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娘の卒業式

あらすじ

11年過ごしてきた娘の卒業式

両親の介護に疲れ
荒れていた私の元に
やってきた幼かった娘…

思えば色々なことがあったが
いちばんつらいのは反抗期だった

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他サイトでも重複掲載。
https://shimonomori.art.blog/2022/03/12/zoning/

文字数:約2,000字(目安3~5分)

※読了目安は気にせず、まったりお読みください。

※本作は横書き基準です。
 1行23文字程度で改行しています。

※大部分の句読点を省略しています。

Twitterモーメント
https://twitter.com/i/events/1502300773861916672

反抗期は訪れる
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今日は娘の卒業式だった

娘に反抗期は無いものと
長年ふたりで過ごしてきたが、
ついにこの日が訪れてしまった

なにを言っても私の言葉など
聞き入れてくれないのは
とても悲しいものだった

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娘と私は血が繋がっていない

両親の長い介護生活に疲れた私に
知り合いが紹介してくれたのが
きっかけだった

正直言って私は気乗りしなかった

当然だ。
50歳過ぎの独身男に7歳の女の子。

犯罪的な絵面だ

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初めはぎこちない共同生活だった

娘を学校に通わせている間が
安らぎのときでさえあった

家の中に他人がいることに
恐怖心さえ覚えた

しかし慣れとは恐ろしいものだ

パーソナルスペースさえ把握してしまえば
恐れることはなにもなかった

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娘に対して気をつけることがいくつかある

・プライバシーを守ること
・スキンシップを強要しないこと
・言葉づかい

特に3つ目が一番大事だ。
自分の喋り方を娘はマネをする

それがどんなに汚い言葉でも、
純粋無垢な彼女には理解できない

一番苦労した点かもしれない

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娘の前では些細な言葉にも
気をつけなければいけない

ひとりでゲームをしているときも、
わめき散らすのは厳禁だ

ゲームで負けた憂さ晴らしに、
クッションを叩く前に
ゲームを辞めた方が健全だった

決してゲームが悪いわけではない
ゲームに寄り添えない自分が悪いのだ

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見えない相手、いない存在ならば
なにを言っても良いわけではない
モノのように扱うのは愚の骨頂だ

ひとりのときでも常に相手を意識する
自分の言葉はやがて自分に返ってくる

私を見る娘の綺麗な瞳が、
そう言っているように思えた

娘のおかげで、
私は自分を見つめ直すことができた

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言葉もゾーニングされる時代だ

昔は普通に使われていた名称も、
いまでは区別され、ときには禁止もされた

若い頃は不便にしか思えなかった制約で
相手をからかう為に使ったりもした

ただ不快だから禁止されたわけではない
そこにはちゃんとした背景が存在する

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男手ひとつで育てるのは大変だった

などという発言は
差別的だと責められるので
気をつけなければいけない

大変ではない子育てなんてないだろうし、
性差で楽になることなんてまずはない

とはいえ親の心子知らず
娘は勝手に成長するのである

いまどきの子は…などとグチりたくもなる

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娘を通じて、外との世界の繋がりが増えた

介護の世界が狭かったわけではないし、
むしろ色々と助けてもらった部分も多いが
両親が去った後は、私から一方的に
途切れさせてしまったせいもある

同じような境遇のひとにも出会えた
互いの苦労話に花を咲かせることもあった

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仲良くなった友人の娘に反抗期が来た
私の娘と同い年で中学の同級生

中学校には来なくなり、
卒業式を迎えて友人との連絡は途絶えた

両親が世を去ったときのような
悲しさが思い出す

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かける言葉がなかった

自分の娘に対する恐怖心さえも芽生えた

普段交わしている挨拶も、
返ってこなくなるのは
想像するだけで恐ろしい

両親はベッドの上で苦しみ、
苦しみのあまり汚言を吐き散らした

私にはそれが染み付いてしまっている

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いまは娘を一番に考えている

彼女と出会った頃とはまるで違う
自分でも信じがたいことだった

その思いが彼女にも通じたのか、
いつものように挨拶をしてくれるし
めでたく高校まで進学した

しかしそんな日常は長く続かなかった
私はそれを知っていた

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ついに娘に反抗期が訪れた
初めは気の所為だと思った

普段よりも小さな声で呼びかけてしまった
反応しづらい言葉だったかもしれない
いまはスキンシップを望んでいないだけ

自分で自分を納得させるために
自己暗示をかけた

娘は成長はできるが劣化は免れない。

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定期検診で娘と
専門の病院に行ったときに知らされた

反抗期。

それを聞いて私はしばらく泣いていた
改めて、それがいい言葉だと思った

彼女は反抗期なので、
名前を呼んでも気づかないフリをするし
言葉をかけても気にしないフリをする
手に触れても触れられないフリをした

娘はたしかに故障した

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しかしだれかに故障などと言われたくはない
私の娘だ

大事に育ててきた私の娘を
モノのように扱われたくはない

機械人形とはいえ一緒に過ごしてきた時間を
故障のひとことで片付けられるものではない

私にとって反抗期というのは、
それほどいい言葉だった

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今日は娘の通う学校で卒業式を済ませた

彼女の映るアルバムを見る
娘と過ごした時間を思い出す

彼女はもう居ない

涙するたびに
私はもっと上手く親をやれたのでは
という後悔がよぎる

そして以前娘を通じて
出会った友人から久々に連絡があった

私は友人のアドバイスで
またひとり娘を迎え入れた

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『娘の卒業式』(c)2022 UTF.

この作品はフィクションです。

実在の人物・団体や
企業などとは関係ありません。

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