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お尻にしっぽをはやした彼女

あらすじ

お尻に生えたしっぽを見せつけてくる彼女は、
僕の性格とは反対に明るく自由奔放で、
僕はそれを眺めるだけの毎日を過ごす。

幼馴染で同じクラスにも関わらず、
住んでいる世界が違うのだと再認識をする。

でも、どうして僕に見せつけるんだろうか…?

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他サイトでも重複掲載。
https://shimonomori.art.blog/2022/04/09/tail/

文字数:約3,000字(目安5~10分)

※読了目安は気にせず、まったりお読みください。

※本作は横書き基準です。
 1行23文字程度で改行しています。

苔生す石の、裏の虫。
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プリーツスカートのうえ尻尾しっぽがある。


あかるい金色きんいろおおわれ、
白色しろいろのシマ模様もよう均等きんとうならぶ。


人間にんげん進化しんか過程かていでいつしか尻尾しっぽがなくなった。
なんてことを、ぼくおもかべたりもした。


「どうよ? ボクの可愛かわいいシッポは。」


尻尾しっぽの持ち主で、幼馴染おさななじみ彼女かのじょがたずねた。
一人称いちにんしょうはむかしのまま、『ボク』だった。


彼女かのじょ半月はんげつがたおおきなひとみ
ちいさなぼく見下みおろす。


すこたかくてまえ性格せいかく自慢じまん尻尾しっぽを、
思案じあんぼくにまでせつけてくる。


反応はんのうこまる。」


ぼく彼女かのじょ正直しょうじき感想かんそうべた。
声変こえがわりしない、へんたかこえで。


昨日きのうまでの彼女かのじょ尻尾しっぽはなかった。
わざわざスカートにあなけてまで、
尻尾しっぽやした理由りゆうがわからない。


理由りゆうがわからないので、
そんな感想かんそうしかてこない。


「あ、そう。」


彼女かのじょ普段ふだんあかるいかおきゅういろあせて、
興味きょうみをなくしてそっぽをいた。


彼女かのじょ小学校時代しょうがっこうからぼくいで、
中学校ちゅうがっこうべつ学校がっこうだったのだけれど、
高校こうこうおな教室クラスにまでなった。


少年少女時代しょうねんしょうじょじだいをおたがいにっていて、
共通きょうつうしたおもはあるものの、
おも共有きょうゆうしあうほどのなかではない。


そもそもぼく彼女かのじょ世界せかい
ってる空気くうきちがうんだとおもう。
身長しんちょうのせいだけではない。


彼女かのじょがオアシスにうつくしいとりなら、
ぼくこけす石の裏にひそむしがいいところ。
自虐じぎゃくてきだけど、むしかどうかもあやしい。


16さいになるとひと尻尾しっぽやせる。


尻尾しっぽかぎらずみみもケモノのみみにできるし、
かおごとケモノにえることだってできる。


〈ニース〉というのはそういう技術ぎじゅつだ。


新青年構想しんせいねんこうそう(New Young Scheme)。
その頭文字かしらもじって、
もちいたひとを〈NYSニース〉とぶようになった。


〈ニース〉にしたからといって、
人間にんげんめるわけではない。


容姿ようし身長しんちょう体型たいけい運動能力うんどうのうりょく
さらにはまれった性別せいべつなどの
あらゆる劣等れっとうかん軽減けいげんさせ、
幸福こうふくかんるためのひとつのかただ。


〈ニース〉の恩恵おんけいけて結婚けっこんするひとおおい。
整形せいけい手術しゅじゅつよりも手軽てがるで、リスクも一切いっさいない。


二重糊ふたえのり染髪せんぱつ感覚かんかくおこな時代じだいであり、
すぐにもともどすことも可能かのうだ。


親指おやゆび人差ひとさゆびさきをくっつけてひらくと
表示ひょうじされた〈個人端末こじんたんまつ〉で彼女かのじょ走査スキャンする。


個人端末こじんたんまつ〉には彼女かのじょ個体情報こたいじょうほううつる。
名前なまえ住所じゅうしょ、もちろん誕生日たんじょうびもわかる。


いまは個人こじん情報じょうほう秘匿ひとくする時代じだいではない。
かお手軽てがるえられる時代じだいならばなおのこと。


誕生日たんじょうび暗証番号あんしょうばんごう入力にゅうりょくするひとなんていないし、
つみおかせば三つ目サーディ機械人形きかいにんぎょう、〈キュベレー〉に
よって〈厚生局こうせいきょく〉へと連行れんこうされる。


