スタニスラフスキー『俳優の仕事』1-0(前書き)

前書き

 19XX年2月19日、私はNという街で有名な俳優であり演出家・教育者のアルカージイ・ニコラエヴィチ・トルツォフの公開レクチャーを記録するため同僚の速記者とともに呼び出された。このレクチャーは私のその後の運命を決めた。私の中に抑えられない舞台への強い欲求が生まれ、私は現在演劇学校に入学し、トルツォフその人と助手のイワン・プラトノヴィチ・ラフマノフの授業が今まさに始まろうとしている。
 私は古い生活を終わらせ、新たな道を進むことに限りなく幸せだった。
 とはいえ、過去だって何かしらの役に立つ。例えば、私の速記術だ。
 私がすべての授業を体系的に記録し、可能な限り速記したらどうだろう。そうすれば丸ごと教科書となるではないか。それがあれば学んだことも復習できる。私が俳優となったあとも、この記録は仕事が困難な瞬間のコンパスになるだろう。
 決めた。日記の形で記録していこう。

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