民間投資が減る場合、中間投入される財やサービスの消費も減るため、民間消費にも負の影響が出る。

  3. 民間投資: すべてのシナリオで、民間投資の落ち込みが観察されるが、国内資金への依存度が高いシナリオ(シナリオ1)で、民間投資の落ち込みが最も激しく、シナリオ3を上回る。このパターンは、公共投資の増加が国内借入で賄われる場合、民間投資に対してより強いクラウディング・アウト効果を及ぼすことを示している。この効果は、資金調達が対外的なものでなく、主に国内的なものである場合に特に顕著であり、国内的な資金調達が経済内で利用可能な資金をめぐる逼迫した競争につながり、それによって民間投資がより大きな影響を受ける可能性があることを示唆している。

  4. 公的債務残高の対GDP比: この増加は、消費税増税のないシナリオ(シナリオ1、3)で顕著である。これらのシナリオでは、対GDP比での公的債務の増加が急であり、追加的な税収を伴わない国内財源による資金調達が公的債務の増加をより顕著にすることを示唆している。逆に、消費税が引き上げられるシナリオ2と4では、債務の勾配はそれほど急ではない。これは、追加的な税収が公共投資の財源となり、債務の増加が緩和されるため。特にシナリオ4では債務の増加が最も少なく、これは税収増と公共投資の効率化が組み合わさったためである。

上記の通り、公共投資の資金調達方法が経済指標に大きく影響する。増税を利用したシナリオでは、当初は経済が縮小するが、長期的な公共投資効率の改善を伴う場合、経済的な恩恵は大きい。対外的な資金調達は、国内借入に比べクラウディングアウトの効果が少ないが、積み重なる対外債務は対外脆弱性を強めることを意味し、注意が必要である。

補論

リカードの主張
リカード的な見方では、借入も一括税制も変わらない。つまり、政府が減税しようが借金しようが、経済的帰結は同じである。なぜなら、人々は将来、税負担が増えることを予期しており、この2つのシナリオの間で行動を変えることはないからである。
しかし、一括税(生産活動を歪めない、生産後の一定額の徴税)は存在しない。そうなると、デット・ファイナンスの経済的影響は、分析に見られるように、税金の種類によって結果は異なる。

モデルにおけるアウトプット・ギャップの不在
このモデルは長期的視点での分析をメインにしているため、RBC(Real Business Cycle)モデルがベースになっている。RBCモデルは本質的にサプライサイド志向であり、経済への実質的ショックが経済変数にどのような影響を与えるかに焦点を当てる。RBCのパラダイムでは、他のモデルでは実際の生産高と潜在的生産高の差を指すアウトプット・ギャップという概念は適用されない。このアプローチは、経済が常にその潜在能力で稼働しており、周期的変動は需要側要因によるトレンドからの乖離ではなく、技術的変化や現実のショックに対する反応であると仮定している。

純金利マージンかベース効果か?
借入によって賄われる公共投資は金利を上昇させる傾向がある。予算制約への影響(または富の効果)は貯蓄者にとっては曖昧かもしれないが、非貯蓄者にとっては明確である。貯蓄者は金利上昇によってより多くの収入を得るかもしれないが、クラウディングアウト効果によって、金利収入を得るために利用可能な民間資本が減少する可能性がある。例えば、銀行は純利鞘が高いため、高金利の時期から利益を得るかもしれない。しかし、金融市場へのアクセスがない貯蓄者以外の人々は、金利上昇とそれに伴う資本水準の低下による生産性の低下に苦しむことになるだろう。したがって、このモデルでは、公共投資の増加によって引き起こされる金利上昇の全体的な影響は、予算制約にマイナスの影響を与える可能性がある(富の効果)。


参照

DIGNAR-19 (IMF)
https://www.imf.org/en/Topics/sovereign-debt/dignar-19-toolkit

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