彼女かのじょはきょう、16さい誕生日たんじょうびむかえ、
〈ニース〉の技術ぎじゅつ尻尾しっぽやした。


ぼくはそれをうらやましくおもう。


ぼくが16さい誕生日たんじょうびむかえるまで、
まだ10かげつさきだとおもえばためいきた。


つまりぼくはあと10かげつも、
いしうらごさなくてはいけないむしだ。


はやくにまれたひとはそれだけでうらやましい。
〈ニース〉によって、自分じぶんかお
きにえられるのだから。


有名人ゆうめいじん、モデル、となり人気者にんきもの、さらには動物どうぶつあたま


〈ニース〉を使つかえば、もはや性別せいべつさえも
にする必要ひつようがなくなる。


〈ニース〉な彼女かのじょはといえば、尻尾しっぽをふりふり。


本来ほんらい人間にんげん尻尾しっぽはない。
それを無理むりやりにうごかすのも、
〈ニース〉の技術ぎじゅつがあってこそだ。


〈ニース〉の技術ぎじゅつによって
形状けいじょうえるだけの〈デザイナー〉から、
身体能力しんたいのうりょく向上こうじょうさせる〈パフォーマー〉になった。


ぼくにおしりせて、尻尾しっぽおおきく左右さゆうった。


「どうよ?」


ふつ連続れんぞく自慢じまんされた。


羨望せんぼう眼差まなざしがバレたのかともおもったが、
そうでもなかったので、また
そっけない感想かんそう彼女かのじょをあしらう。


「あぁ、誕生日たんじょうびおめでとう。」


「えっ、うん…ありがとう。」


と、彼女かのじょはなぜかれくさそうにするので、
おどろいたぼくさらにした。


はらうようにうのも失礼しつれいおもったので、
にちおくれで誕生日たんじょうび祝福しゅくふくしたらこの反応はんのう


尻尾しっぽせびらかすために、
しりけてくる彼女かのじょは、いまさらになって
尻尾しっぽと一緒に羞恥しゅうちしんでも芽生めばえたのだろうか。


そんな彼女かのじょ学校がっこうでよく告白こくはくされる。
〈ニース〉のおかげで、されるようになった。


旧時代的きゅうじだいてきなラブレターが学校がっこうない流行はやっていて、
彼女かのじょはそれをにして学校がっこうじゅうをフラフラしている。


もとからひとかれる性格せいかくなのもあるだろう。


高校こうこうデビューからひとあしはやく〈ニース〉で、
自己実現じこじつげんたした彼女かのじょ大勢おおぜい魅了みりょうされた。


〈ニース〉で修正しゅうせいするまでもない端整たんせい顔立かおだちに、
ほそ身体からだはほどよくまっている。


男女だんじょともに人気者にんきもので、彼女かのじょもわけへだてなくせっする。
彼女かのじょとはべつ世界せかいぼくのようなべつ種族しゅぞくは、
そうした行為こういこのまない。


相手あいて善意ぜんい好意こうい勘違かんちがいするからだ。
チョロいやつだとおもわれたくはない。


あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。
彼女かのじょはどこへっても尻尾しっぽってよくわらう。


だれ特定とくてい相手あいてがいる様子ようすもなく、
尻尾しっぽって、相手あいてるのだ。
それがよくわからなかった。


彼女かのじょびはつめたく、
ける好意こういきわめてあさい。


しかしそれをけた周囲しゅうい反応はんのうが、
悪意あくい敵意てきいわるわけでもない。


普段ふだんどおりの、自由奔放じゆうほんぽう性格せいかくだからこそ、
みなひとしく彼女かのじょいているのであろう。


ぼくには彼女かのじょのようなマネはできない。


そんな彼女かのじょがこんなぼく
ちょっかいを理由りゆうもわからない。


こんな日陰ひかげむしぼうでつつくような趣味しゅみは、
彼女かのじょ好奇心こうきしんによるものだろうか。


「ネコの尻尾しっぽけたなら、
 みみけないのか?」


と、尻尾しっぽせつける彼女かのじょぼくはたずねた。
彼女かのじょならなんでも似合にあいそうなものだ。


けてしいの?」


「そんな趣味しゅみはないよ。」


と、話題わだいったぼくが、要望ようぼう否定ひていした。
〈ニース〉であれば、かおごとネコにもできる。


ぼくが16さいになっても、
きっとそんな姿すがたにはしないだろうな、とおもう。


いまのぼくのぞむのは、いまとは真逆まぎゃく姿すがただ。


でも彼女かのじょはこうった。


「だよね。だって、キミって、
 いつもボクのおしりてるじゃん。」


「えっ?」おもわぬ言葉ことば動揺どうようかくせなかった。


「ボクとはあんまりわせてくれないけど、
 いつもおしりってるの、まるわかりだよ。」


彼女かのじょ言葉ことばぼく羞恥心しゅうちしんで身体があつくなる。
そんなに露骨ろこつていたことにづかなかった。


「いや、それは…。」


下心したごころがあったわけではない。
否定ひていしようにも言葉ことばまる。


「ボクがシッポをけるまえからだよね。」


彼女かのじょとおり。


「…そうだよ。」かきえそうなほどちいさなこえだ。


ぼくはずっと彼女かのじょのおしりていた。


プリーツスカートの似合にあうおしりのライン。
それがぼく釘付くぎづけにした。
ねんすが、下心したごころがあったわけではない。


「ちゃんとおんなみたいにえる、
 きみうらやましかったんだよ。」


吐露とろした心情しんじょうともに、
なかのものまでしそうだった。


ぼく彼女かのじょかたうらやんでいた。
男子だんしなのに女子じょしとしてごすことができて、
びとしている姿すがたぼくれいにもれず
心奪こころうばわれていた。


ぼくもそうありたいとおもっていたが、
〈ニース〉がなければそれは絶対ぜったい実現じつげんしない。


女子じょしぼくには、彼女かのじょのように
まれった性別せいべつ関係かんけいなく
きる勇気ゆうきがなかった。


「そうなんだね~。
 ボクきらわれてなかったんだ。」


彼女かのじょかおがほころぶ。
半月はんげつがたが、こけいしうらからてきた
むしつけてよろこんでいる。


「ん~、これってもしかして、相思相愛そうしそうあい?」


「ちがうからっ!」


ぼく誤解ごかいけるのはきっと、
10かげつ以上いじょうあとになるだろう。

(了)

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