【涙腺崩壊したことある?】図書館で借りた吉川英治『親鸞』から万札が出てきた話
「こんな本を読んでわかるんかのう?」
そんな父の独り言が聞えてきました。
私が高校生か予備校生の頃だったと思います。
小説家・吉川英治氏の代表作『親鸞』の文庫本を自分の部屋の机の上に置いていたのです。
父は仏教関係の本などを理解できるのかという意味でそのような言葉を発したのでしょう。
私は仏教に関心があったわけでもなく、親鸞も日本史で習った程度しか知らなかったし、なぜ『親鸞』の本を買ったのか覚えていません。
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吉川英治氏の『親鸞』には、親鸞を憎み執拗に嫌がらせをする山伏が登場します。
高貴な家柄に生まれた親鸞ですが、幼い時に仏門に入り厳しい修行に耐えながら立派な僧侶になっていきます。
その山伏は親鸞が子どもの頃から勝手に恨み、親鸞のみならず仲間のおんな子どもにまで危害を加えるのです。
私は本を読みながら、冷酷非道な山伏の所業に対して「なんて悪い奴だ!」と腸が煮えくりかえる思いでした。
親鸞が山伏をこらしめる日はいつ来るのか、ドキドキしながら読み進めていくのですが、親鸞はいつも山伏を赦すのです。
どんなに意地悪をされようと、仲間が酷い目にあおうと、ただただ「赦す」のです。
「なんで?なんで怒らずに赦すことができるの!?なんでそこまで赦せるの!」
それまで感じたことがないほど心を打たれて、私の目からは涙がボタボタと落ちて本を濡らしました。
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その後も、何度か『親鸞』を読みました。
親鸞が、当時の僧侶にはあり得なかった妻帯を決断するときや、師である法然上人の心の広さに感動はしましたが、涙腺崩壊まではいきませんでした。
40代で手にした『親鸞』
サラリーマンになった私は、仕事の悩みから何か救いを求めていたのでしょう。久々に吉川英治氏の『親鸞』を読みたくなったのです。
図書館で探すと高校時代に読んだ文庫本とは違う、立派な装丁の単行本しかありませんでした。
しかし高校生のような純粋さもなく、やる気なし症候群で集中力も落ちていたため、かつてのような感動もなく読み切るのがやっとという感じでした。
ただ、読んでいる途中で別々のページから1万円札と5千円札が出てきたのです。
感動は薄れたとはいえ思い出深い『親鸞』ですし、親鸞聖人について書かれた名作ですから・・・。
さすがに私も「ねこばば」するわけにいかず、図書館に本を返すときに「こことここに挟まっています」と計1万5千円を見せて伝えました。
「分りました、寄贈された方に連絡をとってみます」
と告げられたので、私も内心「正直に言っていいことしたな」なんてホッとして帰ることができました。
運命か?思わぬ展開に!
数日後、高校生の娘から聞いて驚きを隠せませんでした。
娘がお世話になっている部活の顧問の先生から
「『親鸞』の本の件でお礼に伺いたい」
と言われたらしいのです。
その週の土曜日か日曜日だったと記憶します。
わざわざ我が家まで足を運んでくれた先生によると
「母が読んでいた書籍を図書館に寄贈したのですが、しおり代わりにしていたんでしょうな。一応確認したつもりが、気づきませんでした」
とのこと。
家族による私の“株”がしばらく上がったのは言うまでもありません。
吉川英治氏、そして親鸞聖人のおかげです。
吉川英治氏の『親鸞』を読んで泣いたエピソードとその後の顛末。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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