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トンガリ '23

お勉強はできたし見てくれも良かったので、あまり屈託のない人生を過ごしてきたし、世界は自分を中心にまわっていると感じたときさえあった。挫折を知らない奴はだめだとよく言うけれど、ただの負け惜しみだと思っていた。しかし、夏の終わりに蝉は知る。プライドの柵を越えようとしなかっただけだと。転職も留学もギター教室も全部そうだ。挫折が怖くて逃げた。その結果、家族愛を借景にギリギリの汽水域で生きている。僕が踊れる舞台はもうここだけかもしれない。この服にポケットはない。しかしウィルヘルムは叫ぼう。嘘を心底信じることこそが人の業であろう。幸せに使役されて何が悪い。すっぱい葡萄を探すことの何が罪か。君は僕でないという一点だけで美しい、そう子に伝えたい気持ちは諒なはずであろう。肯定と否定を行き来する、その間しか見えない虹があってもいいだろう。この美しく完結した世界だけは守りたい。僕は少しはマシな人間になったのだろうか。

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