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学振DC体験談(人文学・社会科学の場合)

はじめに


博士課程への進学をめざす人や博士課程の院生の中には、「日本学術振興会特別研究員」(以下学振)への申請を考えている方もいると思います。申請して採択されると2年または3年の間月額20万円の研究奨励金に加えて研究費も支給されるため、大学院で研究を行ううえで大きな助けになる制度です。しかし、その分希望者も多いため、例年の採択率は2割前後にとどまっています。
申請の準備を進めるうちに、他の申請者がどう対処したのか知りたくなるちょっとした疑問や不安なども出てくるのではないでしょうか。
このnoteでは、人文学や社会科学の区分で学振DCの申請を経験したメンバーに、そうしたちょっとした疑問をぶつけて個人的な体験談を聞いてみました。人と直接顔を合わせる機会が激減し、大学院生どうしの交流もなかなか難しい状況ですが、メンバーそれぞれの体験の中で、少しでも参考になるものがあれば幸いです。
※申請の形式は年度によって変わります。最新の情報は日本学術振興会のWebサイトをご確認ください。

申請書を書く前

Q. DC1に申請したい場合、修士1年の間にやっておくといいことはありますか?
A. 申請書を作るときは、5月初めの段階でざっくりした博論の構想や研究計画を書くことになります。申請書を書き始めてから、M1の間に修士論文の準備を進めながら、それをどう博士論文につなげるかまで考えておくと良かったな……と思いました(それができれば苦労しないのですが……)。

A. M1の間から博論までの見通しを立てるのはなかなかに厳しいので、とにかく修論テーマを組み立てる上での基本的な問いを明確にすることを目指すと良いと思います。核となる問いがあれば、それを中心に今までやってきたこととこれからやりたいことの意味づけをして、(そしてある程度の着色料と添加物を加えつつ)申請書の文面をスムーズに作りあげることができそうな気がします。

A. 自分の研究にどの史料・データを用いるのかということや、それがどこに行けば手に入るのかということを調べておくと、より具体性を伴った研究計画を書けるのではないでしょうか。また、研究計画には学術雑誌や研究会などでの成果発表の計画も記すことが多いと思いますが、その際にも、具体的にどの雑誌や研究会で成果を発表する予定なのかに触れておくと、より具体的になると思います。それには、自分の研究分野に適合しそうな学術雑誌を普段からリサーチしておくことや、研究会によく出席しておくことなどが有効かもしれません。

Q. 大体いつ頃から準備を始めましたか?
A. 申請書の〆切は大学ごと、研究科ごとに違うので、人によってスケジュールは違うかもしれません。自分の場合は、3月の終わりごろから申請書の下書きを少しずつ書き始めました。4月上旬に申請者どうしの草稿検討会がありましたが、そのときは7割くらい埋めていました。コメントを反映しつつ4月中旬に枠を全部埋めた初稿を作り、指導教員の先生に添削していただきました。最終稿が完成したのは5月初めくらいです。

A. 5月半ばに最終的な締め切りがあり、1ヶ月前あたりから書き始めました。懇意の先輩に申請書を見せてもらって、それぞれの欄で求められていることからピントが外れないように意識しました。一度先輩に添削を頼み、それから同じ学科の同級生と検討会をやったのが4月末から5月頭くらい、そのころに指導教員にも一度見てもらいました。最終的には締め切りの少し前に原稿が完成した記憶があります。

Q. 参考にした本やWebサイトなどはありますか?
A. 私は殆ど先生方や先輩方からのアドバイスを参考にして書いており、本やWebサイトは用いませんでした。
 参考までに、書籍だと大上雅史先生の『学振申請書の書き方とコツ:DC/PD獲得を目指す若者へ』というものがあるようです。

A. 息抜きがてら「学振 ブログ」「学振 note」でググっていろいろな人の体験記を読んでいました。草稿を書く際には、大上先生のスライド(リンクは2022年度申請版)「Dr. クラゲさんの研究室」というYouTubeチャンネルの学振に関する動画などを特に参考にしました。


申請書作成

Q. 申請書の草稿は人に添削してもらいましたか?
A. 研究室の先輩方等に添削していただきました。このことは特に、専門分野が大きく異なる方が見て、しっかり内容を理解してもらえるかどうかといった点を考える上で、とても意義があったと思います。その他、他大にいらっしゃる専門の近い先生や、指導教員の先生にも添削していただきました。このことは、研究者の方々が、申請書の中の何を特に重視して見ているのかということを理解する上で大変重要だったと思います。

A. 申請経験者の先輩方と指導教員の先生にコメントをいただきました。いろいろな分野の先輩方に見ていただいたおかげで、ひとりよがりになっていた箇所を修正できたと思います。その一方で、別々の人から相反するコメントをいただくこともあったので、最終的にどのようにコメントを反映するかは自分で判断しました。

A. 数年前に学振に通った先輩に添削してもらえたのは大きかったです。言葉使いから形式的なことまで、たくさんのアドバイスがもらえました。

Q. 「研究者を志望する動機、目指す研究者像、アピールポイント等」って何を書けばいいですか?
A. 「動機」と「研究者像」については、私は概ね文字通りのことを書きました。内容については書く人自身によると思われます。「アピールポイント」については、これについても場合によりけりと言えるかもしれませんが、自分にどれほど研究者としてのポテンシャルがあるのかということを、その根拠も示しつつ論じたように思います。

A. 「動機」→「研究者像」→「アピールポイント」ができるだけストーリーとしてつながると読みやすいのではないかと思って書いていました。例えば、「近年世界的に広がるポピュリズムに関心をもち、○○国のポピュリズムの研究を通してよりよい政治社会に貢献したいと思った」→「自分の研究成果のアウトリーチ活動も積極的に行いたい」→「ジブン×ジンブンという活動を行った」など……。ただ、それだけでは分量が足りないので他の要素も含めながら書きました。

A. とても苦労した欄でした。他の欄と比べてそこまで論理的に書く必要はないかなと思ったので、動機や研究者像については自分語りをしました笑 アピールポイントは、思考力、語学力、コミュニケーション能力等々、一般に研究者に必要とされてそうな要素を、あたかも自分が十分に有しているかのように想像をたくましくして書きました

Q. 書く内容が割と被りがちな項目があるように思われるのですが、どう差を付けましたか。
A. 自分なりに、この項目には研究計画、この項目には研究目的、というように棲み分けを作ってしまいました。それぞれの項目についてこちらが何を書こうとしているのかが明確に読み取れるようにしておいて、全体としてみたときに求められている内容を網羅しているように意識しました。

Q. 形式面ではどのようなことに気を付けましたか?
A. 各項目で問われていることすべてに確実に答えるように気をつけました。例えば「研究目的、研究方法、研究内容」について書きなさいとあれば、それぞれ小見出しをつけて申請書のどの箇所が「研究目的」、どこが「研究方法」についての記述なのかをはっきりさせました。また、申請書のスペースが限られている中で、できるだけ読みやすさを損なわないように気を配りました。具体的には、読みやすいフォントを使う、強調したいところはゴシック体+下線を引く、箇条書きのほうがわかりやすいところは箇条書きにするなどです。

Q. 図表はどんなものを入れましたか?
A. 詳細は省かせていただきますが、私はマトリックス形式の表を入れました。その際には見やすさを考慮して、軸毎に網掛けや塗りつぶしなどを加えました。
 私が提出した当時、申請書は白黒で出すものでした。それゆえ、表上の色の違いは白黒の濃淡で出すことになりました。
 その他、自分の研究の要素を、それぞれ短くまとめた上で箇条書きにした部分もあります。

A. スペースに余裕がなかったのと、図表を作る時間的余裕がなかったので、図表は入れませんでした……。申請書の項目には図表を入れるように書いてあるので、研究内容で図表を入れにくいテーマ(人文系は概して入れにくいテーマが多いと思います)だとしても、研究計画などで図表を入れて今後の予定を示すなどの工夫は必要だと思います。

申請後

Q. 研究費の申請はどのような手続きを経るのでしょうか?
A. 1月下旬ごろに所属部局から科研費の申請についての案内が来ました。そして研究目的や年度ごとの研究計画を簡単にまとめた上で、年度ごとの研究費を計上した申請書を作成し、提出しました。

その他

Q. DC1に落ちた時の金銭面(奨学金)の当てはどのように立てていましたか?
A. 所属研究科が実施している「卓越大学院」という修博一環プログラムで研究奨励金を受け取っていたので、DC1に採用されなかった場合はそちらのお金をあてにしていました(DCに採用されると卓越大学院のお金は受給資格を失うので、「二重取り」は無し)。

おわりに


いかがでしたか?数人の体験談を集めてみると、書き方や気を配ったことなどは本当に人それぞれであることが分かります。ただ、約1ヶ月かけて申請書を作成したこと、先輩や申請者仲間を含めていろいろな人に草稿をチェックしてもらったことなど、いくつかの共通点も見受けられます。オンラインでの草稿検討会などを通して、他の研究室や他大学の院生・教員にも添削をお願いしたケースもありました。

大学や研究科によって必要な手続きやスケジュールが違う場合もあるため、それぞれの回答はあくまで個人の感想・体験ですが、もし少しでも「他の人はどう対処したのか?」という疑問解消の手助けになっていれば嬉しく思います。

